24 治癒師と回復師は違うの?
「全員揃った、総員出発準備。治癒師は馬車に乗り込めぇ!」
俺が最後だったらしい。
ギルドが大門のすぐ近くの為、ギリギリまでギルドに待機していたのでしょうがない。
ふと思い出したが、前世の学校でもしょっちゅう遅刻して来るのは学校の傍に住んでいる奴だった。
ギリギリまで家でゲームをしているので、戦闘が長引いた時には間に合わなくなると言っていた。
時々前世の“俺“を思い出すのは何なんだ?
「命の恩人の護衛だ。絶対に守ってやるから安心しろ。」
バンさんが俺の背中を叩く。
ナオール子爵の号令で、俺達は一斉に馬車に乗り込んだ。
それぞれの馬車に6人ずつが乗り込む。
教会の馬車には騎乗した教会騎士団12人が護衛に就いた。
俺達の馬車はベルンの灯が歩いて護衛する。
ブンさんは御者の隣で索敵に専念するらしい。
索敵は斥候のビン参加と思っていたが、いつもブンさんが御者席だと言っていた。
力関係の問題かも知れない。
商隊を護衛する時も徒歩でする事が多いと聞いていたから大丈夫だろう。
馬車が出発した。
「俺はダン、商業区で治療院をやっている。」
「私はジンだ。鍛冶ギルドの治癒師だ。」
「私はヅン。同じく鍛冶ギルドの治癒師よ。」
「私はデン。公爵家の治癒師だ。」
「俺はドン。同じく公爵家の治癒師だ。」
「公爵家の治癒師様と一緒とは光栄だな。」
「俺達はまだ公爵様に拝謁すら出来ていない2級治癒師だ。気を遣うな。」
「お匙様になれば大きな屋敷が貰えるって本当ですか?」
「おう。家臣が3人、使用人が20人ほど付く。」
「お匙様って何?」
初めて聞いた言葉なので聞いてみた。
「公爵家の御家族を担当される1級治癒師様だ。 公爵様とお話する機会が多いので、下手な貴族よりも権勢がある。」
「子爵家以上でないと、公爵様にはお目通りする事すら出来ないからな。」
図書館で読んだ本では東部地域の面積は凡そ40万㎢、貴族家は300家以上。
江戸時代の大名が200家程だったから、公爵様は江戸時代の将軍以上?
「そうなんだ。あっ、俺はショータ。冒険者ギルドの回復師です。」
「「「回復師?」」」
皆が声を揃えて驚いている。
判らん。
「え~と、ギルドでは回復師って呼ばれていますけど、治癒師と回復師は違うの?」
「おいおい、それくらいは知ってろよ。」
ダンさんが呆れた顔をする。
「ショータはまだ小さいんだからしょうがないでしょ。」
デンさんがとりなしてくれた。
「すまん、俺が悪かった。 治癒師は聖属性の治癒魔法、回復師は光属性の回復魔法だ。 尤も、教会の神官は殆どが治癒魔法しか使えないのに回復師を名乗っているがな。」
「治癒魔法と回復魔法は違うの?」
「基本的には同じだ。ただ光魔法を極めれば大勢を1度に回復させたり、失った手足を元通りに出来ると言われている。」
「まあ言われているだけで、本当に出来るかは判らないがな。」
「光属性自体が少ないから、回復魔法については殆ど判っていないという事だ。」
そう言えば図書館にも光属性についての本は殆ど無かったし、何冊か読んでみたが、“と言われている”ばかりだった。
「そうなんだ。」
「本当の所はどうなんだ?」
「俺は回復魔法を使えるようになってまだ2ヶ月なので良く判らないです。」
「まだ2ヶ月?」
「おいおい、本当に回復魔法を使えるのか?」
「ギルドで毎日20人位に回復魔法を使っているので大丈夫だと思います。」
「毎日20人だと、そんなに使って魔力切れにはならないのか?」
「今の所魔力切れになった事は無いです。」
「「「ええ~っ!」」」
治癒師の皆さんに驚かれた。
そこから1日何回治癒魔法を使えるかの話になった。
「俺は大体10回が限界で、3時間休めば6回使える。」
「私は8回までは大丈夫。3時間休めば5回使えるわ。」
「私は12回。3時間休んで6回ね。」
「俺は15回。3時間後に10回だ。」
えっ、それしか使えないの?
聖属性の治癒魔法は、光属性の回復よりも使える回数が少ないのかも知れない。
「3時間休むと、魔力が戻るの?」
「6時間寝れば完全に戻るが、3時間でも半分くらいは戻る。 2時間だと1割から2割しか戻らない。 これは魔法使いも同じだ。」
「そうなんだ。」
魔力が少なくなると3時間休むのが常識らしい。
「坊主は何回使える?」
「え~と、魔力切れになった事が無いので判らないです。」
「何だと?」
「1日に何回掛けたのが最高だ?」
「25~6回?」
「休憩の間隔は?」
「冒険者ギルドの怪我人は殆ど夕方からなので、特に休憩する事はありません。」
「連続で回復魔法を使えるのか?」
「うん。」
「魔力ポーションも無しでか?」
「魔力ポーションって何ですか?」
「魔力を回復させるポーションだ。高価なので今回の様な大規模討伐の時くらいしか使わないがな。」
「そうなんですか、知りませんでした。」
「まあ、まだ2ヶ月なら知らなくても不思議は無いか。」
「そうなると、治癒師のローテーションを変えた方が良さそうだな。」
「予定では3人ずつの2組だったが、ショータの状況を見ながら誰かとショータの2人で1つのテントを担当して、もう一つのテントを4人で回したほうが良いかもしれないな。 ショータが疲れたら休憩していた者でやるか。」
「初日はそれでやってみて、状況次第で臨機応変に考えよう。」
皆が頷いた。




