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ZEROミッシングリンクⅦ【7】ZERO MISSING LINK 7  作者: タイニ
第五十七話 アンドロイドも結局は女

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31 今日の締めくくり



その日の晩餐が終わり、誰もが人との対応に追われ、響も父や母と話すことはできなかった。



そして、アーツ事務局の会議室で、今日のフォローアップミーティングが行われれいた。

どんな成果があったか簡単に共有していく。


「…とにかく響さんがキレイでした。」


「は?キファ。死にたいのか?」

サルガスが怒るがキファは構わない。

「だって久々の響先生ですよ!間近で拝みたかった!!」


そう、会場も広く人も多い。響はおじい様の近くにいてアンタレスや蛍惑のおじさんたちに囲まれている。せっかく響を見つけたのに、手を振ることしかできなかったのだ。そもそもキファは、自由行動ができないようにウヌクに捉まれていたのだ。


「しかも……、響先生あんなスカート初めてじゃないっすか?」

「…お前それ、かなりアウトなセリフだぞ…。」

サルガスが引きまくっているが、響を見かけた男子ズは思う。

いや、かわいかった、自分も足を見てしまった…と。


女子は「響さんかわいー!」「いつもそういうの着ればいいのに~」と、キャッキャと話していたが、男子とは悲しい生き物である。言い訳のしようがない。キファのように女性のファッションなどは細かく覚えていないが、いつもロングスカートのイメージなので、目はいってしまった。

サルガスも見ているはずだが、奴はあのパイさえ邪険にする女に困らない男。とくに関心はなさそうであった。その余裕、羨ましい。

イオニアも会場に2時間近くいたので気付いていそうだがスルーしていた。それはそれでかわいそうに。



「フフ。私いい仕事したでしょ?」

ファイは得意気になる。


おじい様がいるということで、髪だけ整えてダボダボスタイルのまま急いで会場に行こうとする響に、「おじい様に恥をかかせないキレイな格好をしなさい!」と、叱りつけたのだ。おじい様には弱いので仕方なく言うことを聞く。

そして、ファイはいろんなドレスを8着持参。本当はロングも持って来たが、膝下、膝丈、ミニ数着だけ見せて、どれかいい?と選ばせる戦法に出たのだ。前もって廊下などで客をチェックしたら、他の若い女性たちも膝下丈の服を着ていたのでちょうどいいだろうと。陽烏も参加していて、陽烏はパンツスタイルであった。


「ファイ。いい仕事はしたが、お前は駄目だ。」

「なんでなの?」

「無条件お前は生意気だからだ。」

「…はあ。遠目だったけど、手を振り返してくれた時ホントかわいかった…。」

嬉しそうなのに切なそうなキファを見て、もうシリウスを追うラムダ違うのか?と皆さん思う。いっそうのことファンになってしまった方がいい。ただのファンなら向こうに相手がいても問題ない。


「あ、僕、響さんたちと写真撮りましたよ。」

ラムダがいきなり爆弾発言をする。

「ほら。おじい様やファイやリーブラと5ショット!」

「いつの間に!」

「マジか!見せろ!」

「あ?アホか!」

「お前、そこに立つなよ!響さん半分隠れてんじゃん!」

「この前蛍惑に行けなかったって言ったら、別荘に招待してもらえた!」

「んあ?!結婚した女性の家に遊びに行くのか??お前は人か??ああ??」

「ひいぃ。団体旅行です!ファイたちもまた招待されていました~!」

抜け目ないラムダである。写真ではラムダたちの背が低いので前に立たせられ、ジャマだとみんなに怒られていた。

「あ、ファイ!お前なら写真持ってんだろ!」

「いやです。持っていても見せません。」

サルガスが怒る。

「静かにしろ。会議中だって言ってんだろ?!」

「えー?俺それ以外、イベントに出る楽しみないのに?」


ライブラや他まともなメンバーは、うるさい面々を無視して細かい資料を確認していた。



「……」

それをまたドン引きの顔で見ている石籠(いづら)たち。いつもの如く響に恨みはないし、地味女でも構わないのだが、それが異様にモテるのがまだ納得がいかず、大房民の頭の悪さを感じざるを得ない。


「早く休みたいから、サッサと共有時間終わらせてほしいんですけど。」

イライラして手を挙げて発言すると、ゼオナスもうるさいメンバーを咎めた。

「キファ、いい加減にしろ。みんな困っているだろ。」

「…。」

サルガスに怒られても怖くないが、ゼオナスは怖いので黙る。

そうして本題に戻り、ミーティングは進む。最後は明日のVIP招待のスケジュール確認をして終わった。



今回分かったのは、やはり若い層が頑張って何かをしていると、応援してくれる目上の人間が非常に多いということだ。浮いているお金を有意義なことに使いたい。とくにアーツは異色。行政でも大学でもないのに大規模なまちづくり、青年育成活動をしている。しかもアンタレス企業は、それが自分たちの都市の若者だと思うと俄然支えたい。

