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62 この世界のスライムは天才ばかりか?

色々と考えた末、先ずは一番使い慣れている光魔法を組み込んだ懐中電灯を作る事にした。

って、どんな魔法陣を描けば良いんだ?

魔導具は魔石の持つ魔力を魔法陣によって吸い上げ、魔法を発動させる魔法陣によって魔法へと変換する、って図書館で読んだ本に書いてあった。

吸い上げの魔法陣は本に書いてあったけど、光魔法を発動させる魔法陣はどの本にも載っていなかった。

毎日天井灯として使っているライトの魔法だが、イメージだけで発動出来るから、魔法陣なんて意識した事も無い。

判らない時に頼りになるのはレイ先生。

助けてぇ~、レイ先生。



「レイは光属性の魔法を発動させる魔法陣って知ってる?」

「知らん。 光属性については謎じゃ。」

「勇者の書いた魔法陣は、光属性じゃないの?」

「4大属性の魔法陣を漢字で効率化した物じゃった。 光属性では無かったぞ。」

「光属性の魔法陣はどうやったら描けるの?」

「先ずは4大属性の魔法陣を描けるようになるのが先じゃ。」

「そうなの?」

「魔法陣の基礎知識が無ければ、魔法陣は描けぬ。」

「確かにそうだね。」

「先ずはこの本じゃ。 この本をしっかりと読んでみよ。」

「うん。」



レイが本を1冊貸してくれた。

レイが以前から使っていた魔法袋には沢山の本が入っているらしい。

レイが貸してくれた本のタイトルは、“スライムでも判る魔法陣入門”。

俺の頭はスライム並みなのか?

馬鹿にされたように感じ、ムッとしながら本を開いた。

いきなり1頁全面に魔法陣が描かれていた。

魔法陣の外に書かれている文字は、”基本の魔法陣“と書かれた1行だけ。

魔法陣に使われている文字も表意文字・表音文字が入り混じっているし、言語理解でも意味不明な象形文字まで使われている。

じっと魔法陣を睨み付ける。

1文字1文字を丁寧に読み解こうと頑張った。

「判らん!」

思わず怒鳴ってしまった。



1頁目を諦めて、次の頁を開く。

次の頁も全面が魔法陣。

魔法陣で使われている文字も前の頁同様に無茶苦茶。

魔法陣の外に書かれている文字は“効率的な魔法陣”と書かれた1行だけ。

判るかぁ~!

これのどこが“スライムでも判る”、なんだ?

この世界のスライムは天才ばかりか?

「判らん!」

ムカッとして、レイの顔を睨みながら吐き捨てる様に怒鳴った。



「やはりショータでも判らぬか。」

「ショータでもって、どういう意味だよ?」

機嫌が悪いので喧嘩腰に返事をする。

「儂が魔導具作りを始めようと思った時、最初に読んだのが露天商で売っていたこの本じゃ。 ところが、読んでみたら内容が全く理解出来なかった。 本の通りに魔法陣を描いて魔力を流してみても何も起こらなかった。 儂はスライム以下かとショックを受けて、それから真剣に魔法陣の研究に励むようになった思い出の本じゃ。」

「はあぁ~!」

レイにも判らなかったって?

「レイに判らない本が俺に判るなんて筈無いだろうが。」

「いや、ショータならひょっとして判るかも知れぬと思って見て貰った。 言語理解を持っているショータにも判らぬと聞いて安心したわい。」

“安心したわい”、じゃねえ。

そんな本を俺に見せるな。

俺はスライム以下かと、めっちゃ落ち込んだんだぞ。

「レイは俺を何だと思っているんだ?」

「前にも言ったでは無いか、極めて希少な研究素材じゃ。」

断言されてしまった。

俺の扱い、雑になってねぇ?

ぐぬぬ。



目の前には、魔法陣の描かれた沢山の紙が並んでいる。

「これは儂が集めた、魔導具に使われている魔法陣のコレクションじゃ。」

「魔法の発動には魔法陣なんて使わないのに、どうやって魔法陣を考え出せたの?」

「最初の魔法陣は、魔力視のスキルを持った高位の魔術師が、魔法を発動した時に偶々発動の瞬間に現れた魔法陣を目撃した事から生まれた。」

「そうなんだ。」

「一瞬で消えてしまう魔法陣を、何度も魔法の発動を繰り返して、少しずつ写し取ったと言われている。」

「1瞬で消えちゃうんだ。」

「全ての魔法は、発動の瞬間に魔法陣が現れている。」

「全ての魔法?」

「魔法陣を視る事が出来るのは、魔力視のスキルを持つ高レベルの者の中でも魔法練度が極めて高い者だけじゃ。 それでも、意識して視ようとしなければ、魔法陣は視えぬ。 現れるのはほんの一瞬じゃからな。」

「レイは見えるの?」

「勿論じゃ。 アンデッドには幾らでも練習する時間が有るでのぅ。 ショータも意識すれば視える。 治療中は常に魔力視を発動しておるから、練度も相当高くなっておる筈じゃ。」

治療室で回復を使う度に、俺が魔力の流れを確認している事に気付いていたようだ。

「どうしたら視えるの?」

「魔法陣が発現する位置は人によって違う。 ショータの場合はこの辺りじゃ。」

レイが俺のおでこの斜め上に骨を、いや手を翳した。

「レイには見えたの?」

「一瞬だけこの辺で光ったのが見えた。 魔法陣の文字を読めるのは発動者だけじゃが、注意しておれば魔法陣の現れる場所は判る。」

「うん、やってみる。」

レイが指示したあたりに視線を向け乍ら魔力を練る。

「浄化!」

部屋の中がボワッと光る直前、おでこの前に魔法陣が見えた。

「見えた!」

1瞬なので文字までは判らなかったけど、魔法陣ぽい模様が見えた。

「そうか。」

レイが珍しく嬉しそうにしているので、ちょっと不安になる。

「この魔法陣を描き写して、魔力を流せば魔法が発動するの?」

「その通りじゃ。」


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