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22 困ったときの熊頼み

「あのぉ~、探知もバリアも5mまでしか出来ないんです。 5mって、何か意味があるんですか?」

熊が指導に来てくれたので聞いてみた。

困ったときの熊頼み。

ササヤカお神よりも頼りになる。

「5mか。・・・考えられるのはショータのレベルだな。」

「レベル?」

「魔獣を倒せば経験値が得られ、ある程度経験値が溜まるとレベルが上がって、体力や魔力・敏捷性などが上がる。ショータはどれくらい魔獣を倒した?」

「スライム20匹位です。」

「だったらレベル2だ。恐らく探知の範囲が5mと言うのはそのせいだろう。魔獣を倒してレベルが上がれば探知の範囲が広がると思うぞ。」

「・・・。」

大抵のゲームでは、始めて数分でレベル2に上がる。

めっちゃ弱い魔獣にも苦戦して、1撃を受けただけで死んでしまうレベル。

今の力で魔獣と戦うのは危険すぎる。

「もう少し訓練すれば、魔獣を倒せるようになる。それまでは5mの範囲内を正確に探知出来るように練習しろ。」

「うん。」



治療室での回復は順調。

「こら、俺を先に治せ。」

時々こんな患者もいる。

「バカヤロー、ショータに文句を言うなら教会に行け。」

治療室から怒鳴り声が聞こえると、すぐに酒場の冒険者達やギルド職員が飛んで来てくれる。

「何だと、俺はCランクだぞ。」

「ショータに手を出したら即刻冒険者資格剥奪だぞ。」

「ふざけんな、そんな事がこんなガキに出来るものか。やれるもんならやってみろ。」

「そこの壁を見ろ。」

「なにい?」

冒険者が壁を見る。

“回復師の指示に従わない場合は罰金、金貨10枚”

”暴力禁止、回復師への暴力は即刻冒険者資格剥奪“

壁には大きな字で書かれた注意書きが貼ってある。

ご丁寧にギルマスのサイン迄付けられている。

文句を言う冒険者が多かったので、ズンさんと相談して前世で風俗店の壁に貼ってあった注意書き、”本番禁止“・”本番行為は罰金100万円“を真似してみた。

ネットで見ただけだよ、ホントダヨ。

“俺“の事は殆ど覚えてないから判らないけど、たぶん行った事は無い、はず、と思う。

すけべぇおっさんが行かなかった筈が無い?

