すれ違いと初めてのケンカ
文化祭の準備が進んでいく中で、俺とゆうなの関係も少しずつ変化していった。手を繋いだり、ちょっとした会話を交わしたりすることが増えて、それだけで心が温かくなる。でも、その一方で、何かモヤモヤした感情も心の片隅に芽生えてきていた。
それは、陽翔との関係だ。
「ねえ、奏汰。今日の午後、陽翔と何か話してたでしょ?」
放課後、ゆうなが少し気になることを言ってきた。その言葉を聞いた瞬間、俺は一瞬、息を呑んだ。
「え、なんで?」
「だってさ、なんか、ちょっと気になったんだよね。陽翔、奏汰のこと、どう思ってるのかなって」
その言葉が、何故か胸に響いた。俺が陽翔と話していたのは、ただの挨拶だったし、別に意味があったわけじゃない。でも、ゆうなの言葉に、どこか引っかかるものがあった。
「いや、ただの話だよ」
そう言ったけれど、ゆうなの顔は少し曇ったままだった。
「そっか……でも、私は、気になるよ」
その言葉に、俺は胸が締め付けられるような気がした。どうしてこんな風に思うんだろう。陽翔と何を話しても、ゆうなには関係ないはずなのに。
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その日、俺は何となく心の中でモヤモヤしていた。陽翔のことが気になりすぎて、ゆうなの反応が少しだけ怖くなっていた。まるで、ゆうなが俺の何かを疑っているかのように感じてしまって、思わず彼女と顔を合わせるのが怖くなった。
でも、結局その日の放課後、俺とゆうなは文化祭の準備で一緒に過ごすことになった。何か、避けているような気持ちでずっといたけれど、彼女と一緒にいると、やっぱり安心する。
その時、まひるがやってきた。
「おーい、ふたりとも! さすがに文化祭準備中にイチャイチャしすぎだろ!」
まひるの言葉に、俺たちは顔を見合わせて笑った。でも、どこか微妙な空気が流れていた。
「うるさいな、まひる。そんなに言うなら、準備手伝えよ」
「え? いや、私は指示出す側だから、こうやって見守ってるんだよ」
まひるが軽く手を振りながら言う。その言葉に少しだけ笑ったが、俺の中では、あのモヤモヤした気持ちが消えたわけじゃなかった。
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その夜、メッセージで、またゆうなとやり取りをしていた。
「ねえ、今日のこと、気にしてる?」
俺がそう送ると、ゆうなからすぐに返信が来た。
「気にしてるっていうか……私、奏汰が陽翔と話してると、なんか不安になるだけ」
その言葉を見た瞬間、胸が痛くなった。どうして、こんな簡単なことすら、俺は理解してあげられなかったんだろう。
「ごめん、ゆうな。俺、気にしすぎてた」
「ううん、そういうことじゃないの。私はただ、少しだけ気になるだけだから。でも、もし奏汰が陽翔に何かを取られるんじゃないかって……」
その言葉に、俺は言葉を失った。
(陽翔に取られる? それって、つまり、俺がゆうなをちゃんと守れてないってことか)
その思いが、胸の中にどんどん広がっていった。
「ゆうな、俺、ちゃんとお前のこと守るから。信じてくれ」
そう、何度も心の中で呟いていた。でも、伝わったのだろうか。
数分の沈黙の後、ゆうなから返信が来た。
「ありがとう、奏汰。私も、ちゃんと伝えるよ。あんなに不安になるなんて思わなかったけど、これからはもっとしっかりしないとね」
その言葉を見て、少しだけ胸が軽くなった。お互いに、もっと素直にならないといけないんだな。
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その後、次の文化祭の準備が進む中で、俺とゆうなの関係は少しだけ進展していった。まだ完璧ではないけれど、少しずつお互いの気持ちを理解し合っている感じがする。
ただ、陽翔のことが、完全に気にならなくなったわけではない。陽翔の存在が、俺にとってちょっとした障害になっていることも確かだった。
でも、少なくとも今は、ゆうなに対してちゃんと伝えたことが大事だと思う。
俺は、もう一度、心の中で誓った。これからも、ゆうなとしっかり向き合って、どんなに辛いことがあっても、彼女を守り抜くんだ。