20 この世界に来て1ヶ月が経った
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この作品と並行して”SSランク冒険者のお仕事は下着の洗濯です”も投稿しています。
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頼運
「バンが目を覚ましたわ。」
ブンさんが叫びながら酒場に駆け込んで来た。
「「「ウォーッ!」」」
酒場に居た冒険者達から歓声が上がる。
みんなバンさんを心配していたらしい。
バンさん好かれてるな。
心がほんわかとあったかくなった。
空になった木鉢を酒場のカウンターに戻し、治療室に戻った。
ビンさんとベンさんに両側から支えられて、バンさんがベッドに起き上がっている。
ビンさんとベンさんがめっちゃ笑顔なので回復が上手く働いてくれた事が判った。
俺も自然に頬が緩んでしまう。
「具合はどう?」
笑顔で終えを掛けた。
「ありがとう。ショータが治してくれたんだってな。もう何とも無い、ピンピンしてる。」
バンさんも笑顔。
「体の中でかなり出血してた。血を沢山無くしているから、暫くは眩暈とかが起きるかもしれないよ。2~3日は仕事を休んでね。絶対に無理しちゃだめだよ。」
「ああ。あの時は俺も“死んだ”と思ったからな。ショータがいなかったら本当に死んでたよ。この礼は絶対にするからな。」
「礼は銀貨5枚。それ以上取ったら俺が首になっちゃう。」
笑いながら答えた。
重傷者は銀貨5枚が大陸冒険者ギルドの規定。
それ以上を患者に要求するのは規定違反になる。
「そりゃそうか。」
みんなで大笑いした。
この世界に来て初めて会ったのがバンさん達。
治せて良かったとしみじみ思った。
今は訓練場で冒険者達の模擬戦を見ている。
ぼんやりとだが、冒険者達の魔力を感じられる。
目を閉じても、そこに居るという感じがある。
これが熊の言っていた“気配”なのだろう。
後ろを向いても気配は感じられる。
今の所感じられるのは5m程の範囲だけ。
でも、練習すればきっと範囲が広がる筈。
魔獣の気配を感じられるようになれば、魔獣に不意を突かれる事は無い。
もっとも当分は街から出る気が無いから、魔獣の気配を感じるのは何年も先の事になりそうだけど。
この世界に来て1ヶ月が経った。
筋力作りに魔法の練習。
魔力操作の練習に素振り。
図書館通いに回復師の仕事。
毎日忙しいけど、めっちゃ充実している。
練度が上がる度に、何か新しい事が出来るようになる。
成果が次々と実感出来るから、練習が楽しく感じられているのだろう。
鑑定もより詳しく表示されるようになった。
名前だけでなく、効能や食べ方が表示される事もある。
バリアも3mの大きさまで張れるようになったし、大きさを自由に変える事が出来るようになって、小さなバリアも張れるようになった。
発動速度も上がったし、5mくらいなら離れた所でも張れる。
強度は判らないけど、発動速度が上がったので短時間に何枚も張れるから、そこそこの魔獣なら止められそうな感じがしている。
まだ感じだけだし、恐ろしい魔獣が出る街の外に行く気などはさらさら無い。
街の外は危険。
今は安全第一。
回復もイメージ段階で魔力が発動されるようになって、悪い所が何処かが判るようになった。
治療の空き時間や食事時間に、冒険者のおっちゃん達がこの街の事を色々と教えてくれる。
「この街は国境に近いから、国境紛争で稼ぐ荒くれの傭兵も多い。若い女には危険な街だ。」
「この街は子種漁りの女が多いから、若い男が1人で外に出るとやられるぞ。」
「裏ギルドの連中が子供を攫っているらしいから、ショータも一人歩きは気を付けろ。」
男も女も子供も危険な街って何なんだ?
「警備隊の巡回があるから表通りは大丈夫だが、裏通りには絶対に入るなよ。」
「表通りでは貴族に気を付けろ。言いがかりを付けて平民を甚振る貴族も多いからな。」
裏通りは勿論表通りも危ないらしい。
「大丈夫だ。この街で生きて行ければ、どこの街に行っても生きていけるから安心しろ。」
それって全然大丈夫じゃねえし、安心なんか出来ねえよ。
古手の冒険者さん達に話を聞くと、この街は元々国境紛争と周辺の森に居る強い魔獣のせいで危険が多い街ではあったが、街の中は治安も良く比較的安全だったらしい。
ところが、3年前に女主人である御館様と後継者であるお嬢様が領主と共に急死して、急遽後を継いだ今の領主になってから治安が悪くなったらしい。
亡くなった御館様とお嬢様を恐れていた貴族や裏ギルドの連中が、新領主の家に女主人となれる女性が居なくなった事で、好き勝手に暴れ始めたかららしい。
女主人の居ない家は、司令官の居ない軍隊同然らしい。
色々と目が届かなくなって、配下の貴族や家臣達が好き放題するようになるそうだ。
そのせいで、今では帝国1危険な街と言われている。
前世の男社会が常識になっている俺には、言葉では判っても、違和感があって本当の意味では理解出来ていない感じがする。
何で俺の異世界最初の街がこの街なんだ?
「はぁ。」
ため息が出る。
ササヤカお神~!
思わず罵りそうになった。
危険なので街を歩くのは必要最小限。
服を買いに行った以外は図書館にしか行っていない。
目立つのはダメ、絶対。
俺はこっそりひっそり安全に生きる。
いつかこの街を出て、安全な田舎に小さな家を買って治療院をしよう。
いやいや、安全な田舎に回復師の仕事は無いぞ。
怪我人がそこそこ多くて、安全な街。
無理か、無理だよな。
怪我人の多い街が安全な筈は無い。
取りあえず今は、体力と自分を守る力を付ける事が最優先。
体が大きくなって力が付き、あの鼠っぽい魔獣とも戦えるようになるまでは我慢我慢だ。




