1 “俺“が無くなった?
初日からのブクマありがとうございます。
暫く単調な1人練習が続きますが辛抱して下さい。
5話で初めて人と出会います。
頼運
ここが異世界か。
目の前にはなだらかにうねる広大な草原。
遠くには森?
森の向こうには塔みたいな建物の先っぽだけがチラっと見えている。
先っぽがチラチラ見えているのに全然エロくない。
ササヤカお神がエロかったから、異世界もエロいかと思ったが、前世のアニメで観たような極々普通の異世界だった。
18禁のゲームじゃあるまいし、異世界自体がエロい筈は無いか。
自慢じゃ無いが、ファンタジー小説なら山盛り読んだし、異世界アニメも沢山見た。
異世界についてはめっちゃ詳しいぞ。
アラフォーのおっさんが異世界マニアなんて自慢にはならないか。
あれ?
アラフォー?
俺は何歳だった?
暫く考えるが、思い出せない。
ファンタジー小説の内容や異世界アニメの画面は覚えているのに、自分の名前が判らない。
人口や面積、理科・数学・政治・経済・産業。
知識を探ると日本や世界の事は殆ど覚えている。
俺の名前や年齢・職業・家族・経歴・交友関係、つまり俺に関する事の記憶が無い。
唯一覚えているのはアラフォーだったことだけ。
白い部屋で姿形を全く変えられたから、“俺“が無くなった?
ここは誰、俺はどこ?
遥か昔の死に絶えたギャグを思い出す。
「ササヤカお神のバカヤロォ~!」
海が無いので、草原に向かって叫んでみた。
取りあえずは現状確認。
ササヤカお神が10歳と言っていたから、10歳の体型なのだろう。
鏡が無いから判らないけど、手足は確かに10歳程度の感じがする。
顔もスベスベ。
二の腕はプルプル。
恐らくどこにもムダ毛は無い。
「そこだけで良いから、生えてくれたら嬉しいな。」
ひょっとしたらササヤカお神が聞いているかもしれないので、ササヤカな希望を口にした。
着ているのはゴワゴワした布の服。
たぶん初期装備の定番、村人の服。
着心地は悪いけど丈夫そう。
武器や防具を選ぶ前だったからちょっと心配したけど、マッパで無かったからまあいいか。
持ち物は無し。
・・・せめてヒノキの棒くらいは欲しかった。
そうだ、標準装備の鑑定が使える筈。
目の前の草を睨み付け、意識を草に集中する。
「鑑定!」
気合を入れ、大声で叫んだ。
“ざっそう”
頭の中に草の名前が浮かんだ。
出来たぁ!
魔法名を叫べば魔法が発動するらしい。
初めての魔法。
魔法の有る世界に転生出来た。
ファンタジー好きの俺にとっては最高の喜び。
感動でちょっとウルウルしている。
おっさんがウルウルしても可愛く無いけど、今の俺は10歳だから許される筈。
鑑定が出来たなら、次は収納。
手を斜め上に伸ばし、何もない空間に意識を集中する。
「収納!」
何も起こらない。
「・・・。あっ、そうか。」
収納は何かを違う空間に入れる魔法だった。
収納に入れる物が無ければ、入る筈が無い。
足元の草を1本引き抜く。
草を握った手を斜め上に伸ばす。
草を違う空間に入れる。
草を違う空間に入れる。
草を違う空間に入れる。
自分に暗示を掛けるかのように、草が消える様を心に刻む。
自分に気合を入れる。
「収納!」
思い切り大声で叫んだら、手に握っていた雑草が消えた。
やった~!
あれ?
どうやって出すんだ?
周りの空間をあちこちと掴んでみるが、どこを掴んでも何の感触も無い。
いや、何も無い空間を掴んで何かの感触があった方が怖いか。
いきなり蛇やGを掴んでいたりしたら、・・・。
そう考えただけでゾッとした。
ふと思い出す。
収納したならリストがある筈。
「リスト!」
頭の中に“雑草1”という文字が浮かんだ。
やった~!
雑草1に向かって大声で叫ぶ。
「出ろ!」
掌に雑草が出た。




