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全10,000字ちょっとの習作です。

よかったら、1週間お付き合いくださいませ。

「さて、と」


翌朝、営業を終えた店内に、クロウはぽつねんと佇んでいた。

まだ、明けの明星が輝いていて、バルクもエヴリンも起き出してくる様子はない。


余談だが、エヴリンも鉄の歯車の建物内に私室を持っているということだった。二人の関係は、父子同然なのだという。

バルクの英雄譚には、子供を助ける話が幾つもあったはずだ。彼は、困窮した子供と見ると手を差し伸べる性質なのだろう。


「数があるからな。ひと息に終わらせよう」


さておき、クロウはそう独り言ちると、左腕を肘上まで覆う革製の長手袋を外した。

現れたのは、ゴツゴツとした鈍く光る金属製の義肢だ。


彼の左腕は、機械のそれに挿げ変わっていた。

それを掌を上にするようにして眼の前に掲げると、カシュンという軽い音ともに指の先から分割線が入り、先端部に様々なアタッチメントの付いた機械触手が無数に顔を出した。そして、


「よし、行け」


という声に呼応して、文字通り八方に機械触手が伸びてゆく。


クロウが取り掛かったのは、酒場を照らす照明装置の修繕だ。全部で八基ある。

たかが照明だが、魔導具ゆえに素人では弄るのが難しい。

光のルーンが刻まれた魔導石を中心に据え、無制限のその出力を基部の回路で調整することで、適度で温かな光を放つ仕組みなのだ。


「思ったより、キツい、な・・・」


機械触手の操作は、脳への負荷を伴う。それを同時に八方向とあって、クロウの額にはじっとりと脂汗が浮かんできた。


数本ならそれほどでもないのだが、これだけの数を操るとなると甚大な負荷になるということを、彼は今さらながら学んでいた。


- ものは試しで・・・始めてみたはいいがよ・・・


一つずつ片付ければ良かった・・・と地味に後悔したが、ここまでやってしまっては、さっさと作業を終わらせる他ない。


照明装置は、経年劣化で基部の回路が一部破断したり、魔導石のルーンに欠けが生じる等することで、光の調整が不安定になっていた。

そこに機械触手で、魔導石にはルーンの再刻を行い、基部の回路は繋げ直していく。

幸いにして、魔導石自体を交換する必要はなく、回路の破断も限定的だった。


全ての照明装置を同時並行に処置すれば、半刻もかからず作業を完了させることに成功した。


「・・・はあ、はあ。流石に無茶だったか!でも、多分これが、一番楽だ・・・やった!」


機械触手を左腕に収め、手袋をはめ直すと、クロウはどっかと席に座り込んで天を仰いだ。

脳の奥がズキズキすると思ったら、鼻血が一筋流れ落ちてきた。


楽をするためにキツい思いをするというのは何処か矛盾するが、たしかな達成感がそこにはあった。

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