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ZEROミッシングリンクⅦ【7】ZERO MISSING LINK 7  作者: タイニ
第六十章 僕の一歩はこれだけだけど

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78 振り幅が大きいとは



見上げるくらいの大男にファイはひるまない。

「とにかくそんな話はしないで下さい!議長御夫妻は最高に仲良しですので、無用です!ねえ?

私の推しカプです!」

「………」

と一応仲間であろうアーツに話を振っても、誰も返事をしない。チコさえも。


「かえってお前がお二人を貶めているんじゃ………」

現状を飲み込もうとしたシグマが冷静に分析した。二人の親密度にはこれ以上言及しない方が良いの一択である。触らぬ神に祟りなし。よくもないが、悪くもないのだ。

「はあっ?シグマ、あんたたちの目は節穴なの??ラムダ!ラムダだって分かるでしょ??」

「え?そうですね。でも僕はノータッチです。思春期の子だって押し付けたり煽ったら拗らせるでしょ。」

と、無敵ラムダは不動である。未成熟の愛が成熟するまでは見守る派だ。


「そんなこと言っている間に横に入られたらどうするの!!」

と言いながらもファイの顔は全然萌えていない。ただ必死である。ファイすら、あの夫婦より他の誰かの方が萌えそうだということだけは分かる。


「ファイの奴なんなん?絶対に推してないだろ……。」

「議長の何を握っているんだ…。」

「握られてるじゃなくて?なんか賭けでもしてんじゃね。」


「…………」

なんだこいつは?という感じでフラジーアはファイの顔を見ている。

「何ですか?!女性の顔をじっと見つめるなんて失礼ですよ!」


それに乗じてチコも一言言っておく。

「まあ、そういうわけだ。今はサダルとはうまくやっている。どっちにしても、本当はユラス管轄以外の場所に行きたかったんだ。」

最初はユラス自体から離れたかったのだ。もう結婚関係で面倒事はイヤである。こんなにユラス人が絡んで来るなら、ホント、離婚しなくてよかったと今更ながら思う。


ただサダルが母系側であれ族長正血統である限り、このままいくとは思っていないが。解決したと思っても、いつもこの不安が消えない。



「……そうなのか……?バイジーやタフルク辺りをあてがいたかったんだがな。

なあ、バイジー!」

最後だけ大声で言うと、少し離れた場所でバイジーと呼ばれた男性が、顔を赤くして慌てて礼をしていた。惚れ話を出されたからか、いきなりで緊張したのかは分からないが、長身でけっこうカッコいい青年だ。ファイ的にも彼の推しにはなれそうである。


でも、そうではない。ここで負けてはいけない。

「…あ、ちょっ。本当にいい加減にしてください!!チコさんが揺れるでしょ!」

「揺れる?」

もちろんチコにそんな気はないが、この人はけっこう鈍感なので攻められてバイシーさん推しになってもらっては困る。

「ほら!煽るなんてサイテー!!」


「おい、ファイやめろ…」

小声で止めるシグマと、関わりたくなくて少し遠くで青ざめているリギル。

「だってこの人議長夫人に失礼過ぎる!どうせチコさんが婚活オバちゃんにアップグレードしたことを知ったら冷めまくるくせに!!」

マイラは今回私情を挟まないつもりで来たので、チコの話題には反応しないつもりでも、聴こえてプッっと笑ってしまう。オキオル側は何のことだか分からないし、チコもアーツの頭の中が分からない。



「あれ?人はそんなに単純ではないことを、ファイさん知ってるでしょ?」

カウスが突然正論を言う。ファイは鋭いのだ。ウヌク並みに。わざとぼかしたのに、カウスがウザい。


「そうだぞ。ファイ、お前は間違っている……。人は意外性に惚れるんだよ…。」

「ギャップ萌えですね。」

発言主クルバトに横からラムダが得意そうに答えた。大房のおばちゃんになったところで、チコはチコである。


「は?ラムダ、オタクとしてそれでいいのか?ギャップじゃねえだろ!最初から振り幅がデカいんだよ!最初から愛があるんだよ!」

他もうるさい。

「年齢層が若くてユーモアのあるサウスリューシア組と違って、オキオルは萌え心も知らず堅物の集まりそうだし?相手を見定めなよ。」

さらに得意そうなファイだが、別にオキオル組はここにいる者が全てではない。


「殺されんぞ。ホント黙れ。」

シグマに首を掴まれて、ひえっと一瞬叫ぶが未だ強気である。

「連合加盟国軍が一般人に手出せるわけないでしょ。だいたい、チコなんて呼び捨てできる位置にいるような人間が、この私に煽られてブチ切れる?そんなの、底が知れてるわっ。」

あくまで強気。


「あ?言いたい放題だな?東アジアの人間はこんなものなのか?」

しかしフラジーアは怒る。

「ギャー!!!怖いっ!来ないで!!私は一般庶民です!!」

ファイは咄嗟にチコを盾に隠れ、ササっと陽烏の後ろまで逃げた。




***




今回の帰国は顔合わせの場でもあり、団体も含め活動の全体を世界規模で整理していく。


軍人以外にも様々な調査団も集結しており、各支援金などが正しく使われているかも精査対策されていく。基本的にお金の動きは全て記録に残り、複数の機関で精査されAIが今後の見通しを立て最後は人間が目を通す。


