64 共有
イエローブロンドに紫の目。
自分の周りを後ろから平行な光の帯が鋭利に貫いていく。
その全てが過ぎ去って、体が軽くなった。
チコ………?
チコ?
「…………」
誰かの呼ぶ声がしてチコはスーと目を開けた。
「チコ!」
ムギが「うわっ」と駆け寄る。
「……ムギ…?」
「…チコ!!よかった!」
「チコ様!!」
「チコ大丈夫?」
響も心配そうにのぞき込み、額に手を当てた。
「あ?」
バサッと起き上がると、そこにはファクトやムギ、ニッカもいて、アセンブルスやガイシャスも安心した顔をした。カウスは何でもない顔でぼやく。
「『あ゛?』とか、色気のない顔で起き上がらないで下さい。だから議長がいつも呆れてるんですよ。」
「は?黙れ。」
チコは先のことを思い出して、今いる場所がどこなのか確定感がなく浮遊感に戸惑う。時間を見るとそんなに経ってはいない。
あれは霊視?他人の走馬灯のようなものだろうか。それともこれが響たちが使うサイコロジーサイコスの一種なのか?信じられなくて、自分の手のひらに目を落とすと胸が熱くなった。
全ては覚えていない。でも、ここがベガスで、知っている顔を見るとなんだかほっとする。安全な場所だからではない。いつか彼方の、誰かの意志が独裁政権侵略の防波堤となり、このベガス構築に繋がったという感覚だった。
見たものは一部だろうが、今ここに繋がっている。この時代に、この世界に。
彼ら、彼女たちの中には死んでしまった人もいるかもしれない。でも、何かは実っている。
ギュグニーの国境で何があったのがはまだ分からない。
けれど、たくさんの人たちの意志や心が動かなかったら、自分はまだギュグニーにいたかもしれないのだ。生きていたのかも分からず。
そしていなくなったバナスキー…。
彼女にとっては何が正解だったのだろう。けれどはっきり分かることは、いずれにせよバナスキーは強化ニューロスの、シリウスの被験体になることを選んでいただろうという事だ。
「テニア様も少し座り込んでいましたが、しばらくして調子が戻ったようです。」
ガイシャスの言葉を聞いて、チコは響に振り向く。
「響……。」
「あのね、チコ。細かいことは後で話すけど、ちょっと境が分からないんだけど確実にサイコスは働いてた。あの石ね。」
ニッカの持っていた骨。
「チコ、ニッカさん、それからテニアさんに反応してる。」
「三人に?」
ニッカの持っていた骨だ。
「私……少し一緒にいたけれど、教室のある建物で少し方向を変えたの。だから途中からチコのことは分からないんだけど。」
「?!」
心理世界なのか記憶の世界なのか。響もそこに行っていたのだ。
教室。
心理層ではチコ自身目線の世界はなく、自分には他人のように思えた視点。でもきっと実際に幼い自分がいた場所。
あの廃墟の中のアジト。それを教室を響は知っていたのだ。
「この子は大人しくさせたけどね。……私が飛んだ後に少し勝手な行動はしたみたい……」
響が怒ってファクトの方を見て、近くにあったペットボトルで横腹を突いた。
「っう!……すみません…。気になり過ぎて……。」
この二人はもしかしてもっと前からいろいろ知っていたのかと、チコは戸惑う。
それからもう一度周りを見渡すと、窓際にいたテニアと目が合った。
歳をとってもあまり変わらない飄々とした雰囲気。この人が自分の父だったのか……と改めて納得する。あの指輪は、本当に二人の物だったのだと。
「……お父さん」
そう思い起こしながら、意識せずつぶやくとテニアがハッとした。
「おとー…さん?」
「っ!」
「え?今、おと~さん!って言った??好き?俺の事好き??」
と、寝ていたソファーに近付いてくるので、思わず距離をとる。
「いっ。あの、違います!!」
東アジアの人間や一部の兵士たちが、思わず一般人である学生たちを見てしまう。テニアがチコの父と公式発表していないのだ。
「………」
ムギはかつて、まだ顔だけ知っている程度のソラを響と間違えて抱きついた上に「響!」と呼んでしまった自分を想い出し、憐れな目でチコを見てしまった。チコも間違えたのか……と。
しかし様子がおかしい。
ファクトも響も何でもない顔をしている。見回しても部屋の雰囲気が不自然だ。
「え?……」
なんだこの空気。
「もしかしてホントに?」
「ムギ?」
「本当にお父さん……?」
「………」
みんな肯定も否定もしない。
「え?え?テニアさん、チコのお父さん??ほんとに?!!」
「え?どうだろ。」
ごまかすテニア。
「鳩、どうだったっけ?」
「僕に振らないで下さい。」
「チコちゃん。どうだっけ?」
チコに振ると、チコはイヤな顔をして一言。
「知りません。」
「………ああああ!!!!」
ムギが確信する。親子だ、絶対親子!