援助してくれる企業が増えてきたので、今度はアンタレス企業自体が実働で河漢改革に取り組んでくれる形を作っていく。




「……本当にあいつら頭どうかしてるよな。」

石籠はため息しか出ない。

「…多分、試用期間の半年付き合っても、あいつらを先輩として尊敬できることはない…。」

妄想チームや一部陽キャたちのことである。


けれど、少し端にいた四波(よなみ)が口を挟む。

「……でもさ、あの響さんってのは別に第1弾とかに一方的に話題にされてるだけだし。」

「…は?そんなの分かってるけど。……何で今さら庇うんだ?しかも地味女の話?」

普段一歩引いているのに、石籠はいきなり噂の響先生を庇う四波に違和感を覚える。


「あ、彼女さ。俺のばあちゃん癌だったんだけど、けっこう進行性の早いもので彼女のお祖父さんが病院紹介してくれたらしくてさ…。」

この時代の人間ドックでも見付からなかった稀な癌であった。

「……。」

「なんか祖父同士がじいちゃんの大学の先輩後輩だったって…」

「…そうなんか…。」

仲間たちはなんとも言えない顔をする。

「それに…」

「………」


待っていても先を言わないので尋ねる。

「それに…?」

「…それに…」


急にボッと赤くなる四波。


「……。」

は?という顔で、みんな四波をのぞき込む。分かりやすく顔が赤い。


チコや陽烏のように完全に整った顔でなく、少し特徴のあるキツイ垂れ目。きれいな顔が、笑うと何ともいえない雰囲気に崩れる。それがまたかわいい。多分恋愛とかの『好き』ではないが、どことなく好きというかタイプになってしまうのは素直なところだ。ふと目で追ってしまう。


「…?大丈夫か?」

「…っは?!」

四波はまた訳が分からなくなる。


「……四波、少し働きすぎだろ…。鬱になる前に休めよ…。」

もしかしてベガスは本当に魔境なのか?みんなおかしくなったら困る。と、友を不憫に思う石籠であった。


何せ石籠たちは知らないが、大房での二つ名。

二つ名どころではなく、「ジョブチェンジベガス」「ダンジョンベガス」「流砂ベガス」なのだから。




***




少し前の時間。


ベガスの中では比較的都会になった初期の開拓地、『東海(とうかい)』『上越(かみごし)』『那賀陸(なかおか)』。


響は東海のカフェバーの一角で時計を見る。

「………。」

そしてやってきた人物に気が付いた。


「タラゼドさん!」

「響さん。」

「お仕事大丈夫でした?」

「…ああ、忙しいけどどうにか抜けられた。」

「……。」

そうして響を見ると、ショールのようなカーディガンを羽織って照れ臭そうに立っている。さすがのタラゼドも気が付いた。カジュアルワンピを着てメイクもし髪も整えている。

「……響さん今日、キレイにしてるね。」

「ファイが盛ってくれて…。おじい様の付き添いをしたんです………。」

「…お疲れ様。」


タラゼドは、着飾っていることにはそれ以上とくに何も言ってくれない。「キレイだね」ではなく、「キレイにしてるね」と言われただけだ。全部が終わってから、ファイやリーブラが、会って来なさいと送り出してくれたのだ。

せっかく勇気を出して丈の短いドレスを着たのに……と響は思うが、少し眺めてくれたし何か言われたら言われたで恥ずかしいのでこれ以上は言わないことにした。言葉はどうであれ、それでもうれしくはある。


「食事はしたんだよね。」

「あ、はい。つつく程度だけど。タラゼドさんは?」

「夕方に軽く食べた。何か軽いつまみとかにしようか。」

「…はい…。」

なぜか敬語になってしまう。


そして、響は果物酒でタラゼドはお茶で乾杯をする。


「うちの会社来てた?」

「はい。でも私とはあいさつ程度です。それ以降はおじい様の知り合いの方と話してて。」

「そうなんだ。ありがと。」

あの女性社員も来ていたので、チラッとタラゼドを見るが何も考えていないようだ。今職場で、「青いワンピの子がかわいかった。あの子、エキスポに来てた子じゃないか?」と話題になっていることを二人は知らない。


「ご両親には?」

「まだ会っていません…。」

「…そっか。」

「明日……大丈夫ですか?あの…その……うちの親がきついこと言ったらすみません…。」

「…まあ、挨拶はしっかりしないと。」


「…そういえば…タラゼドさんのお父様って…。」

そして、ものすごく大事なことに気が付く。


「………」

「……?」

ベガスには片親を失くしている人が多いので、全く会ったことのないお父様が亡くなっているか、離婚していると響は思い込んでいた。無責任な話だが、そういえばタラゼド父に関して聴いた事がない。これまで自分のことばかりで恥かしく思う。なんという不覚。理由はどうあれ最重要な話の一つではないか。


「…いらっしゃるんです…か?」

「親父?…ウチ、普通に親父いるよ。」

そういえば忘れていた…という顔をしている。

「え?」

「最近会ってないけど。」

「あ、そうなんですか!あの、私ごめんなさい!!」

「俺もよく分からないけど、釣りが好きでマグロ漁業に出て、マグロがいないとか言ってハマチ獲ってたけど、どっかで養殖業に精を出していたらしい。」

「へ?」

趣味の釣りと漁業は違い過ぎる。


「…今もしているのかは知らない…。ルオイが小学校低学年くらいまでは地元の工場長で家にいたけど…今は2、3年に1回ぐらい帰ってくる。

昔数回、すごい金送金してきて……だからオカンも文句言わないんじゃない?ウチ、片親の従姉妹家族も面倒見てて、送金が切れてから税金大変だったとか言ってたけど、源泉徴収されてたから戻って来たみたいだし。それ以降は儲かってるのかも知らない。」

「……。」

「時々オカンに変な魚とか、変な粘菌や昆虫の写真とか送ってくるらしい。この前最後に帰って来たのは、ベガスに来る前だけど、なんか猟銃免許取得したとか言ってた。」

それはもう、海にいないのでは?

「ウチの親父は来たら知らせればいいよ。生きてるのかも分からないし。」


何その強烈なお父様……と思う響であった。



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