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57 レイは俺を何だと思っているんだ?

“勇者の男は、1日に何度も子種を放てると文献に書いてあったが、本当か?”

勇者の下半身事情まで文献に書かれているのか?

レイの言葉を聞いて驚いた。

“何度もでは無いけど、若い男なら数回は普通かな。 俺はまだ子供だから無理だけど”

この世界に来てからは、まだそうした感覚になった事が無い。

”その割に、ショータはいつも女性の乳や尻に視線が向けているぞ“

レイには俺の視線が何処を向いているのかがバレているようだ。

”この世界に来る時に10歳の体になったけど、元は大人だったから?“

体が10歳になったせいか、身体的な性的興奮状態になった事は無いが、すけべえ心は前世のままらしく、女性の胸を見ると嬉しくなる。

この世界に来て初めて見た女性は、怪我をしたブンさんだったけど、おっぱいをガン見して冷たい目で見られた覚えがある。

”ふむふむ、勇者は性者でもあると書かれていたのは本当じゃったか“

Oh, when the saints go marching in、有名なジャズソングが頭に浮かんだ。

性者が街にやってくる、って違うだろ。



“異世界の基準では、ショータが特別に性欲の強い男という訳ではないのじゃな”

うっ、思わず答えに詰まる。

前世の俺については殆ど思い出せていない。

ササヤカお神が“すけべえ“と言っていたし、おっぱいが大好きなのも事実。

ただ子供の体になったせいなのか、剣と魔法が楽しすぎるせいかは判らないけど、性欲を意識する事は少なくなった?

でも女性の怪我人が来た時は意識してしまうな。

特におっぱいには必ず目が行ってしまう。

これって性欲が強いって事?

判らん。

俺が考え込んでいる前で、レイが何故か頷いた。

“どうやら勇者の基準では、ショータは突出して性欲が強い訳では無さそうだ。 それでも女性への関心がこれ程高いとは驚いた。 この世界の男に比べれば変態と言って良いほど勇者の性欲は強いらしい。 ショータのお陰で、勇者の子孫が異常に多い理由が良く判った。 これは興味深い発見じゃ、これからも色々と教えてくれ”

どうやらレイは俺を女好きの変態と認定したらしい。

“レイは俺を何だと思っているんだ?”

一応聞いてみた。

”極めて希少な研究素材に決まっておるじゃろうが“

「ソウデスカ。」

変態では無く、珍獣判定だった。



拘束を発動出来るようになったので、ひたすら反復練習に励んだ。

相反する魔法の反復練習をすれば早く練度が上がるとレイが教えてくれたので、俄然やる気が出ている。

“結界“ ”拘束” “結界“ ”拘束” “結界“ ”拘束” “結界“ ”拘束”

“結界“ ”拘束” “結界“ ”拘束” “結界“ ”拘束” “結界“ ”拘束”

毎日の練習メニューをこなし乍ら、同時に結界と拘束の反復練習をするようにしている。

幸いにも俺の結界と拘束は無色透明。

結界を張っても気付かれないから、訓練場での運動中や、治療のちょっとした空き時間にも練習が出来た。

発動時間がどんどんと短縮され、魔力消費量が少なくなっていくのが感じられる。

なかなか進歩を感じられない地味な練習が多い中で、練度の上昇を体感できる練習はめっちゃ楽しく感じられた。



夜、部屋でくつろぎながら、遠視と遠聴についてレイに聞いてみた。

「遠視と遠聴ってどんなイメージなの?」

「うむ、目や耳を遠くに飛ばすイメージじゃ。」

「遠くに飛ばす?」

「見たい物や聞きたい音のすぐ近くに目や耳があれば、見えるし聞こえる。 今居る場所を意識してしまうと、途中にある物や音に邪魔されて遠くは見えないし、聞こえない。」

眼や耳を飛ばす?

途中の景色や音を無視して、目的の場所の景色と音だけを拾う。

・・・カメラとマイクが付いたドローンを飛ばす感じ?

ヘッドフォンを着けて音声を聞きながら、ドローンのカメラ映像を見ているイメージを作る。

ターゲットは2m程離れた絨毯の上でゴロゴロと転がっているベロ。

ベロの向こう側にドローンを飛ばして、ベロの顔を反対側から見ながら転がる音を間近で聞くイメージ。



どうしても目の前に見えているベロの姿や、ここまで聞こえている微かな音を意識してしまう。

今は僅か2mだけど、イメージさえ作れればもっと遠くでも見えるし、聞こえる筈。

先ずはイメージし易い距離で魔法を発動する事が、魔法開発の第一歩だ。

何度もイメージを作り直して試してみる。

練習を始めて4日目、少しずつ感覚がつかめて来た感じがした。

7日目、俺の座っている場所の反対側からベロの顔が見えた。

音もはっきりと聞こえている。

「やった~!」

新しい魔法を発動出来た時の達成感は半端じゃない。

夜だというのに、思わず大きな声を上げてしまった。

ベロが驚いて立ち上がり、じっと俺を見ている。

「おう、出来たか。」

レイが声を掛けて来た。

「うん、向こう側からベロが見えた。転がる音もはっきり聞こえたよ。」

「その感覚を覚えているうちに、何度も発動してみろ。」

「うん。」

この感覚を忘れない様に、何度も遠視と遠聴を発動させてイメージを固めた。



翌日からはギルドの訓練場で、遠視と遠聴の練習。

“どうじゃ?”

“うん、かなり離れていても出来るようになった”

”練度が上がれば、壁の向こうでも見えるようになる“

“そうなの?”

“重要な会議を外でする者は居らぬ。 家の中が見え、会話が聞こえ無ければ、遠視と遠聴を習得しても意味が無いではないか”

“それはそうだね“

“十分に練度が上がれば、家の奥にある風呂場も見えるようになるぞ”

えっ、そうなの?

思わず身を乗り出しそうになって慌てて踏ん張る。

見たいかと言えば見たいけど、覗いちゃいけない位の常識はあるぞ、たぶん。

偶々、偶然、何かの拍子に見えちゃった時は仕方が無いけど。

“レイは俺を何だと思っているんだ?“

“おっぱい星人?”

”はぁあ? どこでそんな言葉を覚えたんだよ“

”勇者の自伝に書いてあった。 ショータの様に女の乳ばかりに目を向ける男の事であろう?“

いつの時代の勇者かは知らんけど、そんな事を自伝に書くな。

“まあそうだけど、・・・“

“お嫌いですか?”

”お好きです。 ってそれも自伝に書いてあったのか?“

”これは勇者の側近が書き記した勇者物語の1節じゃ“

「はぁ。」

思わずため息を吐いた。



”勇者が遠視で風呂を覗いておったという記録が幾つかある。 殆どの男の勇者は、女の裸が好きであったようじゃ。 ショータも女の裸は好きであろう“

“まあ否定はしないけど・・・。 そうだ、女の勇者はどうだったの?“

何となく立場が悪くなりそうなので、話題を女性に変えた。

“それが良く判らぬ。 婿を1人しか迎えなかった勇者が多いと言われておる”

”異世界は男社会だったし、結婚は1人だけという法律があったからね“

“ほう。 異世界にはおかしな法があるのだな”

そうか、女性社会であるこの世界の常識では、前世の倫理観は理解出来ないかもしれない。

一夫一婦制はキリスト教の考え方で、日本に定着したのも江戸時代以降だった。

イスラムや部族社会では、いまだに一夫一婦制で無い地域もある。

どちらが正しいとか間違っているという問題では無いのだろう。


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