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21 靴が綺麗になった

冒険者達の模擬戦を眺めながら気配を感じる練習をしていた。

「気配が判るようになったようだな。」

「おわっ!」

熊が突然現れたので、思わず声を上げてしまった。

「・・今日も気配が判りませんでした。」

「気配を消していたからな。 俺の気配が判るようになればいっぱしの冒険者だ。 今はどれくらいの距離まで判る?」

「5m位です。」

「200m位まで広がれば斥候が出来る。 冒険者が言う探知魔法と言う奴だ。」

「これって、魔法なんですか?」

「魔力を使わなければ気配察知、魔力を地面に沿って薄く広げれば探知魔法だ。 魔力の広がりの中に違和感を覚えた所があれば、何かが居るか何かがある。」

「地面に沿って薄く広げる、・・ですか?」

「足元から地面に流しながら広げて行くイメージで弱い魔力を出してみろ。」

体の中を流れる魔力を意識しながら、魔力を足元に集め、足元から魔力を外に出す。

足元がボワッと光った。

「うわっ!」

魔力を外に出したら回復が発動してしまった。

靴の汚れや傷が消えた。

「おお、靴が綺麗になったな。まあ、最初はそんなもんだ。火属性の奴は靴を燃やしたから、ショータはましな方だ。」

探知魔法では無く、回復になってしまったが、確かに燃えるよりはいい。

「日々練習あるのみだ。ガハハ。」

高笑いしながら熊が去って行った。

熊が居なくなった後は、ひたすら足元から魔力を流す練習。

回復にならない程度の弱い魔力を意識しながら何度も練習する。

1日や10日で出来るなら、誰でも魔法使いになれる。

千里の道も、急がば回れ。

回ったら猶更遠いがな。



回復のイメージを固める1連の作業を”診断“と名付けた。

回復の練度が上がったので患部を見落としても勝手に治してくれるけど、どこが悪かったかを把握しておかないと治療漏れがあるかもしれないし、練度の上がり具合も判らなくなる。

”診断“と心の中で唱えながらイメージを固める作業を繰り返しする事で、手順を考えなくとも診断と唱えれば患部が見つかるようになった。

診断を作ったのは、もっと回復の練度を上げたいから。

治療室で使うだけでは回復の発動回数が少なすぎると考えた。

魔法は使えば使う程練度が上がる。

でも回復は光るので、あまりにも目立ちすぎる。

診断なら光らないので気付かれないだろうと考えた。

つまり目についた人を勝手に診断出来る。

診断も回復弾同様に回復の派生魔法なので、回数を熟せば回復の練度が上がる筈。

回復の練度が上がれば、回復弾の射程距離も伸びる筈だし、威力も上がる筈、だといいな。

宿敵鼠っぽい魔獣を倒すのはまだまだ先だろうが、せめて鼠さんを怒らせるのではなく、追い払う位の威力が欲しい。

射程距離も20m以上は欲しい。

困ったのは、診断で悪い所が見つかっても、無断で診断したのだから、勝手に治す訳にはいかない。

回復を使うと光るから直ぐにバレる。

悪い箇所が見つかった人を覚えて置き、”顔色が悪い“とか”何となく調子が悪そうに見える”とか言って、今回限りの無料サービスと称して回復を掛けるようにした。



素振りの練度が上がった?

熊に手ほどきを受けてから1ヶ月半。

毎日2千回の素振りを続けていたら、突然振り下ろした剣がピタッと止まるようになった。

剣を振り上げ、振り下ろす。

その間、刃筋がぶれる事も無く真っ直ぐに振り下ろせている。

しかも振り切った瞬間にピタッと止まる。

めっちゃ気持ちが良い。

剣を振るという事が何なのか、ちょっと判った気がした。

剣を振る。

剣を振る。

昨日までの素振りは何だったのかと思うほど感触が違った。



今読んでいるのは古代語で書かれた魔道具の本。

古代帝国は魔導具が発達していて、色々な魔導具が作られていた。

魔法陣を組み込んだ魔道具に魔力を流して魔法を発動させるのが魔道具。

属性が無くとも魔力を送れば魔法が発動する。

魔導具のエネルギー源となるのは魔獣の体内にある魔石。

要するに、俺でも火を付けたり、水を出したり出来るという事。

多くは望まない。

火種と飲み水があれば、万が一この街から逃げ出す事になっても生きていける。

何はさておき安全第一。

備えあれば、打ち出の小づち。



色々な訓練と並行してやっているのが探知の練習。

繰り返し練習する事で足元から薄い魔力を広げられるようになった。

範囲は5m。

まだ気配察知と同じ広さ。

5m以上に広げようとすると何故か穴が出来てしまう。

バリアの限界も5m。

回復弾の有効射程も5m。

何故5mなのか原因が判らない。

頑張れ俺、打ち破れ、5mの壁!



「ほ~、もう振り切れるようになったか。ショータは剣も才能が有るようだな。」

いつものように熊が突然現れた。

探知魔法を使っているのに、未だに熊は探知出来ない。

「はい、きちんと振れるようになりました。」

「感触が全然違うだろ。」

「はい。」

「良し、次は振り下ろし右切り上げだ。」

「切り上げ?」

「ゆっくりやるから、見ていろ。」

「うん。」

「こう振り下ろして、止まった瞬間に手首を返して右に切り上げる。」

降ろした瞬間に手首を返して切り上げ。

熊の言葉を反芻しながらゆっくりと剣を動かして見る。

「大事なのは、振り下ろした切っ先の位置を変えずにその位置から切り上げる。手首を返した瞬間に切っ先が左に流れると切り上げ速度が遅くなるし刃筋がぶれる。」

振り下ろした切っ先の位置。

ここから手首を、ブレた。

手首を返すと切っ先がぶれる。

「焦るな。毎日振り下ろし1000本、振り下ろし右切り上げ1000本を、そうだな、8年程頑張れば出来るようになるかな。」

桃や栗だけじゃ無く、柿も生りそう。

「振り下ろしも1000本?」

「振り下ろしは基本中の基本だ。他が出来るようになっても振り下ろしの練習は欠かすな。」

「うん。」


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