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ZEROミッシングリンクⅦ【7】ZERO MISSING LINK 7  作者: タイニ
第六十章 僕の一歩はこれだけだけど

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76 全ては空間に残る

最終まで書き溜めてどこかで一気に毎日掲載をしたかったのですが、書いたらすぐに載せたくなります。すみません!また不定期になるかもしれないです。



「河漢を取られたのが痛いですな。」


その頃、立派なスーツや軍服に身を包んだ男たちが、円卓に並ぶ席でため息をついていた。


「まさかアンタレス市が中央にまで入って来るとはな。」

河漢の中央、ほぼ無人地域の艾葉(がいよう)のことだ。

「アルケニブ外相、話が違うじゃないか。入られても中核部は大丈夫だと。」

「人材がいないと聞いていたのにな。しかもまさか、あんな余計なものがあるとは…。」


余計なものとはかつての西アジアマフィア分子の『(ロン)家』の遺産。

『前村工機』である。


ここは南メンカルに身を隠したギュグニー寄り勢力の集会。表向きはニューロス製造と商社の会議となっている。




『前村工機』とは、見付けたファクトたちがウハウハ大喜びだった、直立ロボワラビーの巨大なコレクションルーム。地下に沈んでいたシェルターだ。


テロリストのアジトでもあるのかと思っていた東アジアやユラス軍を大いに呆れさせ、サダルをブチ切れさせた一品。数年前、SR社をはじめとする数企業やクラシック専門家まで動き、出土品の多くはアンタレス市や研究室に持ち込まれ、一般には公表されなかったが各業界を大いに賑わせた。龍家の子孫は無許可建造の罰金や脱税分の帳消しとして全て譲った。ただし、ここまで大きな建築は一組織でできるものではない。アンタレス市や河漢行政なども職務怠慢や賄賂などの罰を受け、最終的に龍家はワラビー数台だけ東アジアからもらい受けた。



それに困ったのは、アンタレス市でも東アジアでも龍家でもなく、河漢を通行口に東アジアに侵入しようとしていた者たちであった。


そう、既に各所にネットワークや自家ニューロスメカニックを入れ込もうと侵入していたのに、大規模に行政が入ってきてしまったのだ。しかも、河漢と違いアンタレスは一国の首都規模の特別行政都市なので、複雑に様々な機関が関わりただの賄賂では根幹は動かない。しかも上辺(うわべ)で住民調査や移動援助だけしているとされたベガスの民間人組織が思った以上に深入りしてくる。


最終的に自治体まで手を出し、河漢以上に河漢に入り込んでいた。


ジャンク屋など模した初期拠点がどんどん潰されていくし、立ち退きを拒めば目立ってしまう。そして、モーゼスの隠れ蓑はウイルスとして、ことごとくシリウスにマーキングされ潰されていた。


まだ、個人や個人業者の域に留めておいたのがギュグニー側せめてもの救いだ。足が付きにくい。


河漢は不法移民や戸籍、住民権のない者もまだまだ多くいる。東アジアが勘付いてはいても、侵入した明確な証拠は割り出せないであろう。クラシックどころか古代PCまで新旧のシステムが入り混じり、追跡も途中でうやむやになる。

河漢住民の中には自分たちが拠点になっていることすら知らない者もいるし、調べてもほぼ架空の会社やシステムに行き着く。アクセス情報が変化するのはもちろん、一定の内部まで行くと情報が分離するようにもなっている。そもそも、河漢には小規模のジャンク屋が山のようにあるのだ。

