39 いくら何でも、ご都合主義過ぎる
ブクマありがとうございます。
これからも読んで頂けるように頑張りますので、宜しくお願い致します。
頼運
熊に呼ばれた。
「見習いカードを出せ。」
「うん。」
見習い冒険者のカードを出した。
「ここに血を1滴落とせ。」
熊にナイフを渡された。
訳が分からなくて熊の顔を見る。
やっぱり熊だ。
「いいから言う通りにしろ。」
仕方が無いので小指の先切って、箱の様な機械に乗った小さな皿の様な窪みに血を落とす。
直ぐに回復で傷を治す。
痛いのは嫌い。
熊が機械を操作している。
「良し、出来た。 これがショータの新しいギルドカードだ。」
熊が箱の下から金色のカードを取り出し、裏表慎重に確認してから俺に差し出した。
今迄の名札みたいな木のカードと違って、金色に光る薄い金属のカード。
めっちゃキラキラしているから、着けるのはちょっと恥ずかしい。
カードを見ると、中央に大きくAと書かれている。
「どゆこと?」
「ショータは大陸冒険者ギルド本部から正規の冒険者と認められた。ランクはAだ。」
な、なんだってぇ~。
主人公がギルドランクの飛び級で妬みを買うのは、ファンタジー小説のお約束。
絡まれイベント発生の未来しか見えない。
「いらん。 元のカードをくれ。」
1ランクの飛び級でも妬まれる。
見習いからいきなりAランクなんてご都合主義の小説でも有り得ない。
いや、めんどくさいのが嫌いな運に頼ってばかりの低辺作家なら有り得るか。
「ショータは目立つのが嫌いだから、昇級を嫌がると思って説明しなかった。 これは大陸冒険者ギルド本部の決定だ。 単独でワイバーン12頭を倒す者を見習い冒険者のままにしておく訳にはいかん。」
「見習いで無いならFランクでも良いでしょ。」
「ワイバーン12頭を単独で倒す奴をFランクなんかに出来るか。 ここベルンだけでなく、帝都でも吟遊詩人たちがあちこちの街角で竜滅の討伐話を歌い上げているんだぞ。」
「え~っ!」
そんな恥ずかしい事になっているの?
やだよ。
目立つのはダメ、絶対。
「カードを見てみろ。 カードにも竜滅と書かれているだろ。 竜滅がギルド本部から正式なふたつ名として認められたと言う事だ。 これからは堂々と竜滅と名乗れるぞ。」
名乗らねえよ。
カードを見るとショータという名の横に竜滅と書かれている。
俺が竜を倒したみたいで、めっちゃ恥ずかしい。
自殺願望のワイバーンが勝手にバリアに突っ込んだだけで、俺が倒したわけでは無い。
竜種ではあるが、ワイバーンは竜種の最下位。
言わば竜種のゴマメ、関東流に言えばみそっかす。
竜とは天地程も格が違う全くの別物の筈だ。
竜を滅ぼすって言う意味の“竜滅”なんて2つ名は恐れ多すぎる。
俺はこっそりひっそり生きるのだ。
このカードは、人には見せない様にしようと心に決め、収納に封印する事にした。
街から出ないので大門を通る事も無い。
ギルドカードを見せるような場面は無い筈だ。
今迄にギルドカードを使ったのは、図書館に入る時だけ。
今は図書館には行けないから、封印しても問題は全く無い。
「Aランクには訳がある。」
「訳?」
「Aランクになると、貴族の命令を聞かなくても不敬罪には問われない。 今ベルンでは、大勢の貴族達がショータを養子や家臣にしようと動いている。 無理難題を押し付けて、ショータを取り込もうとする動きもある。 Aランクになれば皇帝の命令でも拒否する事が出来るぞ。」
「そうなの?」
「偽の依頼でおびき出し、皇帝や王の命令で依頼とは関係の無い戦争に行かされるような事が認められたら、高ランク冒険者は外国の依頼を受ける事が出来ないからな。 だからギルド本部はショータをAランクにした。 有望な新人を皇帝や他国に取られたくないからだ。」
だったら良いか。
転生後僅か4か月でAランクになった。
飛び級もとんでもないけど、冒険者登録4か月でAランクは無いぞ。
貴族の命令を拒否出来るのは確かに有り難いけど、いくら何でもご都合主義過ぎるだろうが!
ギルマス室を出て1階フロアへの階段を降りていると拍手が聞こえた。
フロアにいる冒険者や職員達が俺に向かって拍手している。
「えっ、どうしたの?」
「Aランク昇格おめでとう。」
「「「おめでとう。」」」
ズンさんの声を皮切りにみんながお祝いの言葉を贈ってくれた。
「ねえねえ、ギルドカードを見せて。」
「見せて。」
「見せて。」
皆に強請られて、仕方なく封印する筈だったギルドカードを渡した。
「凄え、竜滅って書いてあるぞ。」
「俺にも見せろ。おおっ、ほんとだ。竜滅だ。」
俺のギルドカードがフロア中を回っている。
これは羞恥プレイというやつか?
めっちゃ恥ずかしかった。




