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ZEROミッシングリンクⅦ【7】ZERO MISSING LINK 7  作者: タイニ
第六十章 僕の一歩はこれだけだけど

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69 一つずつ

なんだかんだ言って投稿できています。よろしくお願いします。早く完結まで突っ走りたいです。



エリスは何も言わないリギルが話し出すのを少し待つ。

「…………」

下を向いたまましばらく沈黙が続いた時、ドアを叩く音がした。


「総長、もうすぐアンタレス市との会議の時間ですが。」

「一旦クレスに先向かわせてくれ。」

「!」

リギルは思わず目を上げる。


「あ、え、あ、僕が帰りますっ。あ、あのっ」

市の関係者などが集まる会議だろうか。ベガスにとっては首脳会談並みの行事中だ。アンタレス市は世界の中心の一つでもある。自分の愚痴のために時間を割かせるわけにはいかない。


そう思っても、エリスは椅子に座ったままだ。

「いいよ。続けよう。」

「でも…あの、あ……」

混乱してくるし、そこまですることのように思えない。


「でも、きょうはすごく大きな転機だったじゃないか。リギルの中では天変地異のような訪問だっただろ?」

「…っ」

「一人の人生が掛かっている。これが人生の一点を変える何かだとしたら、牧師である私は真摯に答えなければならない。」


「…………」

「まあ、いつでもってわけにはいかないし、私もせっかちなので気持ちを汲み取ってあげられない時もあるが、今の状況は大事な時間にしたいし、そんな気分だ。……あと20分くらいは大丈夫かな?市の方もけっこう遅刻する者がいるからな。たまにはいいだろう。」



またしばらく沈黙が続くと、すすり泣きが聴こえてきた。


「……ぅ」



「…ぅ…ぅう…、ぅ…」

エリスはそっとティッシュを差し出す。


「ぅ、…ぅ…」

「論詰めの話しでなくてもいいんだ。ただの気分でも心の奥底の感情でもいい。何か言いたいことはあるか?」

「ぅ、ぅ…」

エリスの言っていることの意味は正直よく飲み込めないこともあるが、ひどく惨めだった。神学講義の疑問を問い詰めたくて来たのに。



しばらく話せないリギルの代わりという感じで、エリスは窓の方を見た。

「もう何千回も誰かの相談に乗ってきたと思うが……女性は感情的のようで、自分の気持ちをけっこう理解して話せる人が多いんだ。心と言葉が逆になっていたりはするがな。でも、男は理論的というが言葉不足の上にプライドが邪魔をして正当性ばかり訴える人が多い。


そんなことは誰も求めていないし、本当に理論的なら相手の気持ちを汲み取る方が合理的だと分かるのにな。」



「…ぅう…ぅ…」

「同じ「察してよ」も、女性は『理詰めとかで世の中も人も回らないから大変なのに?相談に来たんだからたくさんの感情をくみ取ってそこに頭を使ってよ』って感じで、男性は『常識だろ?これ以上何を説明するんだ?』という「察してよ」の違いかな?」


リギルは、俺は男の最悪なところを固めたプライドの塊かよ、暗にこき下ろしているのかと嫌な気分になる。


「…ここで、感情的に私を罵らないだけでも、一つ他人が入っているける余地を広げたんだよ。リギルは。分かるか?」

「…?」

すすり泣きは止まらないが、何のことだろうと思った。



「リギル、少し頭にくる話かもしれないが、見た目の話をしてもいいか?」

「…ぅ」

結局そこに行き着くんじゃないかとモヤるが、他に答えようがなくて引きつけながら頷いた。罵らないのではなく、言葉が出てこないだけだ。



「もうな、一部はあきらめるしかないんだ。ローやランスアの容姿がいいのはどうしようもないからな。…まあ、自分からしたら2人とも別にイケメンでも何でもないのだが、女性の趣味は分からんし、体格がいいからそんな感じがするんだろう。」

その体格だけで、十分人生イージーモードである。自分はプラスどころかマイナスどころか着地点がないとリギルは言い返したい。



そこで霊性論に話を移した。

「確かに霊性は生まれ持った姿をしている。その姿はあの世の姿でもある。

でも、そこには2点の重要なものがあるんだ。」


「………」

「生まれ持った姿に、霊性の成熟度が加わるんだ。もちろん逆も。」

「…?」

「強欲、姦淫、蹂躙…いじめや人を蔑む心も加わる。そういう要素も全部霊体に現れる。霊性師が犯罪歴や姦淫を見分けられるのは霊に表れているからだよ。はっきり言えば大房民に性欲部分がキレイな者はほぼいない。とくに男はそうだな。」

それは思考部分も含まれるので、童貞処女は関係ない。そして何と言ってもナンパの聖地、大房。平均的な貞操観念がアンタレス内では特に低い。霊が見えないので、隠す気も改める気も怒らない者も多い。


「性欲自体は否定しないよ。人間の根本でもあるから。そこから生命も生涯を番う者への愛も生まれるだろ?

