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15 女の子は股を見られても問題無い

ギルド前の通りを何時も行く中央大通りとは反対方向に歩く。

熊がお金を出してくれたから、今日はズンさんと一緒にお買い物。

片側が半ズボンという珍妙な恰好だけど、服装は気にならない。

どうやら自分の見栄えにはあまり関心が向かないらしい。

そういえば、まだ鏡を見た事が無い。

ギルドでも鏡は見掛けなかった。

この世界には鏡が無いのかも知れない。



図書館以外に行くのは初めて。

キョロキョロと街並みを見回しながらズンさんに付いて行く。

「先ずは服屋よ。ショータ君はどんな服が好き?」

少し考えてみるが、安全の事ばかりで、服の事など考えた事も無かった。

寒く無くて、臭わなければ良いかなって言う程度。

スライムに溶かされて、片足だけ半ズボンになっていた事すらずっと気にならなかった。

ファッションセンス?

何それ、美味しいの、というレベル。



「特に好きとか無い。」

「じゃあ普通の服でいいね。」

「うん。」

道を進むと、小物・生活用品・雑貨・装飾品などと書かれた看板の掛かった家が多くなった。

看板は有るものの、見た目は普通の家。

中は全く見えない。

「これってお店屋さん?」

首を傾げ乍ら聞いてみた。

「そうよ。この通りは殆どがおしゃれ関係のお店。食べ物関係は1つ北の筋、武器や防具は街の西側だから中央大通りの反対側ね。」

扱っている商品ごとに区画が分れているらしい。



「ここよ。」

ズンさんが1軒の店の前に立った。

「ここ?」

ごく普通の家。

上を見上げると、看板に”子供服“と書かれている。

「この店は貴族や大商人の下げ渡し品が多くて、生地の良い服が多いの。」

「下げ渡し?」

「服を仕立てるには凄くお金がかかるから、新品の服を買えるのは貴族かお金持ちの商人くらいね。貴族や大商人の家では同じ服は何度も着ないから、すぐに一族や使用人に下げ渡すの。下げ渡された人が売りに出した服をこの店では売っているのよ。」

