26 見た目は子供、頭脳はおっさん
夕食を食べていたら、治療所のテントが騒がしくなった。
怪我をした先遣隊の兵士や冒険者達がやって来たようだ。
「小隊長殿はこちらのテントです。」
「100人隊長殿はこちらです。」
「お前は向こうだ。」
「お前達はこっちだ。」
世話役の兵士達が怪我人の割り振りをしている声が聞こえる。
貴族や士官は教会の治療所、兵士と冒険者が俺達の治療所と事前に決まっていたらしい。
怪我をした貴族は1人、士官が2人。
兵士が19人に冒険者が16人。
教会の神官達18人が詰めている6張りのテントには怪我人3人で、俺達6人が詰める2張りのテントに35人。
はぁ。
思わずため息が出る。
傷の状況で分ければいいのにと思ったが、黙っていた。
貴族と平民とでは、扱いに天地程の違いがあるが、怪我に貴賤は無い。
重傷者には手厚く、軽傷者は後回しでも良いと思っているのは俺だけらしい。
見た目は子供、頭脳はおっさん。その名は、回復師ショータ。
見た目が子供の俺が何を言っても無駄だとおっさんの頭では判っている。
判ってはいるけど、モヤモヤした気分になった。
今日はまだ討伐が始まっていないから怪我人も少ないが、明日からが心配だ。
じっちゃんの名に懸けて頑張るぞ。
あれ?
じっちゃんて誰だ?
判らん。
運び込まれた怪我人達が、床に敷かれたシートの上に寝かされる。
「今日は明日からの分担に備えて、俺の回復魔法を検分して下さい。」
治癒師達に声を掛けた。
たぶん治療出来る人数が、俺と他の治癒師とではかなり違うはず。
まだ討伐作戦が始まっていないのに、偵察に出た少数の先遣隊ですらこの人数。
明日から本格的な討伐が始まり、貴族と士官以外の怪我人が全部俺達のテントに回って来るとしたら、俺達が治療するのは相当な数になると予想出来た。
少しでも効率よく治癒所を機能させるには、俺が出来るだけ多くの怪我人を回復する方が良い。
その為には治療師のみんなに俺の実力を見せる必要があった。
目立ちたくは無いけど仕方が無い。
「そうさせて貰うわ。」
デンさんが答え、他の治癒師も頷いてくれた。
怪我人の横に屈みこんで掌を翳す。
屈みこむ必要もないし、掌を翳す必要も無いけど、そうしないと目立ちすぎる。
目立ち過ぎるのはダメ、絶対。
何事も程々が大事。
「回復。」
声と共に患者がボワッと光る。
2秒で光が消えた。
あれ?
いつもより光っていた時間が短い。
猪鹿蝶、もとい、猪と鹿に止めを刺させて貰ったおかげでレベルが上がったらしい。
「終わりました。次に移ります。」
隣の兵士の横に屈みこむ。
「回復。」
声と共に患者がボワッと光る。
やはり2秒で光が消えた。
軽傷なら2秒で治せると判った。
「回復。」「回復。」「回復。」「回復。」「回復。」「回復。」「回復。」「回復。」
「回復。」「回復。」「回復。」「回復。」「回復。」「回復。」「回復。」「回復。」
屈みこんで掌を翳す、屈みこんで掌を翳す、屈みこんで掌を翳す、殆どスクワットに近い。
重傷者は怪我の具合次第で治療時間が長くなるので、中腰でいる時間も長い。
35人の怪我人を治したが、膝がかなり疲れているようで、ガクガクしていた。
筋肉トレーニングにはなるけど、この姿勢で回復するのは結構きつかった。
「血を失っていますから暫くは無理をしないで下さいね。」
怪我人に声を掛け、周りでポカンとみていた治癒師たちの所に行く。
「どうでしたか?」
「お、おう。 おう。 あ~、凄いな。」
「回復魔法の詠唱は長いと聞いていたが、短縮詠唱があるのかよ。」
「短縮詠唱の回復なんて、初めて知ったぞ。」
「魔力はどうだ? ふら付いたりはして無いか?」
「問題ありません。」
「これならメインはショータに任せて、俺達はショータの休憩時間に担当した方がいいな。」
「魔力に問題無くても、体力や精神力には限界があるぞ。 明日からは重傷者が増えるからショータがショックを受けるかも知れん。 俺達はその辺のサポートに回ろう。」
「夜中は俺達の担当にして、ショータにはぐっすり寝て貰う方が良さそうだな。」
治癒師の皆さんが俺のサポートに回ってくれるらしい。
まだ10歳の俺を立ててくれるのは有り難い。
「よろしくお願いします。」
治癒師の皆さんに頭を下げた。
「夜は俺達が治療するから、ショータは明日に備えて直ぐに寝ろ。」
ダンさんに言われて治療用テントの隣にある宿泊用テントに移った。
10歳の体になったせいか、夜は結構早めに眠くなってしまう。
初日で緊張していたのか、用意されていた寝袋に入るとすぐに眠ってしまった。
「魔力ポーションだ。1日1人1本だから無駄遣いするなよ。」
朝食後、俺達全員に魔力ポーションが1本ずつ配られた。
”鑑定“
”魔力ポーション(並) 魔力を30%回復させる 素材 魔力草・薬草・魔力水“
鑑定がレベルアップしたので素材も判るようになった。
怪我人が増えると、俺でも魔力切れになるかも知れない。
いざという時に使えるよう、収納に入れた。




