49 Sランクは伊達では無い
お星様を頂きました。
拙い作品なので、評価を頂けるのはめっちゃ嬉しいです。
ブクマも頂きました。
年末が近づき本業が忙しくなって来た頼運ですが、皆様に読み続けて頂けるように頑張ります。
これからも宜しくお願い致します。
頼運
ベロは時々ベルンの灯と模擬戦をしている。
模擬戦なのでベロが得意な咬みつきは無しだけど、子犬になってもベロはめっちゃ強い。
ベルンの灯が4人掛かりでも、動きの早いベロには攻撃が全く当たらない。
俺の剣や回復弾など、ベロならあくびをしながらでも躱せそう。
ちょっとでもベルンの灯が隙を見せれば、体当たりや頭突きですぐに跳ね飛ばされる。
尻尾の蛇さんが、ベンさん達の顔をペチッと顔を叩く事もある。
めっちゃ軽く叩いているから、遊ばれている事が丸わかり。
「くそぉ~!」
蛇さんは、叩かれたメンバーが本気で怒るのを見るのが好きらしい。
メンバーが怒ると、体をクネクネさせて喜んでいる。
蛇さんが人間なら、“や~い、や~い”とか言ってそう。
最初は軽い模擬戦というよりも、じゃれ合いっていう感じだった。
今はベルンの灯の全員が全力でベロに挑み、ベロに軽くあしらわれている。
万が一ベロが死んでも、再召喚すれば生き返ると教えたから、安心して全力攻撃している。
ベルンの灯にとっては本気で戦える、良い練習相手らしい。
それでもベロには掠り傷1つ付けられない。
子犬サイズにはなったものの、Sランクは伊達では無い。
小さくなったので弱くなったかと心配していたが、ベロの強さは規格外だと判った。
小さくなってもこの強さ、元の大きさだったらどれほど強いのか想像も出来ない。
元伯爵屋敷で出会った時に戦いを挑まなくて良かった、心からそう思った。
回復弾も色々と試行錯誤しながら練習してはいるが、射程距離は伸びたものの、威力や貫通力については狭い訓練場では試せないので良く判らない。
的には当たるようになったが、的がボワッと光って綺麗になるだけ。
俺が練習用に使った的はどれもピカピカに光っている。
回復弾は人間相手だと相手を回復させるだけなので、威力を試す事が出来ない。
魔獣相手に試したいけど、魔獣と戦うのは危険すぎる。
魔獣と戦うのはまだまだずっと先。
何よりも大切なのは安全。
命を守る為の訓練で危険な事をするなんて有り得ない。
でも、進歩が判らないと、モチベーションが上がらない。
練習法を変える必要性があるように感じた。
治療室にはいつも通り20人前後の怪我人が来る。
怪我人はもっと多いのだが、教会やポーションに比べれば10分の1の安さだけど、低ランク冒険者にとっては銀貨2枚でも結構痛いらしい。
軽い傷ならそのまま我慢するのが当たり前だと、冒険者のおっちゃん達が言っていた。
治療費は安いけど、ギルドの中は安全だし、宿代も食事代も掛からないから毎日4万円前後の貯金が出来る。
1ヶ月で100万円以上の貯金が出来る生活なんて夢のよう。
治療費が他の治療所より安くても俺に不満は無い。
安全はお金よりも大事。
「竜滅が小便で倒した悪霊に、大神国から来た枢機卿様や大神官様達が手も足も出ずに倒されたそうだ。」
「いやいや、枢機卿達の方は竜滅が倒した悪霊よりも弱い悪霊だったらしいぞ。 弱い相手なのに高位の神官7人で突入して全滅だったらしい。」
「竜滅はもっと強い悪霊を相手に、たった一人で挑んでほんの数時間で全て倒したのにな。」
「神官の治癒魔法よりも、街の治癒師の方が腕前は上らしいぞ。」
「そうそう、神官達が4日でケツを割った大規模討伐の時も、最後まで怪我人の治療をしていたからな。」
「枢機卿があの程度なら、神官の腕が悪くても当然だな。」
