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ZEROミッシングリンクⅦ【7】ZERO MISSING LINK 7  作者: タイニ
第六十章 僕の一歩はこれだけだけど

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80 「がんばれ」って優しく誰かが

サラサのイメージ画です。ちょっとイメージよりスッキリ子供っぽくなってしまいましたが、こんな感じで。

イラストデイズ

https://illust.daysneo.com/works/b57ddd938843b07ed5177b7c03beb90d.html



現在、ベガスのイベントのメインは、東アジアの防衛関係で9月開催予定から10月に押している。


予定を越える来場者が見込め、その調整と対策であった。重役が必要なメインイベントは既に済ませてあるのでゲストに関しては問題はない。




その頃文化会館の広がる四支誠(よんしせい)では、今回の特別演出家が使い物にならなくなっていた。


「リーオ、大丈夫?」

「リーオさん?」


バレエダンサーで、今回は特別講演の振り付け&演出を担当しているリーオがソファーに体を沈め、先ほどバイクで到着したムギやファクトが来ても項垂れている。

「リーオ大丈夫?お仕事あるんじゃないの?」

「………」

まだ休憩中だが返事すらできないようだ。


リーオの沈みように慰めの言葉がない。

「リーオ?本当にどうしたの?」

「……どうしたも何もテミンが…………」

とラムダが話そうとすると、四支誠にも追加出店していたおしゃれカフェの街常若(ときわか)の店で、ドリンクやサンドイッチを買ってきたカウス長男テミン、ジリにリギルが戻ってきた。


「はい、リーオ先生。アイスコーヒーでいいよね?」

テミンが年長のリーオに最初に進呈。リーオは落ち込んだまま顔も見ずに受け取る。


「あれ?リーオ、そんな体冷やすようなもの飲んでいいの?」

いつも体を冷やさないように、仕事期間は飲み物すら気を遣っていたのでファクトは気になる。

「大丈夫だよ!リーオ先生は、僕が応援してるから!」

「?」

ムギとファクトは先までここにいなかったので、「応援?何を?」と思う。

「大丈夫!僕も響先生大好きだから!一緒におめでとう言いに行こうね!!」

「響先生?」


さらに落ち込むリーオに、居た堪れない皆さん。



そう、テミンは言ってしまったのだ。

響がもう結婚してしまったと。


リーオの思いなど知らぬテミンは、リーオと響が同郷知人だと知り挨拶に行こうと。リーオが、「響はインターンや試験で忙しいので、自分は離れたところから応援している、大丈夫だ」とさりげなく断ると、

「え?響先生、やっとご結婚されたんです。リーオ先生もおめでとう言わないと……。でもお互い奥手らしくて……直接応援に行きましょう!」と言ってしまったとのこと。ファイは思う。お互いって、タラゼドが奥手のわけがない。


「え?それ可哀そう。」

ファクトは同情せざる負えない。リーオは響を好きでなくて諦めたのではない。好きなまま諦めたのだ。

きれいな女性に囲まれても数年待っていたのに、こんな大房民に持っていかれてしまうとは。結婚……と聞くまで本当はどこかで諦めがつかなかったのかもしれない。リーオは響以外、お互いの親族大歓迎のお見合い相手であった。


「テミン……こんな仕事の本公演真っただ中で、なんでそんな残酷なことしちゃうの?」

「??」

分からないという顔をしている。テミンの親カウスはあんなキャラでありながら、仕える上司の数倍の鋭さを搭載しているのに、テミンは擦れていないからかまだ人生経験が足りないのであろう。既に記念公演が始まっているリーオに見事に直接攻撃をさせてしまった。



