52 骨の記憶
●サンスウスでの出会い
『ZEROミッシングリンクⅣ』20 あの場所にあったもの
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「おじさん!」
「鳩!」
幾つかの認証と持ち物検査の後に通されたのは、東アジア軍管理の執務応接室であった。
戦場から生還してきた父親を迎えるようなファクトの喜びように、みんな何と言うべきか分からない。なぜか一番再会を喜んでいる、テニアとファクト。
「………。」
唖然と二人を見つめる皆さんにテニアは「うちの息子だ!」と、楽しそうに教える。
「はあ?!」
許可を貰って付いて来たムギは思わず言ってしまう。なぜムギの護衛だったテニアとファクトが親子なのだ。
「リンちゃん久しぶり!元気だった?」
「はい。というよりなんですか?なんでファクトと仲がいいんですか??本当に息子なんですか?なんでテニアさんがここに?」
同行していたアリオトも、よく分からないと笑うだけだ。冗談の息子だと思っていた。
「………。」
テニアは、何でって義息子だから……と言いたいが、言ってもいいのか分からなくて変な顔をして黙る。ムギもムギで、あれ?こんな性格だったっけ?とテニアを眺めていた。チコの横のアセンブルスが、何も言うなと言いう警告の笑みを無言で送っている。
「……こちらは?」
ムギと共にファクトと同行を許された響とニッカがテニアに礼をした。結局、響も引かずに来たのだ。
「…………えっと、アリオト君の妹さん?」
「はい。お久しぶりです。」
兄アリオトと違う、ナオス族の混ざったようなニッカ。教育実習で会ったサンスウス以来だ。
「初めまして。ファクトたちの友人で私はミツファ響と言います。ムギも………そちらのチコ・ミルク議長夫人も私の友人です。」
リンと言われていたが、響はムギの名前を出して挨拶をした。
「…えーと……」
「ニッカの兄で、アジアライン共同体のスタッフ、ザイタオス・アリオトと申します。」
握手のために出した手に驚いて響は慌てて右手を出した。存在は知っていたがなぜここにと思う。
え?何?みんな知り合い?
と戸惑いながら響は状況を把握しようと周りを見渡した。
と、挨拶を交わしたところでテニアは少し後ろにいたチコにも涼しい笑顔で礼をした。
チコも、黙って礼を返す。
「…はぁ………。」
わーと騒がれると思ったが、それくらいの分別はあるのかとチコはホッとした。
「あの人黙っていられるんですね。」
「………。」
ぼそりと言っているカウスをチコは無視した。
「まず、テニア様はこの後そのままユラスにご同行していただきます。」
「えっ?」
アセンブルスが伝えると、いきなり嫌そうな顔をする。
「………鳩は?」
「ファクトは関係ありません。仕事も学校もありますし。」
「ええ~っ」
ユラス軍の方を見て、すごく嫌な顔を隠さない。
「おじさん、当たり前だよ。みんな困らせないでよ。」
正直詳細は知らないがファクトもおじさんを説得しておく。
「まあ、我々の指示に従って下さるなら、しばらくこちらにいて下さっても構いませんが。」
東アジア側が言うと、テニアはまた嫌そうだ。
「鳩~。東アジアとユラス、どっちが優しい?」
「そんなん、おじさんの方が知ってるでしょ。」
世界を回っている傭兵、知らないわけがない。
「でもさー。どっちがいい?東アジアの方が良くも悪くも機械的…、でもユラスの方がこき使われてやること多そう……」
みんな何を言い出すんだとチラチラ見ている。世界最強軍の東アジアとユラスの現役軍人たちの前である。
「どっちでもいいから言うこと聞きなよ。」
「観光は~?」
「………できると思う?」
「え?そうじゃなきゃ何のためにこっちに来たの?自分。」
二人がしょうもない言い合いをしていると、ニッカが口を挟んだ。
「あの!」
振り向く皆さん。
「あの…、この石………。もしかしてテニアさんの物ですか?」
この言葉の中には『大切な人ですか?』という意味が含まれている。
テニアはハッとした顔でニッカに向き直った。
「……いや。」
「………?」
『持ち主に返さなくては』と、ニッカは懸命に会いに来たのだろう。身内と思ったのかもしれない。テニアはにっこりと笑う。
「大切な人だけれど、親族ではないよ。
でも、…妻の大切な友人かもしれない………。」
「!?」
何人かがその言葉に注目した。
「ま、………妻にとっては家族も同じだな………。トレミーかもしれない。」
「………トレミー?」
「だとしたらおそらく身内がいないんだ。代わりにきちんと葬ってあげないといけないかもしれない。」
ニッカは澄んだテニアの目を見つめる。
どこまでもその先を覗けそうな、深い深い、でも澄んだ目。
「預かった石も見てみたが………確認しよう………。」
テニアがアリオトを見ると、アリオトも頷いた。
そうしてニッカが差し出した石を直接その手から受け取ろうとした時だった。
手の平の石にそっと触れたとたん、
カーっと光が弾けた。
見える人間には見える。
石と手から大きな光があふれているのが。
東アジアの一部のメンバーも目を見開いていた。
――絶対に振り返るな――
ユラスの荒野か、どこかの草むらか。
――お母さん、お父さん…っ
みんなも連れて行ってあげたい――
次元の境が歪む。
白とグレーの光がモワっと出ながらも大きな閃光になり、二人を包もうとした。
「おじさん!ニッカ!」
そう言って手を出したファクトをさらに響が乗り出して止める。
「ファクト、ダメ!!!」
「響!!」
チコが手前に出るが遅かった。
人によって見える物は違ったのかもしれない。
けれど、響とファクトの目には大きな渦が起き、何かが迫って………
いや、遠のいているのか。
近いのか遠いのか、進んでいるのか後退しているのかも分からない。
バチバチバチバチバチバチッ!!!!
と何かが。
笑う女性?
悲しみに沈んだベッド?
命が繋がれる岐路?
あれはデータなのか、生命なのか。
けれどどんなにデータを拡張しても、人間のような魂は見えない。
どんなに試験管で繁殖しても………
機械よりも精密な人体の構造は………いやそれを作り出すことができても、
霊と魂はただの光に見えても『言葉』を持ち、そしてものすごく複雑で精密で緻密で――
誰も同じものを見ることができない。
ユラスの荒野の風を浴びるブラウンヘア――
それは果てしなく、空を越えてどこに届くのか。
走馬灯のようにあらゆる場面がファクトの視界を覆い………バタッと倒れそうになる。
響が最初に駆けつけたが、テニアがファクトの身を支えた。
「鳩?!」
「………サイコスター!強力な!!」
「!?」
響の言葉に軍関係者たちが騒めく。
響はムギやニッカの方を見て叫んだ。
「リーブラに頼んでもいい。火をつけるだけでいい沈香を持って来てファクトの周りに焚いて!お香!コンビニやスーパーに売ってるお参りに使う高くないのでいいから!」
「へ?」
そして響は自分の手を合わせてその場でDPを開く、そしてそのままバタッと倒れた。
「響!」
チコが支える。
「響っ、響!!」
響も飛んでしまった。
「バカか!」