「魔法は体力を使うから痩せるって言うけど、高位の神官はデブばっかりだよな。」
「そう言えば、魔法使いは皆痩せているな。」
「何で神官はデブが多いんだ?」
「下位の神官は痩せているぞ。 偉いさんはデブばかりだけどな。」
「偉い神官は碌に魔法の訓練もせずに、贅沢なものを喰って昼寝ばかりしているらしいぞ。」
「そりゃあ太る筈だ。 立てば水甕、座ればカマド、歩く姿は寸胴鍋だな。」
「ハハハ、確かにその通りだ。 しかも威張っているしな。 金を払うのは俺達なのに。」
「腕が良ければ威張っても良いが、タケノコが威張るな、ってんだ。」
あちこちで教会の悪口が声高に話されている、と冒険者のおっちゃん達が言っていた。
ベロ好きのおっちゃん達が治療室にたむろするようになったので、最近は街の色々な情報が聞けるようになった。
「ショータ、部屋を替われ。」
突然熊に呼び出され、一方的に部屋を替わるよう通告された。
何となく機嫌が悪そうな顔をしている。
「今の部屋じゃダメなの。」
「ダメだ。」
まだまだ実力が付いていない今、職員寮を追い出されるのは危険すぎる。
熊に食い下がった。
「何で?」
「ギルド本部からクレームが来た。」
「ギルド本部から?」
思ってもいなかった所からなので、何故なのかが想像もつかない。
「Aランク冒険者を、職員寮の狭い部屋に住まわせるとは何事だ、と俺が怒られた。」
「はあ?」
意味が判らない。
「Aランクは侯爵待遇だと前に教えたな。」
「うん。」
「ギルド本部長に、侯爵閣下を独身職員用の粗末な部屋に入れるとは何事だと怒られた。 ギルドの偉いさんが来た時に使う広い部屋があるから、そこへ移れ。」
熊の機嫌が悪いのは、ギルド本部長に怒られたかららしい。
「はあ。」
職員寮を追い出されるのでは無かったから、ちょっと安心。
俺としてはこの街に来てからずっと住んでいた部屋なので、慣れているから狭いと思った事は無い。
でも、今はベロも居るから、もう少し広い部屋の方が有難いのは有り難い。
「家賃とか取られるの?」
問題は宿泊料。
今の部屋はタダでも、偉いさん用の広い部屋ならかなりの金額になるかも知れない。
今迄は治療料を丸々貯金できたけど、これからは難しくなりそうな気がした。
不安がちょっとだけ頭をよぎる。
「家賃はいらん。 ギルドで治療してくれる治癒師や回復師の宿泊は無料という決まりがある。」
“宿泊無料“は偉いさんの泊まる部屋でも適用されると判って一安心。
タダで広い部屋に泊まれるのは、俺にとってラッキー以外の何物でもない。
「だったら替わる。」
即答した。
タダのままなら広い方が良いのは当たり前。
熊の指示通り、部屋を替わる事にした。
案内された部屋は、2階廊下の奥にある部屋。
職員寮は、廊下を挟んで左右に1つずつ部屋があるが、廊下の先にある奥の部屋は突き当り全体が広い部屋になっている。
入って見ると、今迄の3倍以上の広さがあって、寝室とリビングが別の部屋に分れていた。
リビングの窓には奇麗な板がついていて、隙間風が入る事もなさそう。
綺麗な板を押し上げると、周囲の街並みが良く見えた。
風呂もトイレも部屋の中にある。
今は真冬なので、トイレが部屋にあるのは有り難い。
寒い朝に暖かいベッドを出て寒い廊下を歩いてトイレに行くのは結構辛かった。
寝室に入ってみる。
大きなベッドがドド~ンと置かれていた。
流石に天蓋までは付いていないが、大きいのでベロと一緒でも悠々と寝られる。
最近はベロを抱き枕にして寝るので、大きなベッドは有り難い。
「ワウ、ワウ(良い部屋である。気に入ったぞ)。」
ベロも喜んでくれた。
うん、Aランクに成れて良かった。




