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ZEROミッシングリンクⅦ【7】ZERO MISSING LINK 7  作者: タイニ
第六十章 僕の一歩はこれだけだけど

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72 見えない君だけの宝



見惚れてしまうほど、凛々しい女性。



頭のいい人だと思った。知恵と霊性の話をしているのだ。


それは、他者の話ではない。全てが、彼女自身が、天において乗り越えていくべき状況だった。こんな小さなこと一つ乗り越えられないのでは、世界最大都市アンタレスを変えることはできない。同時にこんな小さな一つが、世界の流れを変える登竜門にもなるのだ。


大きくとも、小さくとも、両者にとって。



実際、のちに先ほどの新教教会から長老三人と若者たち数人がベガスまで来てくれ、最終的にこの教派の中央教会が加わりベガスに参入した。そして、その中のさらに数人が新教系のまとめ役になってくれたのだ。


チコを罵ったいくらかの人たちも現在後援してくれている。



あの日エリスは初めて、罵った彼らに心の底から頭を下げた。


カストルは各国を回っていたし、自分の力だけでは事業は立ち往生のまま消えていただろう。彼らがエリスを怨んでだけいたら、今の関係はなかった。チコが共にいなければ、叶わなかった変化であった。

その後、彼らと共にVEGAの事業を世界に広げる手伝いをし、宗教他さまざまな学会や世界宗教総議会などに呼ばれるようになった。現在教育機関で、神学だけでない一般講義もあれこれしてくれている。





正道教の執務室。


「…………」

エリスは用意された冷たい緑茶を少しだけ飲み、またリギルに勧めた。


「飲んでくれ。まあ、チコに聞いたら義理のお父さんがそう言う人だったらしくてな。怒らないし、事が起こった事案に責任を持とうとするって。」

リギルはアーツが話していたことをいろいろ思い出した。

「ポラリス博士ですか?」

「はは。彼とは『人間とヒューマノイドの位置』というセッションで初めて会ったがおもしろかったぞ。

何と言うか……地で人たらしだな……。」

「ファクトそのままじゃないですか………」

呆れるが、エリスは笑っている。



「楽しくなってきたが時間だな。」

「あっ…」


「リギル、言いたいことはだな。ファクトも人たらしだから、いろいろおもしろいことを話してくれるぞ。……たらしというか、人好きだな。」

「…あ、え……。」

「まだ20歳だ。結婚は早々にあきらめるな。必ず出来るとは言わないが、世界は広いしいろんな考えや好み、信念の人間がいる。ただ相談はしてくれ。変な人に捕まったりそんな関係にならないように。」

「え?…あ?!」


「時に後退してもいい。でも、自分を捨てた所に人や宇宙が入れるスペースが生まれるんだ。」


「宇宙が?」

「神もね。一歩一歩、誰でもなく、自分が心を込めて、乗り越えるべきことは自身の足で乗り越え、自分にできる小さなことでいいから積んでいくんだ。世界は一気に飛び越えることはできない。


でもそれは、世界の誰も……壊すことはできない。神や悪さえもな。

君と神だけが知る、見えない君だけの宝だ。」


「あ、え?はい。」

結婚の話はもうやめてほしいと思うのに、止める前にエリスはどんどん話していく。心配しなくても自分が牧師の前に女性を連れて行くことはないであろう。


「すまんなリギル。クレスが怒ってる。」

「あ、はい。」

「また話そう!」


そう言ってエリスは駆けて行った。



ボーとしていると女性が話しかけてきた。

「…お茶、向こうでお代わりします?」

「……え?…………いいです…。」

「だったらそちらの通路からロビーに向かわれたらいいですよ。子供たちの絵が飾ってあるんです。」

「…分かりました…。」

リギルが上手く話せないと知って、女性は食べなかったお菓子にプラスしてお土産をくれた上に事務所の入り口までの見送りにしてくれた。



子供の絵に興味はないが、先と違う通路に向かうとたくさんの絵がある。あまり子供の面子は知らないが、ザルニアス家長女メレナの息子たちは分かる。非常にうるさい上に、リギルにも話しかけてきたことがあるからだ。しかも「これなーに?」とカバンに付いていたキーホルダーに対ししつこかった。



最近は、誰もいない場所だけでなく、人の中に紛れるほどの人ごみの方も心地よい時もある。


今まであんな風に人前で泣いた事なかったな……と、先のエリスとの話を考えながら、子供の絵はどれも似た感じでひょろひよろしてたりガシャガシャしていてよく分からないと眺める。他に知っている苗字がないか確認していると前方に誰かが来た。


廊下ですれ違った数人が「こんにちは~」と挨拶をしてくれたので、思わず逃げてしまった。



俯いてしまったのが、挨拶だと思われたらよかったなと少しだけ思った。




***




「はあ…結局俺はアホだった……」

「は?なんだ?」


アーツの食堂で久々に集まった妄想チームの中で、ファクトがため息をついた。

最近忙しすぎて、みんなが集まることも少なかったのだ。


「もう、アーツの集大成とも言える会合前なのに、これまでにカーフに一度も勝てなかった……」

「何言ってるの?やめなよ。カーフって辺境伯だよ。無理に決まってんじゃん。最強の国境守り主だよ。」

ラムダが言った横で、今日はジェイが遅くなるのでこっちに来たリーブラが声を上げた。


「あー!知ってる!それね、カウスさんも公爵に当たるんだって!公爵だよ!男爵とかあって、知ってる?伯爵とかもあって、公爵は王家の次にすごいんだよ!」

「……」

しーんとする食堂。みんな知っている。なにせ妄想チームなので。


「………それ、ずっと前に言ってた。みんな。」

「カウスさんは地方豪族だろ?殿様じゃなかった?」

「今となっては近衛だろ。」

「大公じゃなかったか?」

「いやいや、それはない。本家から逃げ回ってるのに。」

「……その前にさ、王子って世界に山のようにいるって知ってる?メンカルって妾や愛人の子も入れたら王子3人どころじゃないから揉めに揉めてるってさ!」

今度はタイがツッコんできた。

「……」

またしーんとする。


が、よく見ると、ませているのかウブなのか分からないムギが「はいぃ?」という嫌そうな顔になっていた。

「…?!」

皆ビビってしまう。しまった、未成年もいるのにそんな話をするなと!

「…え?もっとすごい国があるから大丈夫だよ!王子数十人とか!」

ラムダが楽しくフォローするが場は和まない。


そこに、最近藤湾学生の方に連れ回されているレサトが、死人のようにやって来た。




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