「リーオ、使い物にならなくしてどうするの。」

「え?そうなの?!」

突然申し訳ない気持ちになってテミンは慌ててしまうが、やっとリーオが起きてテミンを慰めた。


「大丈夫…。テミン君のせいじゃないよ。

こんなに吹っ切れていないとは思わなかった…。『結婚』の一言が弾丸過ぎる……」

「リーオ!頑張って!大丈夫、芸術家は芸術で消化しなきゃ!」

ファイが適当に慰める。

「……そうだね…。今ならロマンスをリアルな演技を届けられそうだよ……」

「…正に!がんばれ………」

といっても、今回リーオ自身は講話が主でとくには踊らない。


しかし、ファクトはいらぬことを言う。

「え?リーオ、ゲスな話を芸術の糧にしちゃだめだよ。もうそんなのが糧になる時代はとっくに過ぎ去ったよ。」

「失恋だけならゲスくはないだろ。耐えたら勲章だよ。」

ジリがフォローする。

「はっ?ファクトあんた何を言ってるの??ジリもみんなの前で失礼だねっ。

リーオは最後まで紳士だったよ!もう、何であの時……まだ相手もいなかったあの時………抱いたままキスまでしなかったのってくらい!!」

「え?抱いたの?」

偉そうに言うが、別にファイも現場にいたわけではない。

「挨拶のハグって聞いたけど?」

「彼でもないのにキスはいかんでしょ。それは犯罪だ。」


みんな口々に言っていると、頭をあげないままリーオがぼやく。

「手にはした……。」

「ふぁっ??」

「いつっっ!!」

一斉にリーオに迫る、聞きたくてたまらない、大房のオバちゃんの血をひくゲスい下町ズであった。



そんなリーオを見ながらみんな考える。


そういえば、()()()もかなりの大役を任されているが、大丈夫なのだろうか……と。




***




「へ?タラゼド結婚したの?」


呆けている()()()のコパーに、モアは面倒そうに答えた。

「マジ。あ、でもまだみんなには広めないでね。親族挨拶もこれからで、大事にしないように言われてるから。とくに大房の人間には言うなよ。」


大房の一人にでも知れ渡れば、次の日には話題が10倍くらいに拡大して街中に知れ渡っているであろう。しかもあの、うるさい妹たちや性質が半分女子に染まった従兄弟たちが行き来するタラゼド家のお話である。



モアは、嫌そうにため息をついてしまう。


メインイベント、メイン会場の司会はコパーが担当するが、平日は複数人で小イベントの司会や案内アナウンスをする。そこでコパーがユラス系ゲストの仲介をしていたアーツのモアを見付け、タラゼドの予定を教えてほしいと会う度に何度も聞てきたのだ。個人的に会話もないし、タラゼドはアーツでなく会社の仕事をしているので知るわけがない。

けれど、「日曜日は休みでしょ?会いたいとかでなく司会を見に来てほしいと伝えて」としつこく迫る。この忙しい時に土日休みがあるかと言い返したいが流した。



しかし、数日後に遂にモアは言ってしまった。

タラゼドは結婚したからこれ以上口を出すなと。


振り向くとコパーの目に涙が溜まっている。


「…………」

俺にどうしろというのだ、と思うと同時に「ヤベ、イベントのメイン司会者。週末使えるのか」と心配になってくる。

「コパーさん?」

正直、コパーのことは顔しか知らない。昔、アストロアーツやダンス、クラブで見かけたいたくらいだ。


コパーは「あ!」と泣いている自分に気が付き、タオルを出して顔が崩れないように目をそっと抑え、礼だけしてブースに戻って行った。


あんな状態でメイン司会、できるのか。少し罪悪感が芽生える。


しょうがないので、モアはコパーと仲が良さそうだったファクトに連絡だけしておいた。




***




そして、南海の事務局前。

アーツの実績開示会議から戻ってきたサルガスは、フロアで待つ女性を抱きしめた。


「ロディアさん!」

「サルガスさんっ。」

軽くキスをすると、ロディアは恥ずかしそうにすぐにみんなの方を見る。


「ロディアさーん!!」

「会いたかったーー!!」

「みんな!」

イベントが終わってから戻ってくるつもりだったが、ロディアはベガス構築に下町ズより早く関わってきた。

それで、イータやソア、リーブラたちもぜひ来てほしいと誘ったのだ。一旦ヴェネレ国家に帰ったロディア母方の従姉妹や伯母、西アジアのタイトゥア龍家側の従姉妹たちも遊びに来ていた。