知らんがな。

熊が面白がって“即刻冒険者資格剥奪”を書き加えてくれた。

治療受付の時、カウンターに冒険者カードを預けているから逃げる事も出来無い。

冒険者ギルドはどこも回復師や治療師を大切にしているのでローカルルールを作っても問題無いらしい。

「なんだと、ふざけんな。」

男が大声を出すと、治療室の前には冒険者達が続々と集まって来る。

「おい、誰か職員を呼んで来い。罰金の徴収だ。」

大勢の冒険者が集まって来るのを見て男がビビった。

慌てて患者の最後列に並んでいる。

「ば、ばかやろう。俺はちゃんと順番を守っているぞ。」

いや、今慌てて並んだのをみんな見ていたから。

「回復師が常駐してくれているギルドなんて殆ど無いんだぞ。ルールを守らない奴はここの冒険者全員を敵に回すと思え。」

「お、おう。」

時々あるトラブルも、冒険者達が解決してくれる。

最初の頃はバリアで拳や蹴りを防いだこともあったけど、最近はバリアの出番が全く無い。



探知を発動しながら素振りをする。

1本1本時間を掛けて集中しながら丁寧に振る。

振り下ろす素振りを1000本、振り下ろし右切り上げを1000本。

振り下ろし切り上げでは切り上げる前に切っ先が大きく動いてしまう。

丁寧に、丁寧に。

自分に言い聞かせながら剣を振る。

素振りを終えると、ダッシュ。

素振りの構えのまま足の筋肉に魔力を集める。

1歩踏み出す。

一瞬で5m移動した。

向きを変え、もう一度素振りの構えをする。

足の筋肉に魔力を集めて1歩踏み出す。

元の位置に戻った。

これを10回。

足の筋肉に負担がかかり過ぎるので、無理はしない。

図書館のある公園で続けているランニングに差し支えては本末転倒。

今は全身をバランス良く鍛える事が大事だと熊が言っていた。

剣や体を鍛える事に関しては熊の指導は適格だと俺は思っている。

勿論寝る前のダンベルもどきを使った筋トレも続けている。



「バリアは結界なのか。」

古代語の本で驚きの記述を見つけた。

空間を覆えば結界、板状にすればバリアらしい。

結界で覆った空間を凝縮して周囲を遮蔽物で固定したものが魔法袋。

結界をこの世界とは違う空間に構築したものが無限収納とも呼ばれるアイテムボックス。

魔法袋は古代帝国では結構な数が作られていたらしい。

結界で覆った空間を凝縮出来るのか?

魔法袋は難しそうだが、結界なら作れそうな気がした。



古代語の本を参考にして、小さな空間をバリアで覆う練習を始めた。

大切なのはイメージ。

30㎝四方の立方体をイメージする。

バリアの発動速度に影響を与えない為に、“結界“と呼ぶ事にする。

同じ呼び名だとイメージの固定で混乱して一瞬ではあるが発動が遅れる。

バリアは発動速度が命。

一瞬の遅れが命取りになるので名前を別にした。

”結界“、”結界“、”結界“、”結界“。

イメージを色々と考えながら何度も唱えるが、上手く発動しない。

まあそうなるな。

100回や200回で新しい魔法を修得出来るなら、みんな魔法使いになってる。

毎日の練習に結界の練習が加わった。



だいぶ前に訓練場で折れた大斧の柄を見つけた。

長さが120㎝位、素振りに使っている模擬戦用の剣よりも少し長い。

鑑定してみたら魔鉄製。

素振り用の剣よりだいぶ重いから、筋トレ用に使おうと思って拾って来た。

ずっとバーベル代わりに使って筋トレしていたが、最近は少し軽すぎるように感じていた。

ふと思いついて柄を覆うイメージで結界を発動してみた。

何も無い空間に結界を張るのが上手く出来なくて行き詰っていたから。

何となく手応えを感じた?

柄を覆うイメージを色々と工夫しながら“結界”と念じてみる。

意外な事に、僅か7回目で柄を結界で包む事が出来た。

中身がある事でイメージを作り易くなったらしい。

強度を調べる為に、中央公園に行って大きな岩を結界で覆った魔鉄の柄で思い切り殴る。

パリン!

ガン!

音を立てて結界が砕け、そのまま魔鉄の柄が岩に当たったが、手への衝撃は思っていたよりも少ない。

結界がクッションの役割をしてくれたらしい。

岩を見ると少し欠けている。

結界はすぐに砕けたから、魔鉄の柄で殴ったせいだろう。

結界のイメージを作り易いし、結界の強度変化も確認出来る。

魔鉄の柄が結界練習の必需品になった。



ベルンに来て2ヶ月が過ぎた。

俺の収納には銀貨が1715枚と銅貨8枚。

品目による物価の違いは有るが、俺の感覚では前世の171万円。

ただ宿代や食料品は安いが、Dランク冒険者が使う武器や防具は普通に金貨100枚、銀貨だと1000枚を超えるので、価値は物によると言ったところ。

今迄に俺が使ったのは、バンさんの治療をした時に飲んだ果実水の銅貨2枚だけ。

宿代と食費、図書館の入館料が無料なのが有難かった。

たぶん小さな家でもめっちゃ高い筈。

老後に備えてしっかり貯めようと思った。

千里の道も、ニュータウン。

家を買う為に頑張るぞい。


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