「ご主人様に貰った服を売るの?」

「余程気に入ったら自分で着るけど、売ればそこそこのお金になるから大抵は売るわね。下げ渡す貴族も承知しているから問題ないわ。」

「そうなんだ。」

リサイクルが前世よりも当たり前らしい。

そう言えば日本でも昔はリサイクルが当たり前だったらしい。

和服なんて殆どサイズが関係無いし、丈直しや仕立て直しも直ぐに出来る。

布団も綿の打ち直しをしたと読んだことがある。

リサイクルしなかったのは、大量生産・大量消費時代に入ってゴミ問題が注目を集める前までの歴史的には極々短い期間だけ。

この世界は大量生産大量消費になる前なので、リサイクルが当たり前なのだろう。



扉を開けて中に入る。

店の中にはハンガーに掛けられた服がズラリと並んでいた。

「いらっしゃ・・済みません、うちは男の子用しか置いてないんです。」

また女の事間違えられた、はぁ。

「この子は男ですよ。」

ズンさんが笑いながら店員のおばさんに説明した。

「おやまあ、そうなのですか・・。これは失礼しました。」

おばさん、まだ疑ってるな。

「それで、今日はどのような服をお探しですか?」

「そうね、動き易い服を上下3着ほど欲しいわ。下着も上下3枚ずつ。」

「少し待ってね。」

おばさんが沢山並んでいる服の間に歩いて行く。

俺達は奥の椅子に腰掛けて待った。



おばさんが両腕に沢山の服を抱えて戻って来た。

「ちょっと着てみてくれる?」

俺に上着を渡す。

渡された服を着て肩を回して見る。

結構動き易い。

一目で俺のサイズを見抜いたらしい。

おばさんが持って来た7枚の上着の中から3枚の上着を選んだ。

「ズボンも履いてみて。」

周りを見るが、試着室の様なものは無い。

「えっ、ここで?」

店員さんとズンさんは女性。

2人ともおばさんで俺は10歳の子供だけど、女性の前でズボンを脱ぐのは恥ずかしい。

「男の子だから恥ずかしいかな?」

「えっ、女の子は恥ずかしくないの?」

思わず聞き返してしまう。

「当り前じゃない。女の子は股を見られたって問題無いでしょ。男の子は大きさとか形次第では狙われるからね。」

「・・・・。」

そんな事、考えた事も無かった。

この世界は男女の価値観が少し、いやだいぶ違うらしい。

今迄何とも思わなかったのに、“大きさ”とか“形”と言われると急に恥ずかしくなる。

おばさんやズンさんに見えない様に、後ろ向きになってズボンを試着した。

ウエストは紐で縛るタイプなので、裾の長さと太ももの幅が合えば問題無い。

無事に3本のズボンを選べた。

古い服は袋に入れて貰って、新しく買った服を着た。



「お似合いよ、とってもカッコいいわ。今はまだ大丈夫だけど、もう少し大きくなったら女物の服を買った方が良いわよ。」

店のおばさんに言われた。

判らん。

俺に女装趣味は無いぞ。

「なんで?」

「見栄えの良い男は狙われるのよ。この街の周りは魔獣や盗賊が多いから戦える男がどんどん死んでしまうでしょ。だから、この街には子供が欲しい独り者の女が多いの。見栄えの良い男を襲って無理やり子種を搾り取る事件が結構あるのよ。」

異世界では女が男を襲うのか?

「男の方が力は強いのに?」

「女は魔力の扱いが上手いから、男よりも強くなることが多いわ。ソロの高ランク冒険者は殆ど女だし、パーティーでも実権は女よ。手続きとかの面倒な事をしたくないから男にリーダーをやらせてはいるけどね。冒険者も、女一人に男3~4人っていうハーレムパーティーが多いでしょ。女には男を従えるだけの実力があるのよ。」

えっ、それってハーレムパーティーなの?

アニメでも冒険者パーティーは男3~4人に女性魔術師1人という編成が多い。

まさかそれがハーレムパーティーだとは思わなかった。

俺の常識がガラガラと崩れて行く。

ギルドの受付嬢であるズンさんが言うのだからそうなのだろう。

「そうなんだ。」

「そうよ。幾ら力が強くても魔法に長けた女性には男は全然敵わないの。昔から何故か女性の方が魔力の扱いが上手いのよね。魔力量も多いから、有名な魔法使いは8割方女性よ。だから見栄えの良い男は女装して女の目を誤魔化すの。」

そう言えば、前世でも魔法使いと言えば真っ先に魔女を思い浮かべてた。

少年の魔法使いを思い浮かべるようになったのは、ごく最近になってから。



「そうそう。特にこの国は皇帝も女性だし、財産を相続するのは女性だから、女性が権力を持っている貴族が多いわね。」

お店のおばさんも頷きながら教えてくれた。

「女性が相続するの?」

「男が相続できるのは、相続資格の有る女性が居ない時だけね。面倒な会議や仕事を免れる為に男に領主をさせている家が多いけど、そう言う家の当主は殆どが養子よ。」

お店のおばさんが教えてくれる。

「そうそう。家では”婿殿”って呼ばれて、奥さんやお姑さんに実権を握られているの。だから外で平民相手に威張り散らすの。問題を起こす貴族は大抵が養子ね。」

ズンさんも補足してくれる。

”婿殿”って、裏で人殺しを請け負ったりはしてないよね。

思わず前世の時代劇を思い出した。

「だいたい、男なんて怒れば泣くし、おだてりゃ付け上がる。殺せば化けて出るから始末に負えないわ。」

前世ではおっさんが女性を貶す時に、そんな事を言っていたような気がする。

「男は殺されると化けて出るの?」

「執念深いからね。振られたのに延々と付き纏う男って多いのよ。家の陰でこっそり覗いていたり、毎日手紙を家の前に置いたり、鬱陶しい事ばかりして警備員に捕まる事もあるわ。返り討ちにあって女性に殺される事も多いわ。」

おばさんの言葉に驚きながらも納得できる所があった。

そういえば前世でもストーカーは殆どが男だった。

男の方が女々しい、じゃなく男々?しいのかも知れない。



「とにかく、良い子種を狙っている女は魔法の練度を凄く上げているから男より強いわ。男を襲うという目標があるから鍛え方が半端ないの。関節技とかの体術も心得ている女も多いしね。坊や見たいな優男はすぐに縛りあげられて1週間は毎日絞り取られるわ。」

1週間毎日搾り取られる。

どうやら俺の来た世界はやばい世界らしい。

めっちゃ怖い。

一人歩きが急に不安になった。


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