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28 奥の手を使う事にした

作戦開始3日目。

教会の神官達に魔力切れが続出した。

18人いる神官の半数が夕方には魔力切れで倒れたと、デンさんが教えてくれた。

夜になると重傷の士官や貴族も俺達のテントに運び込まれて来た。

「おい、こっちが先だ。」

「バカな事を言うな。こちらは侯爵家の若様だぞ。」

従者が怒鳴り合いを始める。

「喧しい。治療には集中力が大切なんだ。怪我人以外は外に出ろ。」

ドンさんが騒いでいる兵士を怒鳴りつける。

「従者がご主人様の傍を離れる事は出来ん。治癒師風情の命令など聞く謂れはない。」

「俺は公爵家お抱えだ。貴様の名を名乗れ、後で公爵閣下に報告させて貰う。」

「うぐっ、・・・。」

従者と名乗った男はドンさんを睨みつけながらテントを出た。

この国では貴族と平民では扱いに天地程の違いがあるらしく、貴族が来る度に治療の順番を巡って争いが起こる。

子爵家で4~5人、伯爵家だと10人以上の家臣が付き添って来るのでテントが家臣や従者達で満員。

あちこちで順番争いをして、大声で怒鳴り合っている。

大きな声を出せば、平民は言う事を聞くと思っているらしい。

治療の邪魔でしか無い。

やっぱり貴族は嫌いだ。

休憩時間にはベルンの灯や警備兵達が運んで来てくれる死に掛けの魔獣に止めを刺す。

今は少しでも経験値を稼いでレベルアップする事が喫緊の課題。

レベルが上がれば体力が上がるし、治療時間も短くなる。

ベルンの灯や警備兵達には感謝しか無い。

今日の怪我人は700人を超えたらしい。



作戦開始4日目。

昨日は神官達のテントで重傷者が次々に亡くなったらしい。

俺達のテントでは、治癒師の先輩方が重傷者をすぐに俺に回してくれたので死亡者はいなかった。

指揮所からの命令で、今日から重傷者は全て俺達のテントに運び込まれるようになった。

重傷者の治療は俺でも結構な時間が掛かる。

流石に俺達のテントでも治療が追いつかなくなって来た。

目の前で怪我人達が生きるか死ぬかの瀬戸際で苦しんでうめき声を上げている。

もう目立たない様にとか言っている場合では無くなった。

「やってみるか。」

腹を括って、奥の手を使う事にした。



たぶん出来る筈とは思っていたが、一度も使った事が無い魔法。

イメージをしっかりと固めると、出来そうな気配が感じられた。

「範囲回復!」

気合を入れて叫んだら、大きなテントの4分の1位がボワッと光った。

「なんだ。」

「どうした。」

治癒師達が驚いた声を上げて辺りを見回している。

「なんとなく使えるようになった気がしたので、範囲魔法を使ってみました。」

「上位魔法も使えるのか?」

「たぶん沢山の魔獣に止めを刺させて貰ったおかげで、レベルアップしたのだと思います。」

「魔力の方は大丈夫か?」

「問題ありません。範囲回復で治癒出来なかった重傷者は後で一人ずつ診ます。」

範囲回復の練度が足りないようで、重傷者は治りきらなかった。

「そうか。判断はショータに任せる。」

それからは範囲回復を連発して溜まっていた怪我人を治す。

重傷者は診断してから回復するので時間が掛かる。

魔力が心配だったが、魔力切れの兆候は全く無かった。



怪我人が増えても2時間働くと、1時間は休憩を取らして貰えた。

治癒師の先輩達には感謝しか無い。

休憩時間はパワーレベリング。

沢山の魔獣に“突き”で止めを刺したからか、“突き”の威力も上がったような気がする。

「みんなのお陰でレベルが上がって、今日は“範囲回復”が使えるようになりました。」

「本当か。」

「それは良かった。」

「本当にありがとうございます。 これからもよろしくお願いします。」

「おう、ショータのレベルが上がれば、大勢の怪我人を治せる。俺達も頑張って魔獣を捕まえて来るぞ。」

「宜しくお願いします。」

レベルアップのお陰で範囲回復を使えるようになったと聞いたベルンの灯や警備兵達が、殊の外喜んで次々に魔獣を運んでくれたので今日もレベルアップしたような気がする。

今日の怪我人は700名余りだった。



作戦開始5日目

今日は昼前から怪我人が続出している。

教会のテントでは、体力不足でへたり込む神官達が増えたらしい。

神官達は皆太っていたので、少し動くだけでも体力を消耗するのだろう。

重傷ではない貴族や士官達も俺達のテントに運び込まれるようになった。

神官のテントでは殆ど治療が出来なくなって、俺達のテントに運び込まれたらしい。

重傷では無いので、大声で怒鳴り捲る元気はあるからから始末に負えない。

従者では無く貴族本人なので、ドンさん達にも抑える事が出来なかった。

やっぱり貴族は嫌いだ。



俺達のテントはまさに戦場。

次々に怪我人が運び込まれ、次々に出て行く。

先輩治癒師の発案で、重傷者の足元に重傷を示す白い布が付いた杭を打ち込まれた。

簡易的なトリアージだけど、遠くからでも重傷者が判るので有難い。

重傷者の所に移動しながら範囲回復で移動路周辺にいる軽傷者を治療する。

範囲回復のお陰で何とか怪我人を治せてはいるが、討伐現場の状況が判らないので不安が増す。

今日の怪我人は遂に1000人を超えた。

総勢1万なのに怪我人が1000人越えってどうなんだ?

ちょっと疑問に思った。



作戦開始6日目。

朝1番で教会の神官達が撤退した。

過労でこれ以上の治療は出来ないという理由らしい。

18人の治癒師がいなくなったのに運び込まれる怪我人はそれ程増えていない。

どうやら昨日も殆ど治療をしなかったらしい。

神官の治癒魔法ってたいしたことが無いのかもしれない。

知らんけど。

今日も昼前から次々に怪我人が運び込まれて来る。

重傷者の印である白い布を目掛けて急ぎ足で移動しながら、範囲回復を連発する。

体力もだが、ずっと集中力を維持しなければならないので精神的に疲れる。

忙しいにも関わらず、先輩治癒師の皆さんが俺の休憩時間を確保してくれたのは有難かった。

今日も怪我人は1000人を超えた。



作戦開始7日目。

カン、カン、カン。 カン、カン、カン。 カン、カン、カン。 カン、カン、カン。

昼前に警鐘が鳴った。

「何の音?」

「本部に魔獣が向かっているという警戒の合図だ。」

ダンさんが教えてくれた。

まだ怪我人が少ない時間だったので、治癒師の先輩達とテントの外に出た。

「襲ってきているのは何だ?」

ダンさんが兵士を捕まえて聞く。

「ワイバーンです。 10頭程がこちらに向かっているそうです。」

ワイバーンと言えばファンタジー小説定番の飛行型魔獣。

最下級ではあるが、一応は竜種なのでめっちゃつおいらしい。

「ブレスとかを吐くの?」

ダンさんに聞いてみた。

「ワイバーンはブレスなど吐かん。」

ちょっと安心した。

でも、バリアで防げるかと言うとかなり不安。

熊に、Cランクだとバリアで防ぐのはちょっと怪しい、と言われた事がある。

「ワイバーンのランクは何?」

「Aだ。」

ちょっとでなくめっちゃ、いや俺のバリアで防ぐのは全く無理そうだった。


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