3 赤龍の横に青龍が来る
「ファクト~。私も残りたいよー!」
あのおしゃべり大好きファクト父ことポラリス博士は、観光がしたい、ファクトと遊びたいと言いながら、助手リートから早く帰ろコールを再三受け、涙ながらにアンタレスに戻った。
ずっと、「リートの鬼!」と言いながらなんだかんだ夕食が終わるまでは遊んで、サルガスとカーティンさんに鉄道まで送ってもらい帰って行ったところだ。もう夜の10時過ぎている。
「は~、つまらない!は~寂しい!」
ファクトやラムダは、ロディアの従兄弟家族と外で夜景を見ながら間食をつまんでいた。
「おじさん諦めて下さいよ。サルガス、新婚なのにずっと別居だったんですよ。」
「ファクト君、君は鬼?私だって久々に会いに来たのに!」
婚活おじさんこそカーティン・ロンさんは、娘のロディアがずっとサルガスといるというのが気に入らないらしい。親不孝だと嘆いている。なぜ父親たちはこうも天真爛漫で我儘なのか。
「えー!おじさん。ジェイがしょっちゅうロディアさんに会いに行ってるって言ってましたよ?しかも泊まりで。」
今日も素直なラムダが、容赦ない。
「ラムダ君。月1、2回だよ?これがしょっちゅう?」
ロディアとサルガスはやっと二人きりになれたかと思いきや、広いリビングでロディアの従姉妹やロン家側の叔父叔母たちに囲まれて馴れ初めなど質問攻めにあっていた。
「………。」
かわいそうにと、ファクトはルーフバルコニーから明るいリビングを眺める。
底辺大房の食堂でポテトを揚げていたお兄さんが、龍家やカーティン家に囲まれている。ロディアがトイレなどで席を立ったら場が保てるのだろうか。助っ人に行くべきかと考える。
「……でも、ここが気軽だな…。」
と、めんどくさくもなる。最近サルガスは自分に手厳しいので、困っているサルガスもおもしろいと放置することに決めた。
なにせ龍家は元『赤龍』から分離した世界中にあるアジアンスーパーなどの大元。片やカーティンおじさんは、その土台から生まれた西大陸を制するフォーチュンズグループのお膝元。
「はっ?!」
そこで、バカンスな椅子に寝転びながらすごいことに気が付いてしまったファクト。
サルガス、そういえば『青龍』じゃん!?
対抗できるし!
サルガスの曽祖父が『双竜』のマフィア『アンタレスの青龍』のボスのお気に入りだったらしい。おじさんはこの事まで知っているのか。ラムダは『前村工機』事件を知らないので話せない。
双竜といってもかつては敵。霊性が敏感になっているサルガスが、気押されして死んだりしないだろうか?
『それで掛けてきたの?バカだろ。そんなん、おじさん知ってるだろ。』
あの時その場にいた幼馴染リゲルにデバイスで即連絡するもバカにされる。
「でもサルガス、ずっと愛想笑いしてるよ。死んじゃうよ。」
『そりゃ、妻の親戚が集まっていれば気も遣うだろ。自分の実家では嫁に苦労を掛けるんだから、お互い様だろ?』
「リゲル、未婚どころか彼女もいたことないのにすごいこと知ってんね。」
『……バイト先の結婚した先輩がいつも愚痴ってった。』
「なるほど。」
「おじさん、サルガスいじめないで下さいね。リーブラが言うにはマンボウらしいんです。あんまりつつくと死んじゃいますから。」
「…サルガス君は強いマンボウだから大丈夫だよ…。義父の言葉を無視するんだよ?」
人は自分の持った、主に先祖の自分と同じ系統の霊性に反応する。
赤龍の懐に入れて青龍が死んでしまわないか心配だ。しかもここは、赤龍の片割れが発展をした都市タイトゥア。
ファクトには都市全体がアンタレスと全く違う『気』を感じる。
立ち上がって夜景を見ながら新旧が交錯したギラギラの不夜城都市を眺める。
今いるのは富裕層の住むマンションだ。その少し先には少し荒れた昔の街並みが見える。東アジアの大都市はその境が一見分からないくらいきれいに発展している。でも、西アジアの多くの都市は前時代の名残がまだ多い。
「アンタレスと違って泥臭い街だろ。市場も昔のままだし。」
おじさんが楽しそうに声を掛けてきた。
「あの辺は治安が良くないから行かないでね。」
所々少し暗いのに、原色の多いネオンが光る地域を指す。
「……ああいう所は誰が人や土地を仕切っているんですか?」
「まあ、東アジアから見るとキレイな関係とは言いにくいんだけど、政治家とか警察とか商工会や経済クラブや…」