一旦ここでの挨拶を終えると、ユラス軍一行は会議室に移動するために動き出した。しかもなぜか隠れているファイの前まで来るので、周辺の妄想チームはビビってしまう。


そして、ファイはいきなりフラジーアに、バシっとほとんど空のウォーターボトルで叩かれた。

「ひゃあああーー!!!!」

「お前、後でオリガンに連れて行く。デカい口が叩けなくなるようにな。」

「絶対いや~っ!!!暴力~!!」

と言って逃げていく。

リギルはここにいるだけで既に頭は限界突破で立ち尽くしている。最初に目立ってしまったため、折角の軍用機も全然頭にも視界にも入らなかった。


それからフラジーアたちは目の前にいる陽烏とその周りに挨拶をし、猫を庇ったままのチコと会議室に去って行った。この期間に組織やチームごとに簡単なフォーラムも開催される。




***




「ねえ、どうしてこうもバカなの?」

「…うん、何でだろう?」

「何度もそっちじゃないって叫んでたのに!」


なぜか全然違う場所に出てしまったファクトとムギ。ムギが違うというのにバイクでユラス駐屯近くに向かってしまた。


溜まっていた呼び出しメールがうるさいのでメールを解放すると、走っているバイク前に「南海エアポート」など表示されて、こちらには誰もいないとやっと分かった。

ムギのバイクは窓下にあったのでムギは先に出発したが、なんとなく怪しく思いファクトを探してみたのだ。案の定、違う所に向かっていた。何度も連絡しているのに通信を切って聞いても見てもいない。


「今皆に聞いたら、もう会議に入る前だって。ファクトはどうするの?」

「…うーん。しょうがないな。このまま河漢に向かうか……。でも、今日アストロアーツの元バイト組とかがカフェ出してるって聞いたから、見てからにしよっかな。誰が入ってるんだろ。人が凄くてめっちゃ儲かってるってメール入ってた。ムギは?ココア奢ろうか?」

「…そんなにココアばっかり飲んでないんだけど。」

「常若のお兄さんたちもカフェ出してるって!しかも大房は四支誠(よんしせい)とかも合わせて4軒、常若はアーツメンバーと外部メンバーも含め南海に2軒でミラに2軒!」


今イベントの会場は主に南海周辺、ミラ学校群、四支誠の文化センターの3か所に広がっている。

まだ暑いのでとにかくドリンクが売れるらしい。給水所も河漢を合わせたら既存設置の物以外で給水機も100台以上、それ以外に20万本以上の水が準備されている。

「ふーん。ウヌクも?」

「ウヌク?」

「ウヌクはアストロアーツの店長だったんでしょ?一通りカフェ回せるんでしょ?」

「ウヌクは文化事業の運営側だからどうだろ。」

なんだかんだ言ってウヌクはできる男なのだ。今は四支誠文化事業の園児児童側の代表補佐をしている。怪我さえしなければ、河漢にも入れるし人をまとめるのもうまい。


「ムギはウヌクにココア作ってもらいたいの?」

「そんな訳あるか。」

「……河漢は午後からだから四支誠の方見て見ようかな…。」


今週半ばから一週間半、ベガスは保育園と学童以外出席は午前まで。テミンたちもいるだろう。




***




ただ岩場が広がり風が舞うユラスの荒野。



上空写真で見れば、ここはたくさんの岩場や雑踏と生えた樹々、土なのか砂なのか分からない地面が荒涼と広がる、生きているとも死んでいるとも言えない場所だ。



バナスキーが涙を流す映像の前で、サダルは何度も本人と映像を確認する。


「本当に泣いていたのか?」

「…さあ。泣いたのか、ただの生理現象なのかは分からないがな。」


シャプレーもそう言うしかなかった。これまで一度もそんなことはなかったからだ。初めに会った頃からバナスキーは表情が乏しかった。脳の一部が欠損していたことが原因だが、霊性師の呼応にも答えない。


普通、人の霊は肉体と似る。形だけでなく状況もだ。肉体の行動と似た結果を持つ場合が多い。

肉体が健康なら霊も何かに縛られていない限り、肉体と同じように会話ができるが、霊線と連動されているためバナスキーの霊もつられて脳や神経異常や認知症、植物状態ように反応が鈍かった。


無表情のサダルにシャプレー、そして同じく無表情のスピカ。スピカは全てに丁寧だが、戦略のためあまり表情を作れるようにはなっていない。



他の博士たちはため息をつく。

「……あの時の変化と言えば、心星くんが来たことくらいかな。」

「ポラリスみたいな人間は久しぶりですからね。外部刺激があったのか………サイコスの中で霊性に触れたのか………」


いつもは定義や理論的な話しかしないここに集まる博士や社員たちも、正直バナスキーの変化に一喜一憂したのは確かだ。もう何年も何もなかったのに。


あの後何もなく、ベッドの上の彼女は皮のようで、でもミイラでも骨でもないのは確か。

幾つかのことが欠落しても、いつかのバナスキーは優しく職員たちに礼を欠くこともなく、時々はにかむように笑っていた。


彼らがいくら無機的な人間と言えど、昔からいる職員はそれを知っている。忘れるわけがない。


忘れるわけが。



科学で、理論で解決しようとしているのに、想定もないところから訪れる様々な変化にSR社は振り回されていた。




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