恋のライバルは、真っ直ぐだった
夕暮れ時、学校の帰り道。どこか心地よい風が吹いていて、季節の移ろいを感じる。まるで、この瞬間に合わせたかのように、俺の胸の中も少しずつ落ち着いてきていた。
「ねえ、奏汰。今日は何の話?」
ゆうなが少し首をかしげながら、俺を見つめてきた。
その目が、どこか不安げに見えて、俺の胸はドキドキしていた。
(今だ。今、言わないと……)
でも、言うべきことがなかなか口から出てこない。
「いや、なんでもないんだ。ただ、ちょっと気になることがあってさ」
その言葉を吐いた瞬間、思いがけないことが起きた。
「おお、姫野ちゃん! 今日はこっちだな!」
突然、背後から声がかかる。振り向くと、そこには――
「陽翔か……」
俺の視界に入ってきたのは、陽翔だった。あいつは、まるで何も気にせず、ゆうなに近づいてきた。
「今日はこっちで帰るのか? じゃあ、一緒に帰ろうよ」
陽翔のその言葉に、俺は心の中で思わず息を飲んだ。
「うーん、今日は……」
ゆうなが少し戸惑った顔をして、陽翔を見つめる。
(おいおい、待てよ。陽翔、また誘ってきたのかよ)
陽翔は、完全にゆうなに対して堂々とアプローチしている。それが何とも自然で、俺にはまるで引けを取っているように感じられた。
「ゆうな、今日はちょっとだけこっちで話したいことがあるから」
俺が一歩前に出て、言葉を続けようとする。
その瞬間、陽翔がニヤリと微笑んだ。
「いや、気にしなくていいよ。俺もいい話があるんだ。姫野、最近どうしてるか気になってさ」
陽翔のその言葉に、俺の気持ちが少しだけ萎んだ。
(なんでだ? 俺、何も言ってないのに)
その時、まるで二人の間に空気が流れるような感覚を覚えた。陽翔がゆうなに対して本気で好意を持っているのは分かっている。でも、それを目の前で見ると、やっぱり胸が苦しくなる。
ゆうなは、少しだけ言いにくそうに顔をゆがめた。
「奏汰……今日はごめん、また今度話すね?」
その言葉を聞いた瞬間、俺は内心で少しだけほっとしてしまう。
(今はダメだ。でも、あいつが言ってたみたいに、俺がしっかりしないと、どんどん取られちゃうな)
陽翔とゆうなが並んで歩き出す。俺はその二人を見送ることしかできなかった。
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その日の夜、まひるからメッセージが届いた。
『今日はどうだった?』
すぐに返事を送った。
「何もできなかった。陽翔が来たし、結局、何も言えなかった」
すると、すぐに返事が返ってきた。
『ふーん、やっぱりな。奏汰、グズってると他の奴に取られちゃうぞ』
その言葉を見た瞬間、俺はハッとした。
まひるの言う通りだ。もし俺が今、何も言わないでいたら、陽翔がどんどん前に出ていってしまう。俺は一歩踏み出さなきゃいけない。
その日の夜、俺は自分に誓った。明日こそ、ゆうなに伝えよう。
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そして、次の日。登校中、ゆうなと一緒に歩いていると、まひるが駆け寄ってきた。
「おーい、奏汰、ゆうな! 今日こそ、頑張ってね!」
「まひる、うるさいよ……」
「いいから! お前、ほんとに言わないと、陽翔に取られちゃうって!」
まひるの言葉が、俺の背中を押すように響く。そんな風に言われると、逆に焦ってくる。
「ゆうな、ちょっとだけいい?」
急に言ったことに、ゆうなは驚いたように振り向く。
「うん、何?」
俺は深呼吸してから、ゆうなに向き直った。
「実はさ、俺、ずっとお前のことが気になってた」
その一言が、意外にすんなりと口をついて出た。
ゆうなの顔が少し赤くなった。
「え……?」
「いや、その……」
ゆうなは一瞬、黙った。でも、すぐに微笑んで言った。
「ありがとう、奏汰」
その言葉に、俺は少しだけ安心した。もちろん、すぐに何かが変わるわけじゃない。でも、今言えて良かった。
その瞬間、まひるが後ろから元気よく叫んだ。
「おー! よく言った! これで陽翔に負けるなよ!」
俺は軽く舌打ちしながら、まひるに向けて一度だけ目を向けた。
「うるさいって」
でも、心の中では、ちょっとだけ嬉しかった。




