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全10,000字ちょっとの習作です。
よかったら、1週間お付き合いくださいませ。
「この街で仕事を探すなら、まずは良い斡旋元を探すのが先決だと思うわ。独力で仕事を取れるよう、実力の証明ももちろん大事だと思うけど」
エヴリンは、クロウから聞かれるままに、街での生活に必要な情報を惜しみなく教えてくれた。
フォージ特有のルールや見えない掟、どの区域が危険でどこが安全か、そして押さえておくべき接触先などだ。
彼女の情報は、彼にとって非常に貴重なものだった。
その代わりと言ってはなんだが、彼は自分のことを話していた。
主には流離いの魔導技師としての話を、だが。
それと少し悩んだものの、古代文明の遺跡探索者でもあると伝えた。
「あら。旅人って、みんなそう言うのね」
「そうかもな」
エヴリンがころころ笑うのを尻目に、クロウは苦笑した。
実際、何処の馬の骨ともしれない連中の常套句だろうと自分でも思う。
「でも、それなら丁度良いかも。手始めにウチのマスターと仲良くなったら?紹介するわよ?」
「・・・なあ、何故そこまでしてくれるんだ?言っちゃなんだが、俺は掃いて捨てるほどいるような与太者だぜ」
エヴリンの提案に、クロウは逆にそう問い掛けた。
何くれとしてくれて有り難いのはもちろんだが、それ以上に頭の中は疑問符でいっぱいだった。
「もしかして、俺に一目惚れしたとか?」と軽口を叩けば、「ふふ、そうかもしれないわ?」と流されてしまう。
「でも、そうね・・・女の勘・・・かしら?」
暫し逡巡するようにして、エヴリンは答えた。そう言われてしまうと、返す言葉も無い。
結局、彼女が何を考えているのか今一つ定かではなかったが、一先ずは良しとすることにした。
「ねぇねぇ、おっちゃん。この人、魔導技師なんですって」
そんなエヴリンも、マスターに話し掛けるときには、声色と横顔にあどけなさが浮かぶ。
たしかな信頼と親愛がそこにはあった。
「おい、ワシのこたぁマスターと呼べよ、エヴリン。まぁ、話は聞いていたぜ?」
酒を注ぐ手を止めないまま、マスターはそう頷いた。
厳つい髭面で筋骨隆々の、豪快な見た目の親爺だ。
「ワシはバルク。宜しくなぁ、若いの?」
「お噂はかねがね。クロウです、よろしく」
人呼んで、戦斧のバルク。
今は昔、先の大戦の英雄の一人だ。
そんな英雄が切り盛りする店ということで、鉄の歯車はその筋ではちょっとばかり有名なのだ。
「がっはっは!お噂はかねがねだぁ?なんだその勿体振った言い回しは!酒が足らんぞ、もっと飲め!」
話してみると、バルクは見た目通り気さくで話の分かる男らしい。
押しが強いという以上に力が強いことに閉口したが、仕事が欲しいというクロウに、あっさり依頼ごとをしてくれた。
「あぁ、仕事だってか?よし、それならウチの設備を直してくれや。古くなってきていて、ぼちぼち手入れしたいと思っていたところだ。ワシはドワーフの血を継いではいるが、造る直すはからきしでなぁ」
卑下するでもなく、バルクは言った。
彼は、種族分類としては半土精族だが、残る半分の血がなんと半巨人族という変わり種だ。
そのため、背丈だって中肉中背のクロウよりよほど大きいのだ。
「せっかくだから、お前さんの魔導技師としての腕を、ワシが試してやろう」
そしてニヤリ、と凄みのある笑みを浮かべた。
もちろん、クロウとしては願ったり叶ったりの話だった。