サルガスは伯母たちに最初に挨拶をし、ロディアがお互いを紹介させる。ロディアとケンカをした伯母は今回は来ていない。


「サルガスさーん!お久しぶりです!」

「こんにちは。」

従妹たちは初めて来るベガスにウキウキしていた。ベガスは正式にアンタレスの一区域になったが、高層ビルはほとんどなく広々として緑も多い。なのにどこか雑然としているのもアジアっぽく、そこはヴェネレ側の親戚たちが注目していた。



もう一人、見慣れないベガス側の女性もいる。

「ロディア!」

彼女ともロディアは抱きしめ合った。

「きれいに歩けるんだね!」

「はは。まだまだだけど。」

彼女は、ロディアと同じく初期からいたヴェネレ人の数学講師。ヴェネレにいい思いがなかった頃のロディアは怖くて関わる気になれなかったが、以前サルガスと同じ担当だったタチアナが繋いでくれ今は友達になっていた。彼女は年上で優しい人だった。


「イータも体大丈夫?」

なんと言っても二児の母。噂では二人ともやんちゃらしい。今はタウの母たちが子供を見ている。

「うん。二人目がソアの一人目と同級生だよ。」

「今度見に行きたい!ターボ君は?」

「保育園。毎日無表情のまますっごく走り回ってるって…。最近砂遊びにもハマってるみたいだけど、体中砂だらけになるし着替えもいるし、日に何度も行くから先生たち遊ばせたくないから砂場にカバーを掛けたって………」

「相変わらずだね……」



「すげー、女性ばっかだな…。」

一緒に会議室を出てきたタチアナが思わず言ってしまう。しかも、カーティン家に龍家だ。よく考えたら恐ろしい集団である。

「男はホテルに荷物だけおいて先に演習見に行ったんです。」

そう教えてくれるのは、気の強そうなロディアの従姉妹シーリル。訪問した男性親族は少ないが、東アジア、ユラスの合同軍事演習があり時間が短いので先にそっちに行ってしまった。


ファクトたちが好きそうな演目だが、いつものように突拍子もなく始まり、東アジア主導の決まった演目で戦闘機や武器、態勢など紹介していくものだ。チコやカウスたちはノータッチである。ファクトたちもその練習風景は見ていた。



ロディアは、今日一泊は女性たちと寝泊まりする。


この後、警備会社と監視の中間確認があるのでサルガスたちは去って行った。




***




そして、モアからの電話を受け取るのはファクト。


「コパーが?本当にまだあきらめていなかったの?」

「……らしいな。」

「こっちは、テミンがリーオを沈没させた。」

「………そうなのか…。さすがテーミン・シュルタン・オミクロン。

まあ、とにかく司会をしっかり果たせるのか不安だな。」


ファクトは四支誠の建物の屋上で風を浴びながら考える。

「……多分…。多分大丈夫だよ。」


「そのためにコパーもMCやトークの勉強を始めたんだから。」

「そのため?」

「自分でもちゃんと…、アンタレスでもちゃんと、一人でも立って行けるために。」



広がる四支誠の街並みを見ながらファクトは静かに思う。


タラゼドとの関係はもうどうしようもない。

でも、以前の大房でもデイスターズでもいつも横に男性がいたコパーが、男性を頼らず資格や技術も付けてここまでやってきたのだ。上には上どころか、次々次世代が来る。ダンスという一番の夢も諦めざる終えなかった。悔しい思いもしただろう。諦めきれず思い出して泣く日もあるだろう。

まだまだ辛い日もあるだろう。


でも、きっと大丈夫。


ファクトは、通話を終えると、

『コパー、初大仕事、他の人もリードしてくれるだろうからがんばれー。シリウスにも出演の際は司会のコパーさん助けてあげてねって言っとくよ\(^o^)/』

と、送信しておいた。



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