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33 一言で言えば、似合わねえぇ~!

「はぁ。」

思わずため息が出た。

俺を取り巻いているのはめっちゃ奇麗な女性達。

うん、冒険者ギルドの花形である受付嬢のお姉さん達。

俺の全身を舐め回すように見ている。

ササヤカお神と同じような目に背筋がゾクッとした。

目の前に並んでいるのは公爵家から届いた祝賀会用の衣装一式。

見るからに高そうなツヤツヤした生地の上着とビシッ折り目の付いたズボン。

そして見ただけでもスベスベと判る下着一式。

今日は魔獣討伐成功の祝賀会。

何故かギルドのお姉さん達が、俺の着替えを手伝ってくれることになった。

貴族服なんて来たことが無いから、教えて貰えるのは助かるけど、5人も必要なの?



「貴族の服は着方が難しいのよ。」

お姉さんが教えてくれた。

貴族なんて存在自体がめんどくさいのに、服の着方までめんどくさいらしい。

「そうなんですか?」

「そうよ、只着れば良いというものじゃないの。」

「はあ。」

「私達に任せれば大丈夫だからね。」

いつの間にか、女性職員が総出で俺を着飾ってくれる事になってしまっていた。

お姉さん達の目が妙にギラギラしているみたいで、ちょっと怖い。

受付にはお姉さん達に命じられた男性職員達が座っているらしい。

俺の着替えなんかの為に職場の配置変更をしていいの?

訳が判らない。



「まずは、服を脱がないとね。」

「脱ぐのは自ぶ・・」

「ダメよ、貴族服に着替える時は脱ぎ方も決まっているんだから。」

受付嬢のお姉さんが、俺の言葉を途中でぶった切った。

「そうなんだ。」

知らなかった。

やっぱり貴族はめんどくさい。

「そうよ。」

断固として言い切ると、お姉さん達が俺の服を次々と剥ぎ取っていく。

あっと言う間にパンツも無くなった。

「新しい下着を着る前に、汗とかを綺麗に拭いておかないとダメなのよ。」

「貴族様の前で汗臭い匂いをさせると無礼になるからね。」

「特に匂いが溜まる所は丁寧に拭いておくのが礼儀なのよ。」

全身を濡れた布で拭かれる。

「いや、そこ・・」

俺の抗議は、股してもお姉さんの言葉でぶった切られた。

漢字の変換ミスじゃないよ。

「ここは特に匂いが溜まり易いから、念入りに、念入りに拭かないとダメなの。」

何で2回言ったの?

大事な事なの?

と言う訳で、パンツ迄新品になった俺がいた。

俺は絶対に貴族にはならないぞ。

心に固く誓った。



受付嬢さんが鏡を見せてくれた。

この世界にも鏡があったんだ。

貴重品らしく、細かな彫刻が彫られた高そうな箱に入っていた。

異世界に来て、始めて自分の顔と対面した。

「わぉ!」

めっちゃ可愛い、惚れてしまいそう。

って、俺はナルシスか!

どう見ても女の子。

それもめっちゃ可愛い女の子。

ササヤカお神は綺麗系よりも可愛い系が好みらしい。

パッチリとした目が印象的で、まつげが長い。

歯並びも奇麗で、ちょっと口角を上げるとえくぼが出来る。

肌もスベスベツルツルのプルンプルン。

思わずほっぺたを撫ぜたり引っ張ったりしてしまう。

触り心地も極上品だ。

背中まで有る髪は艶々した金髪。

今日はポニーテールに纏められている。

思わずデートに誘いたくなった。

って、俺は女では無く男だ。

ササヤカお神ぃ~!

男らしさが欠片も無い自分の姿に呆然とした。

思い直して全身を見ると、服は男の子用なので、かろうじて男の子に見えない事も無い?

何となく千歳飴が似合いそう。

どう見ても前世の七五三。

服に着られている感満載の、にわかお坊ちゃまになったお嬢さん顔の俺。

感想?

一言で言えば、似合わねえぇ~!



ギルド前に停められた公爵家差し回しの豪華な馬車に乗り込む時には、冒険者達が馬車を取り囲んで、大きな拍手をしてくれた。

めっちゃ恥ずかしい。

「頑張れよ~!」

「良い褒賞を貰うんだぞ。」

「生きて帰って来いよ。」

「ギルマス、しっかり護衛してくれな。」

何か不安になるような見送りの声もあったが、無事に馬車が出発した。



馬車は大通りに出ると、真っ直ぐに北へと走る。

中央公園を越え、さらに北へ北へと進む。

街中なのでゆっくり進んでいるとはいえ、もう2時間も馬車に揺られている。

「ベルンの街って、広いんだね。」

「大門はベルンの南門。 公爵の宮殿は殆ど一番北だ。 宮殿から一番遠いのが大門だから、

ベルンの街を縦断する事になる。 中央大通りが真っ直ぐだから、まだましだがな。」

「はあ。」

距離だけ考えても、めっちゃ遠い。

ましてや貴族様に呼び出されて行くのだから、気分が段々と落ち込んで来る。

馬車に飽きて来た頃に見えて来たのは高い城壁と大きな門。

「ここがベルンの城門だ。この先に公爵家の宮殿がある。」

付き添い役の熊が教えてくれた。

1人では帰りに首が無くなりそうだったので、熊に付き添いを頼んだ。



大きな門を過ぎると、三階建ての大きな建物が次々に見えて来た。

「あれは役人達が働く役所だ。 さっきのが商務部。 ここが農務部。 奥が財務部の庁舎だな。」

役所の建物群を抜けると、また高い塀と大きな門。

「ここから先が公爵家の宮殿だ。」

熊が教えてくれた。

大きな門を抜けると、冬だというのに色とりどりの綺麗な花が咲いた、とんでもなく広い庭園があった。

綺麗な庭園の遥か向こうに、煌びやかで巨大な建物が見える。

「あれがベルン宮殿だ。」

公爵邸はまさに宮殿だった。



宮殿中央のエントランス前にある大きな広場に馬車が止まる。

直ぐに執事服を着た兄ちゃん達が馬車の扉を開けてくれた。

馬車から降ると、あとは執事服の兄ちゃん達の後ろを付いて行くだけで精一杯。

「こちらが控室となります。 係の者が声を掛けるまではこちらでお寛ぎ下さい。」

何度も廊下を曲がって、15分程歩いた所で漸く控室に着いた。

首が無くなったら帰り道が判らなくなるからと熊に付いて来てもらったけど、首があっても帰り道が判りそうな気は全くしない。

1人にされたら絶対に迷う自信がある。


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