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ZEROミッシングリンクⅦ【7】ZERO MISSING LINK 7  作者: タイニ
第五十八話 あなたが欲しくて

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50 くすんだブロンドの女



「だから辿ってきたんだ。」

ファクトは思い出したように電話をする。

「ちょっと待って!今呼ぶから。」

「へ?誰を?」

響は戸惑っている。


「少しいい?」

近くで待機していたスタッフにシリウスも許可を取っていた。

「……20分ほどなら……。」

そして全員場所を南海広場隅のミーティングルームに移した。




数分待って、ムギのバイクでミーティングルームにやって来たのはニッカだった。シリウスと共にいたスタッフには席を外してもらっている。


その場にシリウスがいることに、ムギが顔をしかめた。

「うげっ。最悪。」

「ムギ、失礼だよ!」

響は注意しながらも、ニッカとムギが来たことに戸惑っていた。なぜ二人が?危ないことに関わらせたくない。

「ムギも…?」

「私は付き添い。ニッカと一緒にいたら連絡が来たから。」

ムギはファクトを見て嫌そうに舌を出した。

「……ムギさんは呼んでないんですけど。」

ファクトもベーと返しておく。


呆れた顔でニッカが呼ばれた理由をファクトに尋ねた。

「ファクト、それで何?」

「あ、ニッカ!

ニッカさ。何か知ってない?()()()()()でさ、勉強してたとか?」

「……勉強?」

()()()()()というのは分かる。一瞬、その話をここでしてもいいのかと焦って周りを見渡すが、ファクトが力強く頷いたので話を進めた。

この場にいるムギ以外は言わなくても「あっちの国」をギュグニーと理解していた。


けれど勉強?ニッカは首を傾げる。

学校に特別良い思い出はない。余計なことを言わず、言われることをきいていれば座っているだけだったので、労働より体は楽ではあった。思い出すのは自由圏ではありえないほど規律しかない生活に、張りぼてのような教育と物資で、ひどくみすぼらしかったことぐらいだ。


ファクトもムギにはバレてもいいだろうと話を進める。

「先生は女性たちだった?」

「……さあ。男の先生の方が多かったし、小中学校くらいの勉強はしてたけど…。」

「教室はどんなところ?」

「山裾の普通の小学校だよ。」

「………何階建て?」

「………平屋が数軒並んでいるところ。」

「地下は?」

「地下?納屋っぽいものはあったかもしれないけど……記憶にないな………」

小さな倉庫や防空壕になるかどうかくらいの物しか、覚えていない。

「…………」

ニッカのいた場所は、おそらく外交官たちのいた迷路のような建物の教室ではない。しかも田舎だろう。


響は戸惑い、シリウスは何ともない顔でニッカとファクトのやり取りを見ている。ムギはただ黙って場の雰囲気を読んでいた。


ニッカは宇宙の人たちと何も繋がりがなかったのか。もしかして『ニッカを知るファクトの意識』が彼女たちの精神世界と繋がってしまっただけなのか。

「ニッカさ…。向こうの国で出会って何か縁があると思ったことがあったり、持ち込んだ物ってある?」

「………?」


何のことかと驚いてファクトを見つめた。


「………。」

少し考え、静かにもう一度顔を上げる。


そして、首からぶら下げたネックレスを胸元で握りしめた。


「この石…。」

「石?」



石という名の人骨。



戸惑いながらもネックレスを外し、ファクトにその石を渡す。


「…これ………」

「これ?」

「あの国境を越える時に拾ってきた物。」

「…!」

ファクトは石からニッカに目を移した。


ニッカはフェンスを目指したあの時を思い出す。

「誰かの手を握った気がして………」


自身の手元を眺めているニッカを、シリウスは静かに眺めている。


ファクトは続けた。

「誰かいた?」

「誰?」


知らない。ニッカは知らない。

「……知らない。」

何せあの前後の記憶がぼやけている。

国境越えをした人々はなぜか前後の記憶が薄いのだ。まるでキツネにつままれたように、獣道を見付け………必死に進んでいるといつしか国境を越えている。


「何でだろう。あんな人生分け目の瞬間だったのに……よく覚えていないんだ………。

全てが蜃気楼で、霧の中のよう……。

みんなそう。一緒に渡ってきた人たちも状況をよく思い出せない………」

元々知らない人も多くいたが、国境越えをしてきた誰もの記憶がぼけている。


そこで響が気が付く。一人や数人ならその時の精神状態や霊性の現象と言えるかもしれない。けれど、霊性は今の時代でも分からない人には分からない。ギュグニーのような物質主義の国ならなおさらそうだ。