これまで暴走した機体も勧告や処分などあれどあくまで不具合や不良品として処理され、ベージン社に関わる商品事故、開発途中、未熟品という事で終わっている。



その様子を見ていた女性が、ヒールの音を響かせながらも滑らかに歩いていく。


「大丈夫ですわ。所詮河漢。多少荒らそうが一般のアンタレス市民は関心がありません。」

場違いのような美しい機体のモーゼス。


モーゼスは知っている。


今この現代に生きる人間たちのことを。

彼らは受動的で、自分のことに非常に敏感で攻撃性はあっても、実際の力には屈するという事を。


既に何百万体もの簡易アンドロイド、モーゼス・ライトがアンタレス、敷いてはアジア中に正規商品として入り込んでいた。


後はスピードだ。

いつ様々な思惑が割り出されてもおかしくない。


こちらは最終的に破壊も意に介さない。

様々なことが暴かれたり規制される前に、東アジアより早く動くしかない。




***




東アジア施設の一角に、また関係者が集まっていた。


「…おそらく…DP(深層心理)サイコスではありません。」

今回はユラスやアジア双方が響の話を聞き入っている。地味(じょ)響が、久々に講師の顔になっていた。


「私と親和しないので同じ力でも全く違う層にいるのか……他の力の可能性が高いです。」

「霊視とか?」

「その可能性もありますし……。気になるのは彼らの心理層に入って行けるのに、彼らの方からは少なくとも今は私たちに関われない事。」

皆、静かに聞き入る。ファクトやシェダルのように心理層で意思の疎通ができない。


チコとテニアの事だ。


二人に聴き取りをしたところ、『トレミー』の幻影が現れてから見た過去世界は、見ている部分は違っても二人でほぼ一致していた。


「私が思うのは……彼らの力はサイコスの場合、DPではなくサイコメトリーではないかと。」

「サイコメトリー?彼らが?」

サイコメトリーとは物質に残った記録の断面を見る力だ。残留思念とも言われるし、現代は空間の残したホログラムとも言われている。


「私やファクトの見ていた世界よりも、現実面では正確です。私たちが視ることのできるものはあくまで、人を通した心や心理ですから。」

心理層には当人が見たままの風景や声の記憶の断面がそのまま残っている場合もあるが、あいまいな部分も多い。なぜならDPサイコスは、本人にとって重要な部分や根や核になる物が強く残り、表面や深層に現れるからだ。空想や感情も混ざる。


けれどサイコメトリーは大抵の場合、鏡に映ったようにそのまま世界が残される。

世界で起こったことは全てが記録されているのだから。



――心に、精神に、物質に、霊性に、空間に。

広大なこの宇宙に。次元の狭間に。


必要な時に、何かの折に、それは浮き上がってくる――


出力機である超能力者サイコスターの力次第で、見るものも変化するが、DPサイコスよりは崩れない。



本人二人は離れた席同士でふーんと聞いている。

「テニアさん自覚は?霊性だと思います?サイコスだと思います?」

「うーん。生体反応が分かるようになったのはレグルスと結婚してからだ。でもサイコメトリーはどうだろ?この前のは勝手に見せられただけでコントロールできなかったけど?」

「…もう少し訓練してみないとその部分は分からないですね。チコは?」


チコが話そうとすると、何を言い出すのかとテニアが楽しそうに見ている。

「……。」

ウチの子の発表会状態で話しづらいチコ。

「…正直……分かりません。」


「二つが融合した力という可能性もありますから。」

代わりに響が答えた。

「電気に関するサイコスなどは、運転やルーミックキューブなど何かの操作力のある人や運動神経が良い人の方が比較的コントロール力が高いです。それと同じで、精神面に関するものは霊性が高い人の方が力が早くきれいに現れる場合が多いかと。」

チコとテニアの力は、力が発現したのか元々持っているものが掘り起こされたのかは分からない。けれど誘導、誘発された可能性は大きい。


「ただファクトも言っていたのは………

ギュグニーに強力なサイコスターがいたのでは、という事です。」


「ギュグニーに?」

「そうです。チコ、あなたが生まれたその頃、既に………」

「………?」

「ニッカに確認したところ、彼女はある程度の霊感を持っています。そして一般論においても、人の生死が関わる場では、本人の力量に関わらず何かしら力が働く場合もあります。様々な次元が歪みますから。


彼女が国境で石を拾った時、はじめは人の手だと思ったそうです。そして少し記憶を掘り起こした結果……

国境で女性の亡霊を見ていたと。」


ここにニッカやファクトはいないが、あの後もいろいろ協力してもらっていた。ニッカには霊性の力もそれなりにあるし、サイコスも持っているかテストもしたところ簡単な電気玉も作れる。優しい物腰のわりに話をしているとなかなか気も強く、心の受け皿も大きい。国境にいた亡霊たちはそこに何かを託したのかもしれない。


