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34 “囁きお熊”が付いているので安心

「ベルン冒険者ギルド所属ぅ~回復師ぃ~、ショータ殿ぉ~!」

俺の名を呼ぶ声と共に大きな扉が開いた。

”真っ直ぐに進め“

中央の赤いじゅうたんを真っ直ぐに進む。

“止まれ”

熊が囁く。

今日は“囁きお熊”が付いているので安心。

立ち止まった。

”右ひざを突いて頭を下げる“

膝を突いて頭を下げた。



一段高い台の下にいるおっさんが手に持った紙を読み上げる。

「ベルン冒険者ギルド回復師ショータ。その方はたぐいまれなる回復魔法によって数多の兵を救っただけでなく、襲来したワイバーン12頭を単独で討伐した。 その功、第1等と認めここに褒賞を授ける。 1つ、剣一振り。 1つ、白金貨1000枚」

大広間にどよめきが広がった。

シロ金貨ってなんだ?

お城で使う金貨?

お城にはもう来ないぞ。

「面を上げぃ。」

正面から声が掛かった。

”頭を上げて正面を見ろ“

頭を上げた。

正面には指揮所で会った兄ちゃんが煌びやかな服を着て一段高い所にある立派な椅子に座っている。

あのパシリみたいな兄ちゃんが公爵だったらしい。

公爵ってこの辺では1番偉い人だよな。

指揮所にいた時は貴族のおっさん達の顔色ばかり窺っていたから、ずっとパシリの兄ちゃんだと思っていた。

見た目だけでは判らないものだ。

公爵が壇を降りて来た。

側にいる爺さんから剣を受け取り、俺の前に立つ。

「この度の働き、大儀であった。」

公爵が剣を差し出す。

“両手で受け取れ”

両手で公爵が差し出した剣を受け取る。

“有り難き幸せ”

「ありがたきしあわせ。」

公爵が椅子に戻った。

「下がれ。」

横にいるおっさんから声が掛かった。

”腰を屈めて頭を下げたまま後ろ向きに下がれ“

え~、後ろ向きだと歩き難いよ。

後ろ向きになったまま入り口まで下がり、大きな扉の外に出た。

「ふ~っ。」

どっと疲れた。

「上出来だ。」

熊に誉められる。

どうやら首は繋がっているらしい。

首があっても帰り道は判らないけど。



「お茶で御座います。」

メイドがお茶とお菓子をテーブルに置くと、控室を出て行った。

「祝賀会が始まるまで控室で待機だ。」

「祝賀会にも出なくちゃダメ?」

「討伐に参加した治癒師達も来てるぞ。」

「だったら出る。」

治癒所でお世話になったから、直接会ってお礼を言いたかった。

この機会を逃せば、会う事もそうそう無いと思ったから。



「しかし、俺達は宮殿の使用人達にも嫌われているらしいな。」

「そうなの?」

「ショータはこの国の英雄だ。 英雄を迎える時の控室はもっと上等だし、謁見の間にも近い。 メイドも2人以上いて、決して控室にメイドが居なくなることは無い。 この部屋は出入りの商人や職人を待たせるための部屋だ。」

「そうなんだ。 でも馬車は立派だったよ。」

「そこが良く判らん。 馬車にしても衣装にしても英雄に相応しい物だった。」

「そうなんだ。 俺としてはもっと普通の服が良かったんだけど。」

「まあ貰える物は貰って置けば良い。使用人達に嫌われたからと言ってどうという事は無いが、この宮殿の中でも気は抜くな。 因縁を付けて来る貴族がいるかも知れんからな。」

どうやら宮殿の中も危険が一杯らしい。

この街で俺が安心出来るのはギルドの中だけ?

ギルドに住まわせて貰えて良かった。

「うん。」

「まあ迎えが来るまではゆっくりしていろ。」

「うん。 俺は気楽に出来るから、メイドさんはいない方嬉しいかな。」

「まあそうだな。」



「公爵は随分若いんだね。」

待っている間が暇だったので、熊に聞いてみた。

「確か、19歳だった筈だ。」

「公爵は強そうには見えないけど、どうして婿になれたの?」

「公爵は婿では無く、領主だ。 2年前に両親と姉を殺されて、公爵家の血筋が男だけになったので長男の公爵が家を継いだ。 男が貴族家の領地を継ぐと言うのはこの国ではかなり稀な事だ。」

「男が継ぐ事も有るんだ。」

この国では女性に相続権があると本で読んだので、男が家を継いだと聞いて驚いた。

貴族家に血筋の女性が居ない場合だけは男が継ぐらしい。

前世が男社会だったから、未だにこの国の相続については良く判らない。



「大抵の場合は女が領地を継いで領主となる。男は領主の婿に入って、当主となる。」

「領主と当主はどう違うの?」

「領主には当主を離縁する権利がある。 当主が良い領地経営をすれば、領主は良い婿を選んだと評判が上がる。 当主が失政をして領民の支持を失ったら、失政を当主の責任にして追放すれば、領主は良くぞ当主を追放したと評価が上がる。 領主が安心して子供を生めるように、領主の責任を軽くする為の制度だ。」

旨く行ったら領主のお陰、失敗したら当主のせい。

婿殿が可哀そうになった。

俺は絶対に婿殿にはなりたくない。

たとえ生涯独身でも構わない。

こつこつと老後の資金を貯めて、のんびりひっそり暮らそうと心に決めた。

「それって、当主が有能でもバカでも関係ないって事?」

「勿論、当主の経営能力が低ければ領主の資産も収入も減るから、それなりに優れた婿を選ぶ。」

「そりゃそうか。」

「ただ、東部地域は戦争が多いし、強い魔獣も多い。 当主は家の名誉を掛けて、最前線で戦う事が多いから、東部地域では武力に優れた婿を当主にする領主が多い。 公爵はどちらかと言えば経営向きだから武力は今一つだ。 戦闘力の高い貴族から見ると弱っちいという事で、公爵を軽んじている貴族も多いと聞いている。」

指揮所にいた貴族達が脳筋ばかりだった理由が判った。

「そうなんだ。」


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