目に見える形で複数人に直接影響を及ぼせる力。



サイコスと霊性の最大の違いは2つ。


サイコスは直接物質や見える力に働きができるとことと、観点や感性はあくまで主体の物だということだ。ファクトがその世界を見ていてもその世界はファクトのものではない。


例えば、霊性は怨霊を見せれば相手に恐怖を与えられる。けれど、サイコロジーサイコスはその恐怖を感じた相手の観点、もしくは怨霊の持っているうらみの世界をその本人の観点から見る力だ。影響は与えられるが、相当精神力が強くなければならない。けれどその力を持てば、双方霊性がなくとも誰かに影響を与えらることはできる。霊と心理は似ているが管理する領域が違う。ただし、霊への感性がない人間はサイコロジーサイコスの才能もない場合が多い。どちらも精神性や時空間に働きかけるものであり、類似点が多くあるからだ。



もしかして、そこに強烈なサイコスが働いていたのではないか。


サイコロジーサイコスは霊性と似ているため、超能力と思われず、物質主義の人間たちにはただの薬物反応と似ている扱いをされる場合が多い。


「……ファクト。もしかして強力なサイコスが働いていたのかもしれない……。」

響は不安気に言った。そう感じていたファクトは頷く。



「何だろう……。」

ニッカは記憶の片隅に思い出す。

「……金髪っていうの?私は金髪の種類は分からないのだけど………少し灰色掛かった金髪?…………」

アジア大陸はこの時代も黒か茶系の髪が多いため、ニッカは表現の仕方が分からないが、確かに見た。



人に会っている。

そう、確かに人に会ったのだ。誰かの肌を触った。


そして見た。


くすんだ色の、落ち着いた金髪を。


くすんだ色なのに………よく目を凝らすと輝くほどの艶やかなアッシュ系のブロンド。

なぜかおどろおどろしいとも、美しいとも思った人。


そんな人がいた気がする。



「…その人の名前は…………」

ファクトは一息して静かに答えた。


「ジュリだよ。」


「ジュリ?」

「ファクト………」

響が不安になりながら見つめる。サイコスの中の話をしているのか。それは現実とは違うのかもしれない。シリウスとムギはまだ動揺もなくその様子を見ていた。



ニッカは自分の記憶をすくい上げる。



「……あの獣道で……あのフェンスを越えられなかった人たちを………


連れてきてあげたかった…………」



そう言うと、響とファクトには変化が分かった。ファクトの手の中の石から光が出ている。

「…っ?」




その時ファクトのデバイスが鳴った。

いつもと違う、時別な音。


演歌のような歌謡曲であった。


「あああっ!!!!」

ファクトがデバイスを見て信じられない顔をする。

「なんだ?うるさいな。このクソったれた音楽。」

「ムギ、言葉に気を付けなさい!」

口の悪いムギを制する響。


しかしファクトの驚きは止まらない。


「おじさん!!」

「おじさん?」


急いで電話に出る。この着信音はおじさんだ。静かにシリウスが、会話するファクトを見ている。

「おじさん!なんで連絡くれなかったんですか?!」

『鳩。最初に俺の苦労をねぎらえ。』

「おじさん~~!!」


『うるせえな。仕事中は仕方ないだろ?つうか鳩、ユラスに黙って直でこっち来たから怖いユラスの皆さんには黙っとけよ?』

「え?それって、僕に何の力も権限もないんだけど?自動でユラスに連絡行かないの?僕を原因にして一緒に拘束はイヤだよ?」

『黙れ。』


「え?誰?」

ムギを筆頭に戸惑う皆さん。



電話の相手はテニアであった。




***




ベガス南海駐屯。

主に女性兵たちに楽しく格闘術を教えていたチコは、休憩に入って座っていた。女性の力や体に合った組み方など指導し、休憩中も挨拶に来た後輩たちと談話をしていた。


「チコ様っ!!行きましょう!」

そこに珍しく急いで掛けてくるのは席を外していたアセンブルス。


「なんだ?用事ならフェクダにでも言っておけ。」

楽しい時間を邪魔されたくない。

「だめです。」

「あ?後でだ!」

アセンブルスは伝心で緊急のサインを送る。


「…………」

顔をしかめて仕方なくチコは応じた。周りも何事かと見ている。


「はあああ??」

話を聴いてチコは思わず口にしてしまった。


『テニア・キーリバルがアンタレス入りしている??』

『はい。既にアンタレス空港です。』

『連絡の上、ユラスを通れという約束だっただろ??』

『そうですね。そうはいかないところがチコ様のお父様だなと、改めて思い知らされました。』

『黙れ!そもそも東アジアもなんだ!なんで速攻知らせないんだ!』

『今、知らせてくれましたが。』

『………』


出国で分かるだろ?と言いたいが取り敢えず言うのをやめて頭を抱えた。


「カウスが待っています。」

「カウスか…。」

なぜだかこれにも頭を抱える。

「ガイシャス。この場はミコラルとフィリースに任せて一緒に来れるか?」

「はい。」

「レオニスも駐屯をよろしく。」

「分かりました。」


テニアのデバイスを追えるようになっているので、急いでチコは席を外した。



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