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14 パンツを顔に押し付けて臭いを嗅いでみる

ギルドに戻ると、怪我人が7人待っていた。

「皆さんお待ちかねの回復師さんがいらっしゃいましたよ。」

受付のお姉さんが治療室に声を掛ける。

「お~っ、やっと来てくれたか。」

「急かせて済まないな。」

「ショータのお陰で俺達は助かっているんだ。いつも感謝しているぞ。」

怪我をしている冒険者さん達が俺の顔を見て笑ってくれた。

皆軽傷だったので人数が溜まるまで待たせたらしい。

回復で傷が治るのは何故なのかという根本的な問題は有るが、今は治る過程と結果を明確にイメージすれば元通りになると言う事が判っているので問題は無い。

出来るだけ丁寧に傷を観察して、具体的な回復手順のイメージを作る。

「回復。」

患部がボワッと光って直ぐに傷が消える。

具体的な回復手順のイメージを作ると、治るまでの時間が明らかに短くなった。

ひょっとしたら使われる魔力量も少なくなったかもしれない。

練度が上がればもっと色々な事が出来ると信じて回復を掛け続ける。

その後6人が来て治療人数は13人。

銀貨29枚の稼ぎになった。



ベッドに入るとあれやこれやと考えてしまう。

回復の効果を前世知識で解明しようとしたのがそもそもの間違いだった。

大事な事は、イメージした通りの結果が得られている事実。

手順によって必要な時間や魔力量が違うし、仕上がりの見た目も多少違うが怪我が治るという1点に関しては違いがない。

毒の治療についても同様で、神経だろうが血液だろうが、元の状態に戻せば良い。

”元の状態に戻す“のが回復、そう考えると毒の治療にも少し自信が湧いた。



あれ?

ふと思った。

”元の状態に戻す“のが回復なら、汚れたパンツを回復すれば綺麗になる?

ボロボロのズボンを回復すれば新品になる?

ベッド横に置いていたズボンを膝に乗せ、掌を翳す。

“回復”

まあそうなるな。

ズボンはボロボロのままだった。

いや、待て。

お昼に食べた焼肉のタレを零した染みが見当たらない。

慌ててパンツを脱ぐ。

替えの下着が無いので今日は裏表逆さに履いていた。

めっちゃ黄ばんで湿ったパンツを膝の上に乗せ、掌を翳す。

”回復“

布はヨレヨレのままだが、黄ばみは消えている。

ちょっと抵抗があったが、パンツを顔に押し付けて臭いを嗅いでみる。

臭いがしない。

やった~!

勿論、上着にも回復を掛けた。


 

朝は運動と素振り

勿論バリアと鑑定も使い捲っている。

今大事なのは筋力強化と魔法の練度上げ。

朝の訓練が終わったら、ズンさんに声を掛け、利用料を貰って図書館へ。

ギルドのお迎えが来たら治療室。

俺のルーティーンが決まった。

図書館にある図鑑は凄かった。

写真かと思うほど精微な絵が載っていて、眺めているだけで楽しい。

小学生の落書きより酷い絵が載っていたギルドの図鑑とは大違い。

街の外に出る気が無いので魔獣や薬草を覚えても意味は無いが、楽しめているのは事実だ。



この世界に来てから10日経った。

鑑定は物の名前だけでなく、薬草の効能や食べられるかどうかまで表記してくれるようになった。

バリアは展開速度がめっちゃ早くなり、少し離れた所にも展開出来るようになった。

回復も発動した時に手応えの様なものを感じられるようになった。

回復弾の速度も上がったし、飛ぶ距離も伸びた。

剣も思い切り振れるようになった。

上から下へ真っ直ぐに振るだけなのに、これが意外と難しい。

1回1回微妙に軌道が変わってしまう。

刃筋の安定はまだまだ先の事だろうが、全力で振れるのは結構楽しい。



足腰の筋力が弱いから、全身を上手く使えていないと熊が言っていた。

最近は足腰を鍛える為、図書館に入る前に中央公園の周回路を2周走っている。

1周がおよそ10㎞なので20㎞。

警備隊の詰所が周回路の東西南北の4ヶ所に有るので安全だとズンさんから聞いた。

歩行者が居るのでジョギング程度の走りしか出来ないけど、それでも20㎞を1時間弱。

前世ならトップランナーのスピードで走れる。

ササヤカお神に作り替えて貰った体の身体能力はかなりの高さだった。

まだまだ筋力は足りないが、千里の道も1日1善。

ナスは生る、キュウリも生る。

元気があれば何でも出来る。

図書館で過ごす時間が少し減ったけど、読む速度が速いお陰で回復関係の本は殆ど読めたし、ずっとこの街で過ごすのだから急ぐ必要は無い。

熊がいつ迄使用料を払ってくれるかは疑問だけど。

図書館で過ごす時間を減らした分、魔法の練習や筋トレの時間を増やした。

座右の銘は”命を大切に“。

先ずは身を守る力の強化が最優先だ。



熊に呼ばれた。

恐らく図書館利用料の件だろう。

ズンさんに連れられてギルマス室に入った。

「ショータについて、冒険者達の苦情が殺到している。」

熊が苦々しい顔で俺を睨み付ける。

牙がキラリと光っている。

元々が恐ろしい顔なのに、一層怖い顔で睨むから背中に冷たい汗が流れる。

気付かぬうちに、何かをやらかしてしまったらしい。

「・・・・。」

「優秀な回復師なのにズボンすら買えないのか、という苦情だ。」

「はぁあぁ~?」

思わず声が出てしまった。

ズボン?

意味が判らない。

「ギルドがショータの治療料をピンハネしているのではないかと言ってる奴もいる。ともかく、とっとと服を買いに行け。替えの服や下着も買っておけ。冒険者達にはギルマスに服を買って貰ったと言うんだぞ。」

熊がズンさんに皮袋を放り投げる。

ガシャ。

金属っぽい音がしたのでお金なのだろう。

「え~と、有難う御座います?」

回復で服の洗濯が出来るから特に困っている訳では無いけど、取りあえずお礼を言った。


"SSランク冒険者のお仕事は下着の洗濯です”の投稿を再開しました。

毎日11時に投稿しています。

お目汚しかもしれませんが、お立ち寄り頂ければ幸いです。

第1部は1話が長いので、長いのが苦手な苦手な方は第2部から読んで下さい。

頼運

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