「女性の亡霊…?」

「ドレスを着て、長いくすんだブロンドヘア。全てが渦巻いて顔が分からないのに…きれいな人だと分かる………」

みんな騒めき、佐藤長官がひらめく。


「まさか………」

長官は響を見た。


「獣道か?!」

「そうです。獣道にいた者…。」


「『トレミー』!?」


そして………

「ニッカ!」


二人のサイコスターだった。




***




ベガスは行政区変更のイベントで大いに賑わっていた。


平日も既に一般公開は始まっていて、主に団体を受け入れている。各学校関係も生徒を連れて教育施設などたくさん視察に訪れていた。


「ファクトー!!」

元いた蟹目第三高校の仲間たちがファクトを掴んだ。

「お前、逃げんな!」

タキやリウ、少し太っちょ女子のヒノが怒っている。

「教育部の仕事サボる気か?」

「えー、俺。警備の方いかないといけないし…。」


「おー!ファクトだ!!」

「マジファクトだ!!」

よく見ると、藤湾大に入学した以外の蟹目の同級生や先輩たちもいた。

「テメー、逃げやがって!!!」

「なんでサッカーの大会に来ないんだよ?あぁ??」

「バスケだろ!バスケ!!」


「するわけないじゃん。」

大学のサッカーやバスケなんて、本格的に始めてしまったら学生人生捧げるほど大変なので、するわけがない。ただでさえあれこれ猛特訓なのだ。しかしファクトの事情関係なく先輩たちに後ろから顎を掴まれる。

「バカ野郎!同好会やサークルでいいのに!!」

「…づうが、あんで皆さんまで…?」

「ああ?俺らは仲間じゃないっていうのか?協力しに来てんだよ!!」

「俺も日暈大教育部!こっちに参加しても単位になるんだな。」

「…ナンバには来ないで下ざい…。」

「ファクトが言うことかよ!!お前こそ彼女できたんか??」

「…いまぜん……」


「ユリ!おいで!今ここでファクトに言いたいことがあったら言ってしまいなさい!!」

ヒノが、大人しいユリを引っ張って来た。


「さあ、ユリ!ファクトに言いたいことがあるなら今言っときな!!」

「…え?」

「もう捕まらないよ。このバカは!」

じ~とファクトと目が合うが、なにせ周りに人が多過ぎる。先輩や同級生たち以外も「心星ファクトが来た」「ウワサの心星ファクトだ」と、集まってきていた。

『勉強しないファクト君』をまだ知らない1年生や今年の編入生たちには、ステキな博士ご子息の心星先輩に見えるのだろう。


「ユリ…。」

「…うん……」

ユリが何も言い出さないのでファクトが聞いてみる。

「藤湾楽しい?」

「……うん…」

「…他の国の友達とかできた?」

え?と思いユリが辺りを見渡すと、アンタレス中央区以外のいろんな顔ぶれがいて手を振っていた。

「うん。」

ほっとするファクト。

「よかった…。みんなの努力、叶ってたんだ…。」


チコたちとチコに付いて来た少数のユラス戦後世代から始まったベガス。真っ新な青空教室から始まった、藤湾学校群。家族を亡くし、志半ばで死んだ人たちの意志を抱えて、潰れそうなまま右も左も分からないアンタレスを駆け抜けたカーフたち初期移民たち。もうチコが責められたり、叩かれたりするのを見たくなかったから、いつもそれを確認したい。ホッとする。


「……ファクト?」

そんな事を知らない蟹目メンバーは不思議な顔をでみていた。



が、そこに乱入するいつもの人たち。


「ファクトーーー!!」

ムギである。



●謎の『前村工機』

『ZEROミッシングリンクⅣ』25 前村工機

https://ncode.syosetu.com/n0646ho/26/


●26 昔の金持ちが議長を怒らす。

『ZEROミッシングリンクⅣ』24話 昔の金持ちが議長を怒らす。

https://ncode.syosetu.com/n0646ho/27/



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