31 命あっての柿の種
「どうだった?」
テントに戻るとドンさん達が待っていた。
「前線に出ろと言われた。」
「何だと!」
「そんな事を言われたのか? ショータが攻撃魔法を使えない事は指揮所のみんなが知っている筈だぞ。」
ダンさんとジンさんが顔色を変えた。
「多分後ろから撃とうと思ったんだろうね。 まあ、どこからでも俺を殺せるけど。」
貴族達の様子から、俺を殺すつもりだったのは間違いない。
今の俺には戦う力が全く無い。
正面からでも簡単に殺せる。
だからこそベルンの灯が護衛に来てくれたのだ。
「有り得るな。 派手に手柄を立てたから妬む奴もいるのだろう。」
「ショータが死ねば褒賞も払わなくて済むという訳ね。」
「公爵閣下はそのような事を考えるお方では無い!」
ズンさんの言葉にドンさんが咬みついた。
「でも、“前線に出ろ“って言われたのよね。」
ズンさんが食い下がる。
「うん。」
「ショータなら戦える筈とか言って、公爵閣下を誑かした奴が居るんだろう?」
「公爵閣下は人の言葉を信じるお方だから。」
ドンさんとデンさんが庇うけど、それって指揮官としてはどうなんだ。
そもそも俺の相手をパシリの兄ちゃんに任せて、公爵らしい人は出て来なかったぞ。
それもどうなんだ?
「護衛のみんなが頑張ってくれたから、沢山の魔獣に止めを刺せたけど、俺が魔獣と戦ったのは鼠の魔獣と戦った1度だけなんだよね。 その1度も鼠の魔獣を追い払うのがやっとで倒せなかった。」
「「「はぁあぁ~!」」」
そんなに驚くところか?
「ワイバーンを12頭も倒した英雄が鼠1匹倒せないのか?」
「鼠の魔獣を俺だけの力で倒すのが今の目標なんだから、森の奥の強い魔獣なんて倒せる筈が無いに決まってるだろ。 自慢じゃないけど、前線どころか後方でも護衛が居なければ間違い無く俺は死ぬぞ。」
「と言う事は断ったんだ。」
「絶対に死ぬ所へのこのこ行く程バカじゃないからね。 これ以上何か言ってきたら、申し訳ないけど逃げさせて貰う。 命あっての柿の種だから。」
「そ、そうか。 “柿の種”が何かは判らんが、まずは食事にしよう。」
みんなは朝食も摂らずに待ってくれていたらしい。
ここの治癒師達や護衛達には感謝しか無いが、おめおめと殺される気も無い。
いざとなったら逃げる心積もりをした。
昼頃から怪我人が運び込まれて来た。
昨日よりは少ない感じがする。
今日の怪我人は800人だった。
作戦開始9日目。
「ワイバーンを倒したから、もう経験値は要らないかも知れないけど。」
そう言いながらバンさん達が魔獣を運んできてくれた。
「俺は自分では魔獣を倒せないし、今回の作戦が終われば街の外に出る事も無いから経験値は貴重だよ。 ワイバーンを倒せたのもみんなが俺をレベルアップさせてくれたお陰だし、こうして魔獣を運んでくれるのはめっちゃ有難いと思っている。 本当にありがとう。」
「ワイバーンは取り上げられたんだって?」
「最初から戦果は公爵家の物と言う事だったらしいからね。」
「首の骨が折れているだけで、皮も無傷だったというから公爵家は大儲けだな。」
「お金は・・まあ・あれだけど、みんなのお陰でレベルアップ出来たから俺は良かったと思ってる。 無事に帰れれば、またギルドで働けるから、お金はこつこつと稼ぐよ。」
「金の亡者にしては殊勝な心掛けだな。」
俺がお金を使わないのを知っているビンさんが笑った。
「偶々手に入ったあぶく銭は身を亡ぼすからね。自分で使うお金はコツコツ貯めるのが1番だと思ってる。」
そんな事を話しながら魔獣に止めを刺して行く。
経験値の小さな魔獣でも数を熟せば大きな経験値になる。
チリも積もればアルゼンチン。
今日の怪我人はグンと減って370人。
作戦終了が近いのかも知れない。
作戦開始10日目。
討伐隊が撤収準備に入ったという連絡があった。
ある程度魔獣を討伐出来たので、当分はこの森から魔獣が溢れる恐れは無くなったという事らしい。
それでも怪我人は結構いる。
“範囲回復“の練度が上がったので、テント全体を1度で回復出来るものの、次々に運び込まれるから結構手間が掛かる。
それでも昨日よりは重傷者を丁寧に回復出来るようになったのが有り難かった。
本日の怪我人は280人。
作戦開始11日目。
明日の早朝に撤収を開始する事が決まった。
冒険者達も殆どが引き上げたらしい。
討伐隊の殿を務める公爵兵も夕方には指揮所に着くと連絡があったそうだ。
本日の怪我人は180名
作戦開始12日目。
テントの片付けが始まった。
予定では2週間だったのでちょっとだけ早くなったらしい。
片付けは兵士の仕事なので、俺達は朝食後直ぐに馬車に乗り込んで、ベルンに戻ることになった。
勿論護衛はベルンの灯。
昨夜はぐっすりと寝た筈なのに、緊張感から解放されたせいか、馬車に乗るとすぐに寝てしまった。
「ショータ起きろ。」
「ショータ、ベルンに着いたぞ。」
起こされて目を開けた時にはもう夕方、ベルンに到着した後だった。
馬を休ませるための休憩や、昼食休憩もあった筈なのに、ずっと寝たままだった。
自分で思っていたよりも疲れていたらしい。
「あっ、俺寝ちゃってた?」
「ああ。 ショータは誰よりも頑張ったから疲れて当たり前だ。 良く寝てたから休憩の時にも起こさなかった。」
「すみません。」
「あれだけ頑張ってくれたんだ、俺達は皆感謝しているぞ。 本当にありがとうな。」
「俺達はもう少し先まで馬車で行くからここでお別れだ。 お疲れ様。」
治癒師のみんなに見送られて馬車を降りる。
「お疲れさまでした。」
馬車に乗っている治癒師のみんなに別れの挨拶をする。
「ショータこそお疲れ。よく頑張ったな。」
皆が笑顔で手を振ってくれる。
「お疲れさまでした。」
走り出した馬車に向かって、もう一度大きな声で叫んで頭を下げた。
いい人達と一緒に仕事が出来て良かったと思った。




