25 蝶々がいれば猪鹿蝶?
ブクマ頂けました。
ありがとうございます。
ショータがようやくレベルアップします。
頼運が大好きなモフモフ登場は来月初めになる予定です。
もう暫くお待ち下さい。
”SSランク冒険者のお仕事は下着の洗濯です”も並行して投稿中です。
お立ち寄り頂ければ幸いです。
頼運
昼をだいぶ過ぎた頃、漸く治療拠点に着いた。
馬車を降りると、目の前にあるめっちゃ広い草原に、沢山のテントが張られていた。
少し先の小高い所に大きなテントが沢山見える。
「丘にある大きなテントが指揮所の本部だ、公爵様の寝所も中にある。テントの向こうに幕が視えるだろ?」
「うん。」
「あの幕の中が昼間の指揮所。公爵様と東部地域の有力貴族達が詰める場所だ。」
ドンさんが教えてくれた。
テレビドラマで見た合戦の時に大将が座っていた本陣みたいな感じなのだろう。
「遥か向こうに見える黒っぽい森が今回の討伐場所になる。 ここからは見えないが、本部と森の間にある草原で、およそ1万の兵士や冒険者が明日の出撃に備えている。」
本部のある丘の陰になって見えないが、凄い数の戦闘員達がいるそうだ。
丘の向こうに見える真っ黒な森に討伐対象の魔獣達がいるらしい。
森は遥か彼方まで続いていて、地平線に山脈らしい山の頂上がほんの少しだけ見えている。
日本では見られないような壮大な光景に圧倒される。
「向こうにあるテントが俺達治癒師の仕事場だ。」
ボケ~っと森を眺めていたらドンさんに声を掛けられた。
魔獣の居る森に向かって右側。
指揮所のある丘を少し下った所に張られた8張りの大型テントが俺達の持ち場らしい。
「ドンさんは詳しいのですね。」
「公爵家のお抱え治癒師だから色々と情報も入ってくる。 まあ、討伐作戦の布陣は大抵決まっているし、治療所の配置はいつも指揮所の右奥だ。 治療所の位置がコロコロ変わったら怪我人を迅速に運べないからな。」
「確かにそうですね。」
成る程と納得した。
8張りの大型テントのうち、6張りが神官達、2張りが俺達の治療テントになった。
公爵派の貴族達が大勢参加しているらしく、貴族家当主は60人程らしいが、2男以下の貴族や家門の貴族達が参加しているので貴族籍を持つ者だけで300人以上いるそうだ。
治療所は指揮所に近いから、貴族と鉢合わせしかねない。
貴族とのトラブルはファンタジーの定番。
絶対に危険が危ない。
なるべくテントの外には出ない様にしようと、危機感を心に刻んだ。
「バン、ビン、ベンが魔獣を狩りに行ったわ。 私はショータの護衛よ。」
ブンさんが俺の所に来てくれた。
「宜しくお願いします。」
「どういうことなの?」
デンさんに首を傾げられた。
俺の護衛達が魔獣狩りに行ったのが不思議らしい。
「俺のレベルが低いから、この機会にレベリングしろとギルマスに言われてるんです。 ナオール様の許可も得ています。」
「ショータのレベルって幾つなの?」
「ギルマスはレベル2と言ってました。」
「ええっ! ・・、たったの2?」
「うん。」
「そんなレベルで、何回も回復を使えてたの?」
「まあ、そうですね。」
「ともかくレベル上げが必要なのは判ったわ。頑張りなさい。」
「うん。」
「バン達が戻って来たわよ。」
ブンさんに声を掛けられてテントを出る。
日は殆ど傾いていた。
夕日が赤く染める草原を、バンさん達3人が足をグルグル巻きにした血だらけの猪と鹿の魔獣を担ぎながら、治療用テントに向かって歩いて来る。
3人が俺の前にドサリと魔獣を降ろした。
どちらも体長が3m近い大物。
前世の猪や鹿よりも2回りくらい大きい。
腹が上下しているのでまだ生きているのは間違いない。
「止めを刺せ。」
「うん。」
バンさんに言われて、熊に貰った剣を抜く。
腰に構えて首筋に狙いを定め、“エイヤ”と体ごと前に突き出した。
切ろうとすると堅い皮で刃毀れを起こしやすいし、心臓は魔石を傷付ける恐れがあるので首元に剣を突き刺すのが良いと熊に教えて貰った。
猪の首元に突き刺したつもりだったが、予想以上硬くて、最初の1撃は毛皮で滑って刺さらなかった。
猪がピクリと動いた。
「まあまあだな。もう一度。」
バンさんに励まされる。
「うん。」
もう一度しっかりと構え直し、足を踏み込みながら腰と一緒に剣を突き出す。
刺さった!
熊に教えられた通りに、剣を突き刺したまま上下に揺すると、猪が動かなくなった。
その瞬間、俺の体の奥から力が湧いて来たような感じがした。
恐らくレベルアップしたのだろう。
熊に特訓して貰って良かった。
殆ど動かない魔獣に剣を突き刺すだけでもこんなに大変なんだと判った。
俺の宿敵である鼠っぽい魔獣を一人で倒すのは、ず~っと先になりそうな気がした。
次は鹿。
鹿の首元にも剣を突き刺す。
今度は1度で刺さった。
猪よりも皮が少し柔らかかった感じがする。
上下に揺すったら鹿も動かなくなった。
その瞬間に、俺の体の奥からまた力が湧いて来たような感じがした。
蝶々がいれば猪鹿蝶?
赤たん、青たん、みんなコイコイ。
下らない事が頭に浮かぶ。
「「「お見事!」」」
ベルンの灯りのみんなに誉められた。
いやいや、生きたまま縛って運んで来たみんなの方がお見事だ。
俺が誉められるのはお門違い。
めっちゃ恥ずかしい。
「ありがとう御座いました。明日も宜しくお願いします。」
お礼は大事。
みんなにしっかりと頭を下げた。
「おう、ショータは治療を頑張れ。」
「うん。」