そして、声を上げてしまってからニッカを見て口を塞いだ。ニッカは、ただ普通に佇んでいる。
「……もしかして響さんも知っているのか?」
響が動揺しないので東アジア側が聞いてみると、響はコクンと頷いた。東アジア側がユラスを見ても彼らは首を振る。響には話していない。ファクトから?と思うが、響の能力を知っていた東アジア側は隠せないのか……と観念した。心理世界で知ったのであろう。
今この中で、全体的な諸事情を知らないのはニッカだけだ。東アジア側がため息をついた。
ニッカは、席を空けた方がいいのかな……と思いつつも、誰も言い出さないし自分からも言い出しにくいので黙っている。いずれにせよ今となっては、ニッカもギュグニーのことが知りたい。
「何?これは仕組んだの!!?」
ちょっと訳が分からないムギ。いったいどこから何が繋がっているのだ。なぜ自分の雇われ護衛がチコの父なのだ。なぜそんな性格なのだ。普通に落ち着いた人だったはずだ。アリオトに聞きたいが彼は今、別の話のために席を外している。
「テニアさん!」
「…いや………なんかそういうことになってた…。チコの知り合いのムギちゃんと関わったのは偶然。アリオト君に聞いても彼も知らないと思うよ。私も、そろそろセイガ大陸にも帰れるかなーとこっちに来てただけで、娘に会えるとは思っていなかったし偶然重なった。」
ムギは目をパチパチさせると、テニアはすまなさそうな顔をした。
「娘がいて生きていることも知らなかったんだ………。」
「………」
その様子を見ながらファクトは「いや、仕組んだんだろ」と思ってしまう。
誰が?
過去の全てが。
こうして潜在的な環境を積みながら、世で言う『奇跡』は表面に現れるのだ。
過去の人々も明確な構想などなかったであろう。思ったように未来に生きることができる人間などいないのだ。
積んで積んだ見えないものが、こうして表面に現われていく。
自分が、就活に行って気が付いたらベガスに居ついてしまったように。『30歳で童貞なのに魔法使いにもなれなかったヴァーゴ』が無敵な総長の紹介で遂に婚約者をゲット?!!』となってしまったように。ヴァーゴより早く結婚して20後半から30前半には子持ちかな?と余裕をこいていた大房男子どもが、逆に今彼女すらいないように。
人間に関しては、神ですら思い通りに青写真そのままを描けないのだ。
テニアと大房兄弟でクレープを食べたあの日を懐かしく思いながら、ファクトは自分の中のピースが一致していくようでうれしい。過去は決して、最善ではなかったけれど。けれどきっと、失敗し、失敗してもその中でも最善を尽くしてきた結果だ。
ヴァーゴだって、あの強面でもずっとみんなに良くしてくれた。ジェイも、みっともなくても受け入れがたくても、ここでは陽キャの影にもならないと知りつつも、嫌いな人間に頭を下げてまでアーツに戻ってきた。結婚できるとも、カーティンさんのお膝元で働くとも思っていなかったであろう。
その時はどんな形になるか分からなくても、過去に生きたたくさんの人たちや自分たちは、また未来に何かを繋げたのだ。
チコは渡されたスポーツ飲料を全部飲むと、参謀の顔になって考える。
今見て来たことと現実を繋げたいし、母レグルスがいた場所の勢力図がどうなっているのかも知りたい。現情報でいくつかの照らし合わせができるであろう。ただ、人が多いのでここではできない。
「…テニアさんも…」
「え?お父さんじゃなくて?」
と、間髪入れずツッコんでしまうテニアおじさんと、引いてしまう娘。
「え?あっ、テニアさん……」
「えーひどい。鳩、今更どう思う??」
「え?どうしましょう。チコ、今更だって。パパーって呼んであげたら?」
「テニアさん、大事なお話なんですが、」
おもしろくなさそうな顔をされるがチコは続ける。
「テニアさんはこの石が『トレミー』だと知っていたんですよね?
ファクトがサイコスで知っていたように………」
「まあな。よっぽど似た霊形や人でない限り。」
骨を通して見えた女性はおどろおどろしい亡霊のようだったが、おそらくトレミーだ。
「よし、まとめよう!」
チコが後で共有すべき、戦略会議のことを考えていると、突然ファクトがここにセイガ大陸の地図をホログラムで開いた。
●お母さんと先生みたいに、ソラと響を間違える。
『ZEROミッシングリンクⅡ』5 ファクトの背中
https://ncode.syosetu.com/n8525hg/7
●30歳越えヴァーゴは無事結婚する。
『ZEROミッシングリンクⅣ』5 30歳童貞は魔法使いになれなかったけれど
https://ncode.syosetu.com/n0646ho/6




