文化祭、すれ違う2人
文化祭の興奮がまだ校内に残る中、俺とゆうなは並んで歩いていた。手を繋ぎながら、どこか照れくさそうな空気が漂う。
「奏汰、今日…すごく楽しかったね」
ゆうなが、少しだけ恥ずかしそうに言った。俺も同じ気持ちだった。
「うん、俺もすごく楽しかった。でも、まだちゃんと言えていなかったことがあるんだ」
その言葉に、ゆうなが少し驚いた表情を見せる。
「何か、気になることでもあった?」
「いや、なんていうか…今日は、気持ちを伝えられたから、すごく嬉しいんだけど、なんだか色々と気になることもあって」
「気になること?」
「うん。陽翔のことだよ」
その言葉に、ゆうなはほんの少し黙り込んだ。表情が曇ったわけではないけれど、明らかに何かを考えているようだった。
「陽翔…」
俺の声が少し沈んだのを感じて、ゆうなは少しだけ首をかしげた。
「ごめん、奏汰。私も、陽翔のことをちょっとだけ気にしてた。でも、私たちがこうして一緒にいられることを、すごく大切にしたいと思ってる」
その言葉を聞いた瞬間、俺の胸の中で温かい気持ちが広がった。ゆうなは本当に素直で、俺の気持ちをしっかりと受け止めてくれている。そんな彼女に、感謝の気持ちが込み上げる。
「ありがとう、ゆうな。俺も、お前が好きだってこと、ちゃんと伝えられて良かった」
「うん…私も、奏汰と一緒にいると、とても幸せだよ」
その言葉に、俺は嬉しさがこみ上げてきた。でも、その瞬間、また別のことが気になってきた。陽翔のことが頭をよぎる。
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その日の夕方、文化祭の片付けが終わった後、まひるが俺たちに声をかけてきた。
「おう、お前ら、ちゃんと進展したみたいだな!」
まひるは俺たちに向かって、にやりとした表情を見せてきた。俺は少し恥ずかしくて、目をそらしながら答える。
「うるさいな、まひる。お前、なんでそんなに分かるんだよ」
「分かるに決まってんだろ。お前ら、微妙に照れくさい顔してるもんな」
「そ、そんなことないだろ!」
「はいはい、分かってるよ。お前らのことなんて、ちゃんと見てるからな」
まひるはふっと笑いながら言った。俺たちはそのやり取りに少しだけ笑い、緊張感が少しだけ和らいだ。
「でもな、気になることがあるんだよな」
「気になること?」
「うん、陽翔のことだよ」
その言葉に、俺とゆうなは顔を見合わせる。まひるは真顔で言った。
「陽翔が、どうしても俺たちの前に立ちはだかる気がするんだ」
「でも、まひる。もう決めたんだ。俺は、ゆうなと一緒にいるって」
「それは分かってるよ。でもな、陽翔がこれからどう動くか、私たちにも関係してくるかもしれない」
まひるの言葉に、俺は深く頷いた。確かに、陽翔がどう動くかによって、これからの俺たちの関係も変わるかもしれない。
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その後、ゆうなと一緒に歩いていると、少し気になることがあった。陽翔が、こちらに向かって歩いてきたのだ。
「お、おい、奏汰、ゆうな」
陽翔が声をかけてきた。その顔には、どこか曇った表情が浮かんでいる。
「陽翔、どうした?」
ゆうなが、少し驚いたように答える。
「いや、ちょっと話したくてさ…」
その時、俺の胸の中で何かがザワザワとし始めた。陽翔が何を言いたいのか、全く予測がつかなかったからだ。
「お前ら、もしかして、もう付き合ってるのか?」
その言葉に、俺たちは一瞬沈黙した。陽翔は、少しだけ苦笑いを浮かべていた。
「俺、やっぱり、お前らのことが気になってたんだ。でも、もう諦めた。だって、お前たちの方が、お似合いだと思うから」
その言葉を聞いて、俺とゆうなは顔を見合わせた。陽翔の表情は、どこか切なさを含んでいた。
「ありがとう、陽翔。でも…私たちは、お互いにちゃんと向き合うことにしたから」
ゆうなが、少しだけ恥ずかしそうに言うと、陽翔は静かに頷いた。
「分かってる。俺も、もう大丈夫だよ。だから、二人とも、幸せにな」
その言葉を聞いて、俺の中にある不安が少しだけ消えた。そして、陽翔は背を向けて、ゆっくりと歩き去っていった。
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陽翔が去った後、俺たちはしばらく黙って歩いた。その後、ゆうながぽつりと呟いた。
「奏汰、私、陽翔と少しだけ話してきてよかったと思う」
「うん、俺もそう思う。これで、気持ちがすっきりしたよ」
その言葉を聞いて、俺たちはまた手を繋ぎ直した。これから先、何が起きるかは分からないけれど、お互いに向き合いながら、一緒に歩んでいこうと決めた。