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ZEROミッシングリンクⅦ【7】ZERO MISSING LINK 7  作者: タイニ
第六十一章 時が紡ぎたいものは

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84 だったらお前も



「なあチコ、カーフにあれはないだろ?大勢の前で。」

「今まで甘くしていたから、ああいう行動に出たんだ。他の者にも認識しておいてもらう必要がある。」


駐屯の個室、数人しかいない中で、オリガン大陸から来たフラジーアが呆れるが、チコは当たり前の対処だと意に介さない。

「カーフはまだ20歳越えたくらいだろ。経験してみないと納得いかないこともあるさ。」

「経験してからでは遅い。」

経験して……みんな死んでしまった。


「少なくとも戦争の激戦中ではないんだ。」

「テロは起こってるし、この期に及んでもまだ派閥を立ち上げているクソどもがいる。」

「………」

未だにユラス原理主義やを貫こうとしている者たちもそれなりにいるし、強靭な国家保守の者もいる。


既に他地域の文明の利器にあやかっているのに。宗教規範や日常的行動だけ数千年前の聖典を持ち出し、ブランド品、家電や工業、建築や兵器は他文化から得た最高の物を求めているのだ。笑うしかない。


「ならお前も……チコ様も自重しろ。」

「?!」


いきなりのどキツイ発言に、周りも思わず目を開いてしまう。


「シロイと話が合わなくなったのはそのせいか……。」

フラジーアがため息をつくように言う。

「……は?」

「本当に離婚する気はないんだな。」

「………」

一瞬答えられないけれど、軽くうなずく。


「だったらチコ様はオリガンには来るな。サウスリューシアも危険だ。」

「はあ?死ぬ気はない!」

簡単に死なない自信がある。何せ強い。


「だったら何で二度も瀕死になってるんだ?こんなアンタレスで。」

「………」

なぜ知っているのかと、カウスとガイシャスを見るがカウスは何も答えない。瀕死の度合いが気分の話なのか本当に重傷だったのか分からなくて、そのことすら知らなかった一部のメンバーがまた目をパチクリしている。一度は意識不明の重体だ。この時代でなければ四肢機能も失っていたであろう。既に失ってはいるが。


「……まあいい。とにかく、きちんと議長夫人の座に収まるんだったら軍の遠征なんかするな。あのソライカたちがよく引き下がったと思っていたが、かと言って席を空けるようなことはやめろ。今だってカーフにあんなことを言うなら自分もユラスの席できちんと大人しくしているんだ。」

席とは議長の夫人席の事だ。

「…………」

言い返せなくてなんともいえない顔をする。


「でも、暮らし方はお二人の事情ですし、今の形で主力の者たちは一旦納得しています。」

ガイシャスが手助けをするが、フラジーアからしたらそんな問題ではない。

「一旦だろ?サダル…………あいつもあいつだな。」

議長をあいつ呼ばわりである。


「子供のことは延々と言われるし、実際そのことでこれからも派閥が割れるぞ。永遠の忠誠を誓っても、5年10年もしたら、コロッと変わる奴も多いし。

せめて議長には愛人に子供でも作ってもらわないと。」

「?!」

「………。」

周りは驚くが、チコはそんな事自分が一番分かっていると言いたかった。



「ま、少なくともユラス教の奴らはそう言うだろうな。」

サダル派は正道教改宗者が多いので養子でも納得するだろうが、そうはいかない世界もある。ユラスは血族と子孫へのこだわりが強い。いくらサダルがユラス統一を果たしても、ユラスに国はたくさんあるし何億もの人間が皆同じ主義でもない。


サダルは母系でも、これだけ優秀な人間なら話もまた違う。族長そのものを担わなくても様々な声が上がるだろう。



部屋に沈黙が広がった。




「…………」

フラジーアの言葉に、チコは何も言わずにじっと耐えている。

けれど、「またその話か。解決したと思っているのになぜまた持ち出す」と正直怒鳴りたい。耐えるけれど。


「心配しているんだ。バベッジのことも知られたし、国内ならあれこれ言われるだろうが、海外ならもう少し安定して暮らせる。バイジーやタフルクが嫌だったら、他にもあてがあるぞ。」

その話は本当にやめてほしい。チコは自分よりもう周りが聴くのも嫌だろうとうんざりする。

「あいつら子供だろ?」

「何言ってるんだ。もう全員成人しているしバイジーは1歳しか変わらんだろ。

だいたいカーフのことをあれこれ言うが、自分もまだ30くらいだろ?俺からしたらチコも子供だ。年上がいいか?今の時代、少し姐さん女房くらいがちょうどいいと思うがな。」


「………」

アーツでは年長組だったので、子供と言われてむっとしてしまう。そういえば最近は年下の方が俄然周りに多かったのだ。

どちらにせよ、バイジーやその辺の顔ぶれもサダルと同じだ。同族親族に子供を求められるに決まっているし、自分たちもほしいであろう。なぜそれを分かってすすめるのか。チコとしても、彼らに子供を授かって幸せになってほしい。

けれどさらに話がややこしくなるので、今は言わない。


結婚しているのに人に会う度に言われて、これからもいちいち納得させなければならないのか。




「…………」

カウスが仕方なさそうにチコを見て、ため息をついた。


「…()()心配しています。…そろそろ考え時じゃないですかね…。」

カウスがそっと一言いい、チコも一瞬振り向いてしまうが返事はしない。護衛のくせにとチコは睨んでおく。



そこに、事務の方から連絡があった。

「ファクト?」




***




「今日、クレープ屋すごく混んでたけど、今は客減って、気合い入れ過ぎて作り置きで余った生地があってバンバン作ってくれた。おまけ10個もくれた。」

「クレープ渡しに来たのか?」

チコが呆れるが、訪問者の目的はそれだけではない。


「ねえチコ。もっとカーフに優しくしなよ。」

「………ファクトまで何なんだ?………」


わざわざ駐屯にまで来てチコを説得しに来たのはファクトである。

時間外なのに、家族面会室に差し入れのクレープをドンと持って来たのだ。


そして、淀みなくクレープ屋で起こったことを説明していく。



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