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ZEROミッシングリンクⅦ【7】ZERO MISSING LINK 7  作者: タイニ
第六十章 僕の一歩はこれだけだけど

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73 青空教室



「…死ぬ…。俺、ここが一番いい……」

アーツが知る限りイケメントップに入る、性格は非イケメンのレサトが妄想チームの中で机に伏せていた。


「勉強させられた上に、他の学校で講義させられた…」

「お前横で立ってんだけだろ?」

ダークエルグ、レサトがそこにいるだけで、女子だけでなく男子も講義を聞きに来るのだ。

「少しは話すぞ。でも同じプレゼンばっかだし、退屈だから『クソしてきていいですか』って聞いたら、どよめきが起こった。」

「もう少しイケメンがんばれよ。」

「違う!イケメンはクソをしないんじゃなくて、超快便なんだよね!」

ジリがフォローを出す。男どものみ納得のフォロー。


「…はあ、いいな。レサトはいるだけでチート全開で……」

ファクトもダレる。

「お前も十分家族チートだろ?もう少し親に感謝しろよ。」

と、周りが許さない。何せ博士だけでなく、議長夫人が義姉だ。


「でも確かにファクトって、家系チートなのにちょっと惜しいよね!」

楽しいラムダが今日も楽しい。

「?」

「せっかく性格チートなのに、その頂点はポラリス博士に持ってかれてるし!」

「…………」

確かにあの父より能天気にはなれない。妻に邪険にされても愛してると人前でも家でも言い続けるのは無理であろう。


「勉学も頭脳チートも家系の頂点はポラリス博士とミザル博士に持ってかれて、残念で苦労する2世になってるし…。」

誰かもほざく。だから親の後を追うつもりはないのに、大房民がうるさい。

「体格も顔も悪くはないが、番を張るには面白味のない顔をしている。」

「マジ、クセがなさ過ぎておもしろくない。まだ、リゲルの方がおもしろい。」

幼馴染リゲルは絶対に女性が逃げるタイプだが、男子には好評。顔だけでストリートを制覇できる。ただ、性格は地味だ。


「折角、両親にはない突然変異かと思うほどの運動神経もタウやイオニアには勝てないし。」

「それを言ったら強さも、ユラス軍には勝てんしな!」

ついでに言えば、東アジアの元女性兵マリアスにも勝てるかどうかギリギリ。

「サイコスもカーフやレサトにも勝てんし。」

「………」

ちょっとムカつくファクト。せっかくファクトが編み出した電撃技をあいつらはすぐにコピーしていくのだ。創作権侵害で訴えたい。

「ファクト何でもそつなくこなすけど、軽量武器もムギには勝てんしな!」

「……」

黙ったままながらも、ムギはちょっとニコッとしてしまう。それに気が付いて何か燻るファクト。許さん。



「『生涯チート手前』という称号を与えよう。あと『三番手以降』。」

クルバト書記官がノートに書きこむ。二番手でも三番手でもなく三番手以降とは。タラゼドにも敵わない。

考えて見ればDPサイコスも、響とシェダルには追いつかない。そしてまだ技術開発途中のシャプレーが三番手に控えている。

「みんな俺のこと嫌い?」

こいつらが憎い。


「つーかバカなの?なんでそんなにカーフに勝とうとするの?」

ここで、ファイが口を出す。

「は?だって重要だろ??」

「何が?ばっかじゃない?強さどうこうなんてするべき仕事ができればいいんだから、平均的に持ってりゃいいんだよ。」

しかし、これには男子どもが反抗するし、フォローされたのか蔑まされたのか分からないファクトも男子に加勢する。

「そういう問題じゃないんだよ!!」

「カーフには勝ちたいし!」

「強さや技の頂点を極める意味が分からんのか?!だから何でも金銀銅メダル付けんだろ?」

「女の小説や漫画って恋愛脳だからな!!」

「は?恋愛脳って何言ってんの?現実脳だよ。あれこれ言う前にきちんと仕事や家庭を回せる力を得たらそれでいいんだよ!」

「はああ?そんな人生に何の価値がある?!!」

「そこに価値を見出せないなら、あんたたちはそれでいいんじゃない?動物だってつがいのために必死に踊ったり巣を作ったり、着飾ったり戦ったり生涯をかけるのに、あんたたちはいつまで少年漫画なの?」

「たとえ家庭がほしくとも、誰もお前のためには頑張らん!!」

「はっ。御勝手に。」


20代前後の男は反抗するが、それ以降の男子は黙る。

「……」

考えたら現在ファイの周りにはなかなかいい感じの女性たちが多い。ファイに楯突くのは愚か者である。

「ファイ様。なら何をすれば女性が喜んでくれますか?」


しかしファイ。

「そんなん私が知るわけないじゃん。」

毒親育ちに自分は家を捨てた元追っかけ。知るわけがない。

「………」

「チートとかどうとか争っている前に、サッサと協力して目の前の仕事一つでも片付けたら?いつまで出産前後のサラサさんやソアに大仕事頼ってんの?」

ムカつく男子たちだが、最後の部分だけは正論なのでどうしようもない。が、ソアやハウメアが妊娠中も出産後もチートな働きぶりなので、それが当たり前にも思ってしまう未婚男子たち。