「『赤龍』ですか?」
「?!」
びっくりしてしまうおじさん。
「仕切ってないんだけどね、この辺に来た当初は頼まれて管理していたらしい。……って、なんでファクト君が知ってるの?」
「…ああ…『前村工機』の時、あの現場にいたんです。ロディアさんのバングルが赤く反応して……。」
「ええ!ホント??ファクト君もいたんだ……。」
そうだ。だから違和感を感じたのだ。
ジェイはファクトとサルガス、サダルからは『青い光』が視えると言っていた。
でも、この街は『赤い』のだ。
「西アジアは土地自体が赤いからね。あと、ご利益主義とか赤いね。
逆に端っこの方で、大陸から分かれた島や土地は青くなるんだよ。
西側の清教徒が生まれた場所は青いだろ。西と東は時代をずらして対称になるんだ。旧時代後半が西洋で、前時代が東洋になる。左端と右端は似るんだよ。」
デバイスで図解もしてくれた。世界は大きく旧、前、新時代に区分される。前時代は世界大戦後から。新時代はその第一次科学経済時代崩壊後の霊性時代からである。
「そうなんですね……。」
一回では理解が難しい。
「清教徒と漢字で書くと『青』が入るし、聖母の色は青なんだ。聖母の宝石はサファイアだろ?この場合、女は青で、男は赤を指す。」
だからヒーローのメインは赤いのか?
「へ~。でも、アンタレスは内陸だけど青いですよ?」
「………。」
アンタレスが青いとは言っていないのに、青と分かっているのでおじさんはさらに驚く。ファクトが見えるのは霊性の色だ。
「大きくは青だけれど、青赤はもっと小さく分布もして交差しているんだ。
アンタレスは河漢が真っ赤だけれど…」
「倉鍵やその周辺が強烈な青地盤だから?」
「……よく分かるね。君のパパやママたちが強烈な青なんだよ。強烈な赤を覆うぐらい。」
「ふーん。俺は社長だと思うんだけど……」
シャプレーがアンタレスを青く染めている。
「青の横には赤が来る。静寂で質素な国の横には騒がしくて色好きな国が来るんだ。都市もそうだな。だいたい世界の国の二大都市は反対の性質になる。もしくは真ん中で分かれて左右が対称か対角になる。
それが先、説明した西洋東洋。
女の国の横には男の国がある。南の先には北があり、西の反対には東が来るように。全てが双竜になっているんだよ。両方があってバランスが取れるんだ。」
「……」
前に響から受けた講義の内容のようだ。響は五数の話だが、アジアには『五』で成り立つものが多い。霊性も、サイコスも、現実世界も周囲が固まって初めて安定するのだ。それから『八数』。
人は個人だけだと足場をなくす。もし個人で立っていられると思うなら、知らないだけでたくさんの土台の上に他者によって築かれた一瞬の錯覚でしかない。
「こういう、時代と時の流れを知っていないと、商売もうまくいかないんだよ。
逆に知っていると時代を先取りできる。」
商人の勘というものか。
「だいたい時代の終わりに宗教は分離するんだけど、でも聖典から流れる歴史の中心はつぶれそうでも、一本の意図は必ず残っていて必ず発展するんだ。それを知らずに無信仰になると、家系から自活できる強い子供が生まれなくなり、子供も減ってその国の経済はだめになるんだ。精神の軸がなくなるからね。」
「なるほど。」
「だから大房は面白いんだよ。大房は青いアンタレスの中で真っ赤になったのに、君たちの世代は正道教やユラス教の指導者たちについてきているだろ。なんでかな。」
「……真っ赤とは言わないけど、エリスさんからもサダル議長からも恐ろしいほどの偏りを感じます…。とくにあの冷めた目……。」
二人ともかつて左傾環境にいた大ボスである。
「ははは!そのせいかな?」
●『前村工機』事件
『ZEROミッシングリンクⅣ』25 前村工機
https://ncode.syosetu.com/n0646ho/26
ファクトたちの会話の参照図があります。
講談社×未来創造 イラストデイズ(PCは高画質で見られます)
▼資料 11ページ目
https://illust.daysneo.com/works/58e24d1b02f33c9223b34f9771ddf1f4.html
▼個別ページ
https://img-illust.daysneo.com/work/i_24039a9debcb4ab0c801049858dad04d25b7.jpg