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ZEROミッシングリンクⅦ【7】女たちが刻んだ大陸の紋様 ZERO MISSING LINK 7  作者: タイニ
第六十章 僕の一歩はこれだけだけど

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75 大切なサラサ



今、最後にアジアに全てが集まろうとしている。


善いものも悪も、最良の者も、最悪な全ても。



「よく家が断絶しなかったな…。」


度が過ぎると国も家計も数代で縮小して滅びることが多いのだ。だんだん未来を形成していく運気や体、能力、体力、覇気のある者が生まれなくなってくるのだ。

十字架の帝国もそうして廃退していった。その国の者は気が付いていないが、ほとんどの場合国の崩壊は内側から来る。内側を崩していくのだ。


「繁栄期がちょうど今の時代に合わさったからって、エリス総長は言ってたけど。アルゲニブは今、勢いのある運勢だけで成り上がっていける時期。人類自体が変わろうとしているから、その上昇気流に迎合したって感じかな…。」

「時代の節目に乗れなかったのか。」

この時期に考え方を変えて方向転換をしていかなければ、今度は大きく崩れる。そう、上昇気流に乗って、方向転換もしていかなければならなかったのだ。



宇宙も歴史も世界も、自分たちの安定と均衡を崩そうとするものを排除していくのだ。


そして、時代の節目ごとに人間の倫理観が向上し、最初のエデンで失った秩序が戻されていくため、今まで許されていた搾取奴隷的な隷属、無秩序な支配権力、一夫多妻や性の紊乱などが先進地域を皮切りに淘汰の対象となっていく。


最初に物理的に国を分けたのは天だが、きっかけは人間の言動であり、それは全てが人本主義に染まらないためだ。強烈なナショナリズムも、人類が世界規模になった時点で切り替え行かなければ、時代に吐き出され始める。人は皆、立場も責任性も能力も同格になっていくからだ。




「今が最後のチャンスかもね。本人にとっては。彼が唯物国家と繋がっているなら、一言で北メンカルやギュグニーの扉が開けるのに。」


そう、彼が滅びるのも最終的には彼の責任。


ただ困るのは結局世界は運命共同体。

国家や経済が世界規模になれば、みんな彼らの巻き添えを食らう。


それと共に、全てが繋がっている以上、本来は誰の滅びも許容できないのだ。


霊は残る。永遠に。

だから、天は全ての帰途を願っている。


生まれ落ちた位置が違うだけで、誰もが共同体だ。宇宙の一部。




今、繁栄している者たちは世界や歴史において何かしら責任を負っている。


聖典で言えば、非常に地位があり賢明な女性のはずであったのに、目障りな女と夫のその子を追い出した女主人。

兄とさらに争いを続けるかの節目で、荒ぶる兄とも和解した双子の兄弟。

彼を十字架に付けた、傍聴者と弟子と同族と帝国。


その末路がどうなったのか。自分はどの立場か。私たちは歴史を振り返りながら自分の個人的な立場と、歴史的な立場を顧み、本来なら行くべき分岐点を知ることができるのだ。



今の世は報復を好むが、最終的に何かしらの形で『和解』に持って行かなければ、またどこかで歪む。


人類が永遠のリープを繰り返しているように。そして『和解』は文字通りの和解ではない。必ず天の意図と主軸に方向性を変えていくものだ。ソドムと和解するのではない。ソドムが、涙を流す時までだ。


たとえ今は、それが方便でも。




人それぞれ使命も大きさも違うが経済、財産、地位、能力を多く有していればいるほど、時代への責任は重い。彼らが果たせないと、数代待ってくれる場合もあるが後に一気に重みが来る。彼らが世界により大きな責任を負っているからだ。


