99 戦争に駆り出されたら、戦死コース1直線だ。
4日目の朝、お籠りの儀を終えてギルドに帰ると、熊に呼ばれた。
「どうだった?」
「疲れたぁ~。」
前世のような性的な快感を得る為の行為ではなく、人間社会を維持する為の重要な儀式としての子づくりは目からウーロン茶だった。
自分勝手に放出出来る男性社会の前世とは違って、この世界では受胎優先なので発射のタイミングは勿論、腰振りを止めるタイミングも全てが女性中心。
前世の性常識が悉く覆されたと言ってもいいお籠りの3泊4日。
想像以上の快感や大きな達成感と充実感は得られたものの、一言で表せば“疲れた”という言葉しか出て来ない。
心地よい疲労感では無く、ぐったりという感じ。
それでも嫌という感じは全く無かったのは、俺が根っからのすけべえだからかも知れない。
ただ、貴族との会話は気疲れした。
スグニさんの顔は知っていたが、挨拶だけで話した事は無かった。
貴族と初めて長い時間話したのは、指揮所のテントに呼び出された時の公爵との面談。
完全アウェーで、周囲には俺を殺す気満々に貴族達ばかり。
お陰で貴族が大嫌いになった。
その後は変態のお嬢様と、ベロを取り上げようとした警備長官のゴーイン伯爵。
俺の貴族嫌いに拍車が掛った。
そんな俺の初体験の相手が、あろうことか貴族家の御館様。
緊張するなと言われても無理。
幸いな事にナオール家の御館様や婿殿達が良い人だったので、貴族の中にも良い人が居る事は判ったけど、緊張が解ける所までは行かなかった。
そして、子づくり。
予想していたものとは全く違っていたので、常に集中していなければならず、最後まで神経は張り詰めたままだった。
「うむ、まあそれが大人になると言う事だ。」
熊が良い事を言ったとばかりにドヤ顔をしている。
どうやらこの世界では”お籠り“という通過儀礼によって、少年の精神が大人へと変わるらしい。
「はあ。」
「ともかく、子種に活力を与える為に週に3回は子づくりの練習をしろ。 自分でイメージしながら練習しても良いし、花街の専門店に行っても良い。 それが男としての義務だ。」
自分でイメージしてか、・・・。
ネットもエロ本も無いこの世界で、興奮するような事をイメージ出来るかな。
「セィヤ、セィヤ!」や「ペガ〇ス!」・「リュウセ〇ケン!」をイメージして興奮出来るとはとてもでは無いが思えない。
かと言って花街に行けば、裏ギルドのボスたちが“竜滅御用達の看板”や来店記念のサインを店の正面に掲げそう。
前世には有名人用の会員制高級風俗があるって噂されていたけど、みんなが協力して子づくりするこの世界には、そんな秘密クラブみたいなものはありそうもない。
「はあ。」
「ともかく、ショータは血の穢れを薄めるには最高の相手だ。 受胎能力が付き始める1~2年後には子づくりの依頼が殺到する。 それまでにしっかり訓練を積んでおけ、いいな。」
「はあ。」
こっそりひっそり暮らす筈だったのに、どうしてこうなった。
「話は変わるが、公爵家からショータに年金を下賜するとの連絡があった。」
「年金って?」
前世では年寄りが貰っていたけど、俺はまだ12歳。
年金を貰うような年齢では無いぞ。
「Aランク冒険者には国や領主から年金が出る。」
「そうなの?」
「Aランク冒険者は1個師団相当の戦力だ。 自分の国に呼ぼうとする王も多い。」
「うん。」
1個師団相当の戦力という話は冒険者のおっちゃんから聞いた。
俺は鼠の魔獣1匹倒せないのに。
「Aランク冒険者が国を移ると軍事バランスが崩れる事が多い。 Aランク冒険者が敵対国に流出したら、国や領主としては大損害となるから、普通ならAランクに昇格したらすぐに国に留まるよう要請がされ、実力に応じた年金が下賜される。」
「今迄何も言われなかったのは普通じゃ無いって事?」
「どうやら、処分された不正貴族達が、ショータと公爵閣下が近づくのを妨害する為に年金の下賜を貴族院に却下させていたらしい。」
「・・・でも、俺はベルンから動くつもりは無いし、仕事もしないでお金を貰うのは嫌かな。」
「Aランク冒険者がこの街に居ると言うだけで立派な仕事だ。」
「それでも、俺が勝手にこの街に住んでるだけだし、ギルドから働いた分のお給金を貰ってるよ。」
「そうであってもAランク冒険者がベルンに住んでいると言う事が、公爵にとっては大事なんだ。」
「う~ん、・・・やっぱり要らないかな。 今まで通り気儘にさせて貰えたらそれだけで十分。 何もしてないのにお金を貰ったら、後から絶対に何かさせられそうな気がするもん。」
隣の国と戦争にでもなったら真っ先に駆り出されそう。
俺はまだ鼠の魔獣も倒せない。
戦争に駆り出されたら、戦死コース1直線だ。
「確かに年金を払っているのだから戦いに行け、と言われるのは有り得るな。」
「やっぱりそうなんだ。 だったら絶対に要らない、断って。」
「いいのか?」
「うん。 自分で働いたお金以外は受け取りたくないから。」
「判った。 公爵家にはそう伝えておこう。」
「うん。」
「公爵家からは、もう1つ提案があった。」
「提案?」
申し出と提案はどう違うんだ?