大房は正直娘を行かせたくない地域だが、その中でもアーツのメンバーはいい方だし、方向転換できる可能性を持った者を残している。」

ボーとエリスを見る。

「残しているというか、初期はサルガスとヴァーゴがそういう人間を引っ張ってきたんだが。」

それにはエリスもちょっと驚いたが。



「私たちはそういうのが見えるんだよね。全部ではないし、全貌ではないからミスはするが。

そんな感じでいろいろ霊が見えると、外見は一見きれいで素晴らしく見えても、全然だめな人が多いというのも知るんだ。あっちこっちで性関係を作って、ひどいと子供にまで影響させてしまった場合も多い。


人は死後に何も持っていけないというが、後の世界に持って行けるものは()()()()()()もあるんだよ。つまりマイナスだな。だから幽霊になったりするんだ。本人の怨みだけじゃない。他人への負債も残して。」

幽霊は昇天できないままの霊だ。


ローはともかく、次兄ランスアはあの世で女に釜茹地獄にでも突っ込まれていそうだ。八大地獄、全部回れそうである。ただ、嫌々関係を持たせてはいないし、女性の方からやって来るので数周で許してもらえるか。

と、思いつつ………自分の方がネットで女性を蔑んだ分どうだろう。大叫喚地獄には行くかもしれない。


エリスは少し姿勢を正した。

「でも、心が変わった時、全てが変わる時があるんだ。死んでしまったら簡単には変えられないけどね。死んだときの心身の状態が固定される場合もあるから。」



「もう一つ。あと人はね、自分の持ち物だけでなく家族や同じ地盤に住んでいた人々の重荷も引き継ぐ。体質も遺伝も、運気も、世界も。だから容姿も全部リギルのせいではないし、両親だけのせいでもない。それに誰が何を背負っているかなんて、人間には全て分からないほど複雑なんだ。


笑っている人が素晴らしいのか、泣いている人の方が負債が少ないのか、怒っている人がダメなのか。そんなのは一見どころか、何重にも見えないものが被さって見極めるのは霊性師でも難しい。人生ってそうだろう?簡単じゃない。


元々人間は何千何万年も掛けて負の遺産を積んできたからね。今いる自分たちそのものも本来の姿ではないんだ。」


「……?」


「歴史の話をすると長くなるから今は省くが、人間は最初の掛け合わせでミスをしたんだ。人間同士が成熟した大人の精神できちんと結ばれなかったから、その後もたくさんのことが成り立たない。子供が子供を産んだような感じかな。


病気が多いのは当たり前だと思っているだろ?最初の大人になり切れない精神性をそのまま持って繁殖したから、人間は歴史の中でしなくてもいい()()()()()をたくさんしてきたんだ。」

抽象的な話をしているがリギルにもなんとなく分かった。


「…人間以外のってことですか?」

「人間の幼さのことでもあるが、そういう答えもあるな。子供を残さずともそこが子孫に繋がらなくとも、菌は保有するし。」

性関係があればという事だろう。猿人や動物の話か。

「遺伝や精神に繋がる不貞行為もだな。そのために不治の病気や精神病も持ってしまったが、前時代は人間はこの厳しい自然世界を乗り越えていく強さをそれで得たと考えてきた。」

そういう話はネットにもたくさんあるし、高等教育でも習っている。


「まあ、その辺もっと神学や生体学を学ぶといい。聖典と科学をきちんと照らし合わせれば分かる。」

そしてエリスは少し柔らかい顔になった。

「……今の姿は、必ずしも自分の全てではないということだ。それに、基本の姿というだけで、霊は姿形は変えられるし。」

「………」

それは………自分にも違う姿があるということだろうか。


「………でも、愛と慈悲の神なら、こんなままの自分でも愛してくれるんじゃないですか?」

理論的には。と、思って慌てて否定する。

「って、でも、理不尽です!」

理論的にはそうなのだろうが、正直兄たちが羨ましいという思いは消えない。彼らのようになりたかった。

「はは、そうだな!どんな姿でも神にとってリギルは唯一だよ。大切な存在だ。

親が見捨てても、神だけは見捨てない。たった一人のその人を………」

「………」

「どんなにチコたちやアンタレスに優秀な人間がいても、リギルにしか担えないものもあるしな。」




「それと、人類の歴史、それには盲点が一つ。」

「……?」


「最初から()()()()()()()もあったという事だ。」


「!」

そんなこと考えもしなかった。人間は本質的にそういうものだと思っていたからだ。



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