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46 女の子にキャーキャー言われるのが好き

「で、このケルベロスが召喚獣になったという事か。」

「まあ、そういうこと?」

熊への報告は、“バンバン範囲回復を唱えていたら、悪霊がいなくなっていた“、と言う説明で押し通した。

白金貨10枚、前世の1千万円でもワタワタしてしまうのに、2万枚、200億円なんて想像もつかないからどうでもいい。

前世なら幼稚園の友達とか、いとこのはとこの友達とかから、奢れとか小遣いを寄こせとか投資しろとかのメールが来るに決まってる。

この世界は貴族が威張っているからもっとひどい事になりそうな気がする。

大切なのは、お金よりも安全。

有難かったのは、元伯爵屋敷には古代遺跡から発掘された魔法袋があった事。

屋敷の家財を回収するためにギルドから派遣された職員が見つけてくれた。

容量も大きいので、俺の無限収納を隠すための良い隠れ蓑になる。

可愛いベロが召喚獣になってくれたし、魔法袋も手に入った、それだけでも十分な報酬だ。

公爵が文句を言ったら報酬の白金貨を辞退すれば良い。

公爵は嫌いだけど、一応この街の領主だから揉めたくはない。

お金に汚い公爵だから、報酬を辞退すれば文句は言わないだろうと思った。



「公爵から依頼完了の報酬が振り込まれた。」

「揉めなかった?」

「俺も多少は揉めると思った。 金の亡者の教会がごり押しして依頼料を釣り上げたせいで、こんな大金になったらしいからな。 1介の冒険者としては破格の報酬だ。」

「そうだったんだ。」

余りにも報酬が多いと思ったら、教会が引き上げさせたせいだった。

「いくら何でも依頼の報酬が白金貨2万枚は多すぎだ。 普通なら1万枚だろうな。」

「はあ。」

白金貨1万枚は前世の100億円。

それでも多すぎるぞ。

「金額を多くすれば民衆が注目するから名誉挽回が出来るし、何よりも儲かると教会側は判断したらしい。 大陸でもトップクラスの実力を持つ枢機卿2名を派遣するのだから、報酬を弾むのは当然だ、と公爵に圧力を掛けて報酬を引き上げさせたそうだ。」

「はあ。」

教会のする事は訳が分からん。

「その挙句が、ショータは僅か数時間で討伐完了。 教会の討伐隊は未だに成果を上げられずで、教会の面子は丸つぶれ。 公爵は今ショータへの報酬を支払えば、教会が未だに討伐出来ていない事が明らかになって、教会の評判が更に落ちると考えて直ぐに支払ったのだろう。」

色々と事情があるようだけど、Sランク神獣のベロを召喚獣にした事は全く問題にならなかったようでホッとした。

「ともかく大金だから、ショータが持ち歩くのは危険だ。冒険者ギルドに口座を作れ。」

「口座?」

「ギルドカードを出せば、どこの冒険者ギルドでも引き出す事が出来るから便利だぞ。」

治療の報酬はギルドのカウンターで毎日現金払いしてくれるけど、今回は大金なのでギルドに口座を作って、そこに入れた方が良いらしい。

むりやり銀行口座を作らせる宝くじの高額当選金と同じ?

ショータ名義のギルド口座を作る事になった。

この街から出る気は無いから他所のギルドに行く事も無いが、口座は有り難い。

大金を身に着けていなければ襲われる可能性も低くなる。

というよりも、身に余る大金は危険なので口座に入れたまま塩漬けにするつもり。

あぶく銭で人生を狂わせた人が大勢いる事は知っている。

俺は身の丈に合った生活しか出来ない小市民。

大金を貰った事は忘れる事にした。

ギルドで貰える日払いの賃金を、将来の為にこつこつと貯めるのが俺の生き方。

偶然手に入れた大金で生き方を変えるのは絶対にダメ。

治療院を開くのは、コツコツ貯めた日払い治癒料が開業資金に達してからだ。



最初はベロを怖がっていた受付嬢達も、ブンさんが嬉しそうにベロをモフるのを見て恐る恐る手を伸ばし、その手触りに一瞬で魅了された。

今ではカウンター業務の休憩時間になると治療室に来てベロをモフっている。

ベロは長い間一人ぼっちだった。

3つの頭同士でしか話をしたことが無かったので、賑やかなギルドが気に入ったらしい。

小さな体になったせいで、人間の言葉は判るものの、人語を話す事は出来なくなっている。

可愛い子ぶって、子犬の鳴き声を真似して冒険者や受付嬢の機嫌を取っている。

目的は時々貰える干し肉やお菓子。

召喚獣なので俺の魔力があれば生きて行けるのだが、肉やお菓子を食べるのも好きらしい。

食べ過ぎたら、また太るよ。



「きゃっ!」

「キャン。」

「もう、ベロちゃんたら、いたずらっ子なんだからぁ~。」

今日の報酬を貰おうとズンさんの列に並んでいたら、受付嬢の笑い声が聞こえた。

いつの間にかカウンターの裏側に回り込んだベロが、受付嬢の足元に潜り込んだらしい。

最近のベロのお気に入りは、受付嬢のスカートの中に首を突っ込んで足を舐める事。

女の子にキャーキャー言われるのが好きらしく、俺がカウンターに行く度に裏側に潜り込んで受付嬢の足を舐めては悲鳴を上げさせている。

俺も女性にキャーキャー言われたいとちょっとだけ思うけど、ベロのしているのは只の痴漢行為。

それでも笑って許されるから凄い。

俺がやったら絶対に受付嬢総出でタコ殴りにされる。

忘れてはいけない、この世界の女性は強いのだ。

「えっと、いつもごめんなさい。」

謝るのは主である俺の仕事。

はぁ。



熊に呼び出された。

「指名依頼だ。」

嫌な予感しかしない。

「はあ。」

「大神国から来た2人の枢機卿とベルンの大神官、同行した司教4名の7名が、悪霊討伐に向かった屋敷から戻って来ていない。」

枢機卿2人は、大陸有数の浄化魔法の使い手だったんじゃないのか?

「はぁ。」

溜息しか出ない。

「枢機卿達が悪霊退治の為に屋敷に入ったのはショータが悪霊退治を成功させた翌日だ。どうやらショータが悪霊退治に成功した事を知って、碌に準備もせずに慌てて屋敷に突入したらしい。 枢機卿2名、大神官、司教4名の7人パーティーで、サポート役の神官達に守られながらエントランスホールを強引に突っ切り、正面の大階段を登った。 そこ迄はサポート役の神官達が見ていたらしいが、襲って来た悪霊達を抑えきれずに神官達は撤退したから、その後の事は全く判らないそうだ。」

「はあ。」

「屋敷に入って既に10日。 教会の聖騎士や神官が何度か救出に向かったが、毎回エントランスホールで悪霊に阻まれ、ほうほうの態で撤退したそうだ。」

「はあ。」

「条件は前回と同じだが、教会関係者の遺体と遺品は教会に渡して欲しいそうだ。」

「前回の報酬って、教会が吹っ掛けたから高いんじゃないの?」

「その辺は俺にもよくわからん。」

「う~ん、気が進まないかな。」

「まあそうだろうが、公爵閣下の依頼だからな。」

「帰って来た時に、俺が枢機卿達を殺したとかになりません?」

ササヤカお神に会っているのだから、神様の存在は判っている。

判っているのに、何となく宗教関係の話は信用出来なくて嫌い。

「・・・それは有り得るか。 ・・・1ヶ月位待って、文書で確約を取ってからの方が良いかもしれんな。」


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