その節目を逃したり、マイナスを積み上げると運勢は個人も家系も離れ、違う者に移っていく。


アンタレス市がベガスと河漢を放置した場所に、大房が入っていたように。


そして、アンタレスがそれを拒否するなら、天命は次の者に移されていくだろう。異国の首相となった妹の息子が荒野に落ちて行ったように。




それは延々の選択だ。

人が賢くなり、全てが洗われるまでの。




『知恵あるものは悟りなさい』と誰かが言う。



彼らの行く道は、針の糸を通す穴よりも小さいのだから。


ただ与えられた世の中を見ていたら、その穴すら見付けられない。世の中にはたいして良くもないものだから。今の世を変えていくのだから、今の世とは相容れないものに映るから。


でも、停滞はいかにも常識を装って世の中の姿で現れる。今の世界の人々はほとんどがひどい近視だ。為政者ですら世界の裏を知らない。


人は何千何万年も信じられない裏切りを続け発展したのだから、全てが信じられない世界から。信じられない経験をして、それでも人を愛し……自分も這い上がって行かなければならないのだ。


掘って、掘って指先から血が出るまで掘って………大切なものを見付けてもまだその道は険しい。



けれど痛みの先には…誠心を捨てなかったその先には……人間がこれまで見ることのできなかった世界が見えるだろう。


いや、その先に向かう道で自分自身にその力が付いて行くのだ。

実質的に世界を作る力が。


人は努力しても何も実らないという。

けれど、永遠に残る物や永遠の力は、相手を重んじ未来に繋がっていく力だけだ。それを積まなければ意味はない。



人を愛せば、今生きる全ての人に幸せになってほしいと願い、誰一人悲しみの中に落ちてほしいとは思わないのだから。


それ以外はどんなに偉大でどんなに崇高で、どんなに永遠に見えても人と共に消えて行く。

同じ橋を作るにしてもそこに幸せを願ったのか、目の前の利益を願ったのかで全てが分かれる。


サダルがナオス国家ユラス教の聖堂を女性にも開放したのは、ただ支持層を増やすためでもなく女性のためだけもはない。聖典の最初、天地創造に(のっと)ってのことだ。



『男女は父母を離れて、妻と一つになる。あなたたちは産み増え、治めるだろう』



失われた女性を取り戻した時代に既に入っている。


家族を作り家族で生きること、そんな家族の聖堂を神が望んでいたし、戦火の中孤児になったたくさんの子供たちのトラウマを目にし、身をもって彼らの孤独を知っていたからだ。





「サラサ。」

「うん。」

「結婚してくれてありがとう………」

アセンブルスはもう一度サラサの腰を抱き寄せる。いつも強気なので大きく見えたが、サラサは案外小さい。そんな小さなサラサの首に顔を沈める。


「何?今になって…。

お互いチコさんと仕事をしているのに、チコさんが好きだった……過去?

そんな自分と結婚してくれてありがとうってこと?」

「…すごいこと言うな………」

思わず頭を上げる。

たしかにチコを思慕していたが、サダルとの結婚の時点で族長一家への敬慕の対象に変わっている。いずれにせよ、何かあれば命を差し出す気ではいる。

ただしチコに、高い金と膨大な研究労力を出してニューロス化してんだから死ぬなよ。とは言われているが。どうせ検体ですし、ニューロス部分は返還ですと言ったら、怒ったチコに襟首を掴まれたが。


「いいよ。私もチコさんは仕事としても、こっちの目的としても命を掛けて守りたい人だし、私の大事な妹分でもあるから。」

「………」


「……変な顔しないで。」

「………」

「もうっ。もういいけどさ、もっと義体になっても構わないから…」

「……いいのか。」

今更だが。

「でも、それでも………」

「……それでも長生きはしてちょうだい。」

「…………」


サラサが仕事では見せない顔で、そっと微笑む。


たくさんの死を見て来たから。あきらめのようで、でも今この地にも、永遠を求める顔で。



しばらくどうしていいか分からない顔でサラサを眺めて、見た目より大きな手で少し嫌がられるぐらい、その身を強く抱きしめた。




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