18 帝国で1番危険な街って何だよ
図書館には周辺国や古代語の本もあった。
標準装備である言語理解のお陰で、どの国の言葉も日本語の様に読めるので、違う言語だと言う事すら感じずにスラスラ読める。
この国はマルキド帝国。
女帝ムーチー陛下が統治している
キンバークという大きな大陸の中央西部にある大国らしい。
帝国は中央にある広大な直轄領以外は東西南北4つの地域に別けられ、それぞれを公爵家が支配している。
俺が住んでいるのはマルキド帝国の東端にある帝国第3の街ベルン。
ベルン公爵が盟主となっている東部連合の中心地でもある。
ベルン公爵領は周辺国と領地が接していて、隣国との戦争も多い。
領地内には深い森が沢山あり、領都ベルン付近にも強い魔獣がしばしば出没するという超危険地帯。
安全第一をモットーにしている俺が住んだのが、帝国で1番危険な街って何だよ。
思わずササヤカお神に文句を言いたくなるが、文句を言っても安全になるわけでは無い。
おもしろきこともなき世におもしろく、すみなすものはカニとたわむる。by高杉啄木。
うん、嫌な事は忘れて、楽しく訓練に励もう。
未だに熊が利用料を払ってくれているので毎日図書館に通えている。
この国の女性の地位について調べてみた。
この大陸では、殆どの国が小国の時代から、神を祀り神託を賜る巫女を中心に発展して来た。まあ前世の日本でも女性の巫女を中心としていた時代があったし、この世界には神が実在して、何度も神託を下し、神罰を与えている。
居るかいないか判らない神ではなく、逆らえば災害級の神罰を下す神が実在するのだから神の言葉を聞ける能力と言うのが重視されるのも当然だろう。
神の声を聞き、魔法で奇跡を起こせるのが巫女。
古来より、魔力量も魔法を操る能力も、何故か男性より女性の方が優れていたらしい。
神の声を聞き、魔法を操る為に大切なのが血筋。
血筋を途切れさせない為には、後継者である子供が確実に血筋を受け継ぐ者でなくてはならない。
必然的に女系の子孫が後継者となり、財産も全て女性が受け継ぐ事になった。
そう言えば、日本でも平安時代までは女性が荘園などの財産を受け継いでいた。
指導者層が女系の後継者を立てるのだから、必然的に平民層も女系の子供を後継者とするようになる。
血筋を受け継いだ女性は、血筋を守る為に危険な戦場に赴く事は無くなり、戦場で戦える強い男を婿にするようになったと、色々な本に書かれている。
男は大きな魔力と莫大な財産を持つ女性の婿となる為に、生れた時から体を鍛え、武技を磨くなどの努力をするらしい。
もっとも、実権は女性が握っている。
幾ら男が強くなっても高い練度の魔力を身に纏わせた女性には力でも敵わないらしい。
〇〇侯爵閣下と呼ばれてふんぞり返っていても、女主人は〇〇侯爵家閣下と“家“付の敬称で呼ばれる1ランク上の存在。
家臣達も、女主人の事は領主館の主という意味の御館様と呼ぶし、当主であっても重要な決定には御館様の承認が求められる。
今の貴族は生れた時から良い家柄の女性と結婚する為に努力を重ねて来たせいで、貴族の家柄に婿入り出来た男は所謂“勝ち組“。
“負け組”の下位貴族や平民を見下す事で、家庭内で伴侶や姑に押さえつけられているストレスを解消していると書いている本もあった。
プライドが高く傲慢な男性貴族が多いのはそうした背景があるらしい。
いつものように、治療室で怪我人の治療をしていた。
ふと、回復の時に治療する筈の傷から逸れた魔力の流れた先が見えた。
行き先は見えにくい小さな傷や内臓。
どうやら俺が気付いていない傷や病気を治しているらしい。
今迄はイメージした傷だけだったが、回復の練度が上がったから治療範囲が広がった?
どうやら回復が勝手に患部を見つけてくれるようになったらしい。
あれ?
と言う事は傷が治る手順をイメージしなくても、“治るイメージ”だけでも回復が発動する?
ここからは試行錯誤。
きちんと手順をイメージして掌を翳す場合。
治るイメージだけで掌を翳す場合。
治るイメージだけで掌を翳さない場合。
少し離れた所から掌を翳す場合。
少し離れた所から治るイメージだけを送る場合。
治療を受けている冒険者に気付かれない様に注意しながら色々と試している。
仮説は実験で証明するのが早道。
毎日実験できるので、治療室で働けている事が有難かった。
熊に教えて貰った、魔力を思ったところに集める練習も続けている。
足・腰・足・腰・背中・腹・背中・腹・肩・腕・肩・腕。
毎晩ベッドに入ると、体の色々な所に魔力を集めるイメージをする。
最近は、ちょっとだけだが魔力が動いてくれている感じがする時もある。
はっきりと見える訳では無いが、頭の中には全身の魔力がぼんやりと見えるようにもなった。
進歩が見えるとテンションが上がる。
ガンバ大阪。




