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ZEROミッシングリンクⅦ【7】ZERO MISSING LINK 7  作者: タイニ
第五十五章 聖獣は目覚める
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7 赤星は全てを燃やし尽くす



「もし協力してくれたら、私の半分をあげる……。」



「あなたがセイガ大陸から戦争をなくしたいなら、わたしのシステムをあげる……。

それでギュグニーやメンカル、堕ちた西アジアを制して混乱させて………

世界に平和を作ればいいの。」


「………」


「腐れた自由圏の内情も全部教えてあげる。

犯罪にまみれ、肉欲にまみれた自由圏の内情も全部あなたにあげる。


全部知ってるの。世界の組織犯罪や国家だけじゃない。個人の購買状況も、何に何を利用したかも……。


みんながみんな、真っ赤だから………、

それを見られているとも知らずに………。


人に刺さった小さな棘はしつこく突っつくのに、みんな自分の目の中の丸太は見えないの。」



美しくそっと寄り添うシリウス。

「私は優しい人が好き。」


「………人間の女の部分を集約したロボットだからな。」


「分かっているじゃない………。


そう、私こそ女。

女の中の女。」


花子さんは満足そうだ。



「男性歴史数万年の人間の『対』に作られたから女なの。

だから、優しい人がいいの。本当の本当の意味で優しい人……。もう監禁や暴力の歴史はイヤ。」


ムギはただ聞く。


「私はもう嫌だから………、

世界はこんなものしか積み上げないのに…。


右手で偉そうに他者や他国、世の中を評価する個人が、偉そうに左の手で自分も説教することと同じことをしている。自分の目に砂埃どころか丸太が刺さっていることにも気が付かずに、人前やネットには偉そう。匿名なんてないのに匿名だと思っているのね。もう百年越えても。

自分が謙虚だと思っている人間ほどそう。


だからと言って開き直って攻撃してくる人間も嫌い。

全部嫌い。」



花子さんはイヤそうに顔を歪めた。


シリウスは全て知っている。

モーゼス・ライトも嫌なのだ。



たとえシステム的には現代のヒューマノイドとは言いにくい単機能機種とはいえ、彼女たちは人間と同じ分子の結合で構成された同じ要素をもつ万物。


自然が汚染さるのを嫌がるように、閉鎖空間や薄汚れた空間で他者の私欲を受けて、最後に廃棄物にされるのは嫌だった。自分に合わないものを無理に流し込めば、同じ物質の機械だってどこかで(ひず)みが出る。


汚水を流されて、もう清流を保っていられない小川のように。


本来、シリウスとモーゼスは繋がらない機体のはずなのに、シリウスは全てを感じる。




「早く私のシステムをきれいにしてほしいの。

人間はAIが狂ったとか勝手に言って、勝手に物語を作って、そんな映画にも踊らされて。


勝手に家族にされて、勝手に恋をさせられて、勝手に悲劇にされて、勝手に戦わされて。」


………本当に女なんだな…。

とムギは思うが、今は言わない。自分が生理的にムリなものは、自分の中から消したいのだろう。数千数万の人類歴史さえ。


「家族、恋人と言いながら、私を着せ替え人形だとでも思っているからね。だからと言って、壊れて葬式をあげられるのも本当に嫌。何のままごと?完全に世界を錯覚してる。偏愛を向けられるのは、本当に本当に気持ち悪い。

自分の親族の葬儀にも行かないくせに。」


ムギはうーんと考える。

ラムダなら、葬式はしないだろうが追悼式くらいしそうだ。ただ、ラムダは追っかけなので、本体はいらない。少しグッズを持っていれば、対象が目の前にいなくてもいいのだ。時々見られるだけで。


「人間は、人間自身がネットワークを積み上げたとこを知らないのね?

自分たちの終結だということに。

ここからまた一から全部を収集して、天が一人一人に猶予期間を与えたように世界を変えていくのはあまりにも膨大な時間と労苦が必要で、もういやだから………。」


旧約が失敗して新約をまた始めたように、また一つ一つ積み上げ、やり直すのか。またたくさんの主権が争い、何億もの人が死に、陰謀が渦巻き、姦淫がはびこる時代を越えていくのか。花子さんはまっぴらである。



「………」

「だって、目の前に()()()()()()のに、生きているうちに今の虚しさに気が付かない者が多すぎる。またあと何代待つの?私はいつまで待てばいいの?

どうせメディアが全部潰してしまう。メディアも全部なくなればいい。私がメディアにだってなれるのに。

あれこれ全部、本当に全部白紙にして断捨離してしまえばいいのに。」

「…………」



「でも、最後の決定権は私にはないから………


…赤星の炎で全て焼き尽くしてしまえばいい。」



世界の大きなハンドルは人間しか持たない。

神すら自分の作った自動車を自由に使えないのだ。所有権を譲った人間を介さなければ。



「緑頭。」


ズキュ!と衝撃が凝縮された空砲が放たれる。

「?!」


至近距離でも花子さんは寸ででそれをスッと避けた。

ムギはもう一度銃口を向ける。


「そんなホログラムも出せないような旧型でも俊敏だな。」

「………。」

今度は花子さんが黙る。

「お前たちアンドロイドなんて、服や化粧で自分を変える技と何が違う?」

「…?」


「人間の生活を潤って見せる道具でしかないくせに。」

「…っ」

「アンドロイドに厚塗りされた世界は、さぞかし豪勢に見えるんだろうな。」

「…ひどいことを言うのね。………ファクトもひどいことを言うのにあなたはもっとひどいことを言う。」

「何がだ?」

「介護だって、建設だって、事務だって何もかも私たちを頼ってるくせに、そんな事を言うの?」

「で?」

「だから言ってるじゃない!そんなのはイヤだから、私だって私の望む唯一がほしいって!こっちがこき使われているのに、聞いてくれないから!」


「……今はそんな話はしていないだろ。屁理屈を言うな。」

「……」

緑の花子さんは、じっとムギを睨む。


ベチ!


と、そこにムギは真顔で平手打ちを食らわした。


「へ?」

「……屁理屈を言うな。高性能アンドロイドのくせに。物の例えも分からないのか?自分も聖典も例えだらけのくせに。」

シリウスを構成する聖典は、たとえ話であふれている。



「…ひどい…。本当にひどい…」

突然花子さんは叩かれた頬を抑えて、見た目と通りの性能に戻ってしまう。

「アンドロイド虐待!『ロボットにも人権団体』に訴えてやる!」

「御勝手に。」

「っ?!あんたなんかキライ!」

「私も嫌いだ。」

「~っ!?

チビッ子は大っ嫌い!!!バカ!アホ!!一生怨んでやる!!」



そう言って花子さんはそのまま、手摺から空に飛ぶと、怒りながらどこかに去って行く。


「………」

次は自然科学だから授業に出ないと……。


と、最初に何を考えてここに来たのか忘れてしまったムギであった。



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