文化祭準備と、加速する想い
文化祭までの準備が本格化し、俺たちの関係も少しずつ進展していった。奏汰としては、まひるの作戦に従って、見た目を少しだけ「イケてる男子」に近づけることができた。ゆうなも、自分を少しだけ素直に表現し始めたし、お互いに意識しあう時間が増えてきた。
しかし、そんな中、やっぱり陽翔のことが気になって仕方がない。
「ねえ、奏汰、こっちの展示の方がいいかな?」
ゆうなが、文化祭の準備で展示物を作りながら、俺に話しかけてきた。その声が、少しだけ不安そうに聞こえた。もしかしたら、俺が陽翔と話しているときのことをまだ気にしているのだろうか。
「うん、それ、すごく良さそうだよ。ゆうなのセンス、いい感じだ」
俺は微笑んで言った。ゆうなの顔がほんのりと赤くなり、嬉しそうに笑った。
「ありがとう、奏汰」
その一言が、俺の心に温かいものを残す。でも、その瞬間、ふと陽翔のことが頭をよぎる。
陽翔がまた、ゆうなにアプローチしてくるんじゃないか? 俺が何もしていない間に、彼の好意が再び強くなったらどうしよう…。
「……奏汰?」
その瞬間、ゆうなが心配そうに俺を見つめていた。俺はすぐに顔を上げ、彼女に微笑んだ。
「ごめん、ちょっとぼーっとしてた」
「大丈夫?」
「うん、大丈夫。ありがとう」
そんな風に言いながら、俺は少しだけゆうなの手に触れた。さりげないつもりだったけれど、彼女の目がほんのりと赤くなる。
「え、えっと…!」
「なんだよ、急に」
「い、いや、別に…!」
その言葉を口に出してから、俺は少しだけ恥ずかしくなった。でも、こういうことが、俺たちの距離を少しでも縮めてくれたらいいなと思った。
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その日の放課後、俺たち三人はまた一緒に作業をしていた。まひるが指導する通りに、俺とゆうなはお互いに協力しながら準備を進める。だが、まひるはそんな真面目なシーンにも一切手を抜かない。
「おい、二人とも、少しは積極的に手を動かせよ!」
まひるは楽しそうに言いながら、どこか冷やかすような目を俺たちに向ける。
「まひる、そんなに言うなら手伝えよ…」
俺が文句を言うと、まひるは軽く肩をすくめた。
「私は、指導する側だからな。まぁ、ほら、次はゆうなだ!」
そう言いながら、まひるは突然ゆうなを指さした。ゆうなは驚いて目を見開く。
「え、私?」
「うん、お前、今日の準備が終わったら、少しだけリラックスしろよ。せっかくの文化祭だろ?」
「でも…準備が…」
「お前、準備ばっかりやってるから疲れてるんだよ! 一回、ふたりきりで少し休んでこい!」
まひるのその言葉に、ゆうなは少し戸惑いながらも、少しだけ微笑んだ。
「うん…でも、どうして?」
「いいから、行け! このままだと、最後まで疲れちゃうぞ!」
まひるの言葉に、俺とゆうなはそれぞれ視線を交わし、しばらく沈黙が続いた。その後、俺たちは、まひるの言う通り、少しだけ休憩を取ることにした。
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その後、二人きりで歩いていると、どこか違った空気が流れていた。ゆうなが少しだけ歩調を合わせるように歩き、俺もそれに応じるように歩いていく。
「奏汰、今日、どうして少しだけ黙ってたの?」
ゆうなが、静かな声で話しかけてきた。俺は少し考えてから答える。
「ちょっと、考え事をしてたんだ」
「うん、気になることがあるんだよね?」
その言葉に、俺は驚いた。ゆうなが、そんな風に俺の気持ちを察していることが、なんだか少し恥ずかしく感じた。
「うん、実はさ…陽翔が、また何かしてこないかって心配で…」
「奏汰…」
その言葉を聞いたゆうなの表情が少しだけ曇った。
「私、もう大丈夫だよ。ちゃんと、奏汰のことを信じてるから」
その一言で、俺の胸の中にあった不安が少しだけ軽くなった。
「ありがとう、ゆうな」
「うん…私も、奏汰に対して素直にならなきゃって思った。もっと、自分を信じて、ちゃんと向き合いたいから」
ゆうなの言葉に、俺は強く頷いた。お互いに信じ合い、支え合っていくこと。それが大切だということを、改めて実感した。
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文化祭の準備は、日に日に盛り上がってきた。お互いの気持ちも少しずつ確認し合いながら、俺たちはいよいよ本番を迎えようとしていた。
でも、心の中で確信していた。どんなに不安なことがあっても、俺たちはきっと乗り越えていける。お互いを信じて、共に進んでいけば、きっと素敵な結果が待っているに違いない。