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ZEROミッシングリンクⅦ【7】ZERO MISSING LINK 7  作者: タイニ
第五十九章 すり合わせ

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62 なぜ怯えているの?

※残酷な表現、暴力など含まれます。苦手な方はお避け下さい。




(まばゆ)いばかりの閃光がとてつもなく長いものなのか、一瞬の瞬きなのか。



何よりも眩しいはずなのに全てがはっきり見える。


もういい。分かっている。自分が悪いのだと。

何も見たくないのに。



トレミーの中の、たくさんの光の中に闇が現れて全てを覆う。




誰かの泣く声がした。

泣きすがる女はバーシだった。



『お願いです…っ』

『約束だったはずだ。他の女には手を出さない。その代わりお前が来ると!』

『お願いです!』

『だったら私は誰を妻にすればいいんだ!正式な妻がほしい。』

バーシが他の誰の名も、どこかの誰かの話も出せないことなど分かっている。


まるで子供のように身を縮めて抵抗するバーシ。私ならどうするだろうかとトレミーは考えた。いきなりこんなことをされたなら死に物狂いで抵抗したであろう。でもバーシははっきり約束をしたのだ。だったら心を決めるしかないのではないか。


けれどバーシは……レグルスは、誰かから貰った指輪をお守りのようにはめてそこにすがっていた。その指輪は心が弱くなった時だけ、本当に時々、少しの間はめていた物だった。結婚指輪と思われないように普段は人差し指に着けていたがその日は薬指にしていた。


指輪に気が付いた(おさ)の男がカッとなる。

『往生際が悪い!』


そんなことで、あきらめてもらえると思ったのか。

バーシがほしくてほしくてしょうがなかった長は、自分から来てくれるバーシに期待しかなかった分、怒りも強かった。

『外せ!』

『…っ』

『外せ!!』

バーシは何も言わずにうずくまる。


『外せと言っている!!』


それでも縮こまっているバーシの腕を掴み上げる。

『なら私が外させる!!』

そう言って長はバーシの手首をチェストの上に押さえ付けた。


『外すか?』

『……』

『最後の勧告だ。外すか。』

『………』

やはり何も言わない。長はフォールディングナイフを取り刃を出した。折りたたみの実用ナイフだ。それなりの物だが、体幹の大きい長の手には小さく見える。


『外さないなら切る。』

『………』

『私が情けをかけるとでも思うのか?』

『…っ』

そこでバーシは必死に抵抗しようとした。


長には分かる。ナイフが怖いのでも指輪が取られることそれ自体が怖いのでもない。バーシはその先が怖いのだ。天の貞操と、忘れられない夫を失うことが。天への足枷を外すことが。



『クソがっ!!』

さらにカッとなった長はそんなチンケな言葉で奪った。

レグルスを。夫を。


ガズッ、

と骨の音がする。


『い゛っ!』

バーシはそれだけ呟いてまたうずくまった。長の男は憤慨してズカズカと小部屋の奥に行き、この空間で唯一の窓を開け、何年も放置してある埃臭い窓外にその指を投げつけた。


『…っ』

血だらけの部屋。バーシはほとんど声も出さず根元から切られた手を指をどうにか抑える。

長は戻って来て暫く憤ったままその姿を見ていたが、ドクドク流れる血にハッとする。



そんなバーシの肩を揺すった。

『バーシ!』

バーシは揺らされながらも、少し虚ろな顔をしたままどこかを見ていた。


『バーシ!バーシ!なぜ…っ』

何も答えないバーシを抱き込み、応急処置をして医者を呼ぶ。

『なぜ、なぜ……』





その後、傷がある程度いえるまでバーシを部屋から出さず、掃除に関しても治療に関しても、バイシーアから来た人間は誰一人ここに入れなかった。






――これは何だろう。



トレミーは思う。


まるで、この廃墟で起こったことが全て見えるようだ。




他の人間の事情も見える。

思った以上に外部の女が出入りしていたし、銃殺される者も時々いた。けれど、少なくともこんな荒んだ場所でも子供に手を付ける者はいなかった。もう見た目は十分大人になった者たちもいたのに。




そして、たくさんの密会が見える。


外交官の女たちもあれこれ体を売っていたのだろうか。


男女の事情だけでなく、あれは何なのか。

金銭のやり取り、賄賂?手紙?デバイスなどを通さずに何かをしていた。この数年間、あちこちで。




――




光が現れて、また光が去る。そして何かが見える。


レグルス………、バーシだ。

もう見たくない。





傷もまだいえないうちに長はバーシに手を付けた。


『お願いです……。お許しください!やっぱり無理です。』

『バーシ、ダメだ。興奮すると傷に悪い。』

『お願いです……』

『私が先に出会っていればこうはならなかったのに………』


そう、きっとそうだっただろう。でも、先に出会ったのはテニアなのだ。それは変えることはできない。


『…お願いです。お願いです………』

痛いだろう手は手首を使い、両手で必死に長を押しのける。

『バーシ、やめろ。傷が開く。』


トレミーには分かった。これはバーシの必死の抵抗だったのだ。最後の抵抗。





もうその先は、本当に見たくなかった。

あらゆるものが見える。


トレミーは知らない。



長の男の部屋のベッドで、廊下で、誰もいない空き室で見える全て。これは何なのか。

世界の狭間に残された全てを映し出す、サイコメトリー。


その能力は何も不可思議ではない。

宇宙にはたくさんの物が残されている。


ホログラムの欠片。

そのただの一片。それが反射するだけのこと。




また何かが光る。




――






『なぜ、バーシに手を出した?この国にもいくらでも女性はいるのに…。』



あれはいつだったか。


全ては同じ時?それとも………



懐かしい落ち着く優しいあの声、なのに違和感。もういないはずのシーキス老牧師だ。

そう、彼が声を荒げることなどほとんどなかったから違和感があるのだ。


『今すぐ開放するんだ。弱っているのになぜ……』

『バーシは私を裏切る……』


シーキス牧師は何とも言えない顔をした。二人目の妊娠期に会った時点で、バーシはテニアとの婚姻を解消してほしいと言ってきたのだ。もう少し考えるようにと説得したが、バーシは「もう後戻りはできない、私は総監と一緒にいます」と言っていた。



『まずはバーシや私と相談すればいい。前にも言ったが、ここでは無理だが遺伝子を調べるんだ。あの子はあなたの子だ。』

シーキス牧師がそう言っても、長の男は全てに怯えていた。自分の子でも、そうでなくても。



シーキス牧師は焦っていた。

バーシの体に既にガタが来ていたからだ。おそらく体の変調からくる妊娠か産後からの鬱。ここではホルモン治療もできない。ただでさえこの国では多い、妊産婦の病気や死亡。




もう何の抵抗もしなくなったバーシさえ、長は信じられない。


神は何も責めていなかったが、バーシにもシーキス牧師にも神にも責任を追及されているように思えたから。




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