「ファイのやつ世界を敵に回した。」

「ユラス議長を敵に回したから無敵過ぎる。」


妄想チームの中で大人しく聞いていたネット耳年増のリギルは、女子もつまらんが男子が子供というのは分かると心から思うのであった。



「…はあ…。なんか分からんがお前ら。俺はお前らが羨ましい……。」

そこに現れたのは第1弾陽キャに属するフイシン。彼も机に伏せてダレる。

「…俺らが男に囲まれて死ぬ気で働いてんのに、お前らの周り、響さんも陽烏ちゃんもいるしライちゃんたちの友達もいるし…。」

「…は!」

すごいことに気が付く。ゲームやネット命でそれを取り上げられて、妄想に浸っていたまさに妄想チーム。既婚者や彼女持ち以外で今一番男女で食事をしているのは妄想チームであった。


「すげー……俺らすげー…」

「陽キャに羨ましがられる時代が来るとは……」

「もしかして俺ら一番青春してる??」

と、小声で驚く。決してフイシンに聴こえる声では言わない。彼らが社畜の如く働いている間に、自分たちには憩いの場があったのだ。

陽キャが手出しできないチコの左右大臣や妹分と実は一番仲良し。その代わりファイもいるが。


かわいそうなので、ラムダがフイシンに体力回復のエナジードリンクを持って行くと、これ以上働かせるのか!とブチ切れられていた。ムギがサッとお茶を持っていくと泣かれた。




「ねえレサト。藤湾の方。ユラスから難民以外の留学生たちも来始めてるんだろ?」

ファクトが伏しているレサトを突っつく。

「…そうだな。」

「こんなにユラスから来てどうするの?」

「最終的にはオリガンやゴンジャラス大陸に、ベガスみたいな教育機関や都市を作っていくから、生涯海外に行ける意思のある者はみんな研修に来るって。」

ギュグニーが解放された時に、ギュグニーに入っていける人材も作っていくのだ。貧富差、就学差、文化差、宗教差、地域差、ここには全ての違いがある。

「あと、先進地域、途上地域の両方経験がある人は、西アジアにも入って行く。」

西アジアにも同じような研究都市を作る。


ただし西アジアは発展の差が激しく、世界随一のレッドゾーンに接しているので少し事情が異なり、一部軍管理になる。ギュグニーや北メンカル、タイナオスなどが解放されれば、現在の世界最大の戦線解放地域となるのだ。前時代に解体された巨大共和国の最後の名残だ。



「フイシン、アーツからもそういう人材作るの?」

なにせアーツの始まりは鬼ごっこ。この事業に人生の半生をつぎ込みたい者などいるのか。とくに第1弾。


「俺も行くよ。」

「え?マジ?」

「シグマやモアもそのつもりらしいけど、シグマはチコさんがこっちにいてほしいって。」

「大房系の青年をまとめられるから?」

シグマのノリや性格は、ただ真面目なだけ以外の青年たちとも話ができ、上司ともコミュニケーションが良く取れるのだ。あのシグマがアンタレスで彼女を作らないのもそのせいか。


「まあそうだな。」

とくに、第1弾から3弾までは精神的にもユラスやベガスの理念をよく理解しているし、藤湾学校系列とも話ができる。

「ふーん。じゃあ、これが終わったらシグマやモアもどうなるか分からないね。」

「アーツ全体で今70人くらいは希望を出している。ミューティアとか女子もな。あと、ユラスの留学生はすごいな。希望者が圧倒的に多い。なあ、レサト。」

「奴らは使命に生きる民族だからな。」

「へー…そうなんだ……。」

レサトが他人事のように言うので、タウ妹のソラが本当に軽蔑した目で見ていた。

「あんた、図体はデカいんだからクソで出してばっかいないで、少しは食べたもの腸内で知恵と労働力に変えたら?パンダなの?笹を笹のまま出すの?」



「場所によってはAチームしか行けないところもあるくらいだから、BCチームの希望者は今すごく訓練してる。」

ファクトはまだ学生でボーとしていたが、兄さんたちはいろいろ変わろうとしている。


「ファクトは?」

「…そうだね……。俺も必要なら人材の足りない場所に行きたいな。ここはなんだかんだ言って誰かしらいるから。」

そんな話をしていたらクルバトやムギ、調味料工場の仕事を終えたティガも割り込んで来た。

「ファクトはお坊ちゃまだから、ウォシュレットのない所では生きていけないでしょ。」

「俺、快便過ぎて切れが良すぎて使ってないんだけど。あ!そうだ、ムギの故郷にも行ってみたい!」

「……子供がもういないから教えること何にもないよ。標高も高くて冬は寒いし。」

少数民族の上に襲撃、今は大人が少ししか住んでいない。


「じゃあ、空中庭園作ろう。空中王国!」

「は?」

「観光地でもいいし、今はトイレもバイオトイレなら循環できるし。ホントに、マジで!」

「いいな!それなら若い子も戻ってきそう!」

ティガが楽しそうだ。

「………」

「なに?ムギちゃん。その『よそ者がウチの故郷に勝手なことしないで』な顔は。」

「子供だなって思っただけ………」

「いいよ。想像だけならタダで自由だし!」

多分普通人のティガ。妄想とは言わない。





青空教室の先生がしたい。


ファクトがそう思ったことを、大房でのらりくらりと暮らす以外考えも及ばなかった兄さんたちが先に成し遂げようとしている。変な感じだ。



でも、アンタレスにも以前以上に大切なものや気になるものがたくさんできた。


シリウスが見付けてと言ったものも見付けたい。



どの方面においてもなかなかトップにはなれないが、がんばってきたつもりだ。


なら、こうして身に付けた力を、自分は何のために使うのだろう。

ファクトは賑やかな食堂を眺めながら、誰も知らない研究所のあるユラスの荒野を思い出していた。




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