判らん。
「ショータに週に2日の休日を与えよ、というギルドへの提案だ。」
休日か。
そう言えばこの世界に来て以来休日は無かった。
とはいっても、俺が働いているのは夕方からの2~3時間程だけ。
その2~3時間も待ち時間の方が多い。
朝から夕方までは自由だから、殆ど毎日が休日みたいな感じ。
訓練や図書館で毎日忙しいけど、仕事ではない。
休暇が無い事にすら気付いていなかった。
「でも、俺がいなかったら冒険者が困るでしょ?」
「勿論困る。 だが元々このギルドには回復師が居なかったから週に2日程度ならショータが居なくても問題は無い。」
「そうなんだ。」
俺がいなくても問題無いと言われると、ちょっと寂しい。
「どちらかと言えば、うちの冒険者達はショータに頼り過ぎだ。 冒険者は自己責任、人に頼り過ぎるのは良く無い。」
「そうなの?」
「そうだ。 実際に大規模討伐でショータが2週間ギルドを留守にした時には、教会や民間の治療院で治して貰っている。」
「でも、高いんでしょ?」
低ランクの冒険者だと、高額過ぎて治療を受けられないと聞いた事がある。
「ギルドの治療室が安すぎるだけだ。 貴重な魔力を使って治して貰うのだから、教会や民間の治療院の料金が適正な額だ。 逆に安く治療して貰えるとなると、無茶をする冒険者が増えて怪我人が増える。」
「そうなの?」
「そうだ。」
俺がいるせいで怪我人が増えているとは思わなかった。
ちょっとショック。
これからもベルンで生きて行くのだから、将来の事を考えるとこの機会に週休2日にして貰うのも良いかも知れない。
週に2日の休みがあれば、剣や魔法をもっと練習出来るし、ちっとも進んでいない魔法陣の解析も進められる。
ただ、大きな問題があった。
「えっとぉ・・。」
「何だ?」
「休みの日も食事や部屋代は無料でいいの?」
こつこつと貯めているお金を使うのは嫌。
休日の部屋代や食費を払う位なら、休日は要らない。
夕方の数時間治療室に居れば良いだけだし、回復魔法の練度上げにもなる。
「当然だ。 流れの治癒師はギルドで2日治療すれば1週間宿泊と食事は無料がギルドの規定だ。」
流れの治癒師は週休4日がギルドの規定らしい。
「そんな規定、聞いてないんだけど。」
「そうだったかぁ? 説明し忘れたかも・しれんなぁ。」
何であさっての方向を見て言うんだ?
絶対に嘘、わざと説明しなかった確信犯だ。
「はぁ。」
溜息しか出ない。
「ともかく、これからは週に2日は必ず休め。 何か用事が出来たら、長期休暇も自由に取れるから遠慮せずに申し出ろ。 ショータはAランク冒険者だから、長期休暇中の間も部屋や食事は今まで通りで良いからな。」
「うん。」
これからは週に2日がお休みになった。
100日連続投稿を達成出来ました。
これも拙作を読んで下さった皆様のお陰です。
本当にありがとうございました
第2章の開始は4月1日とします。
少し期間が空きますが、また読んで頂けるよう頑張りますので、投稿再開の折にはアクセスをお願いします。
免独斎頼運




