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ZEROミッシングリンクⅦ【7】ZERO MISSING LINK 7  作者: タイニ
第五十七話 アンドロイドも結局は女

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30 パーティーは決戦



ベッドに横たわる誰か。


誰なのか分からないけれど、会いたい。



もしかしてテニアの妻か。いや、だったらチコの母ともっと早く判明しているはず。

ブラウンヘアの人?


ファクトはベッドに近付いた。

少し怖い。寝たきりだった叔父をたちを、チコを思い出す。



「?!」

茶色い髪が見える。ブラウンヘア!



「…え………」

けれど、思っていたのとは違った。



そこで眠っている、頬骨まで見えるほどやせ細っていたのは………


知らない人だった。




***




その頃ベガスでは、またアーツがにぎわっていた。


「マジかー。スーツなんていつ振りだろ…。」

「ネクタイの締め方分からん……」

「年に数回だからな。毎回忘れるよな。」


そう、第4弾も含めて、親や祖父母が商工会や経済関係で、レセプションに参加できる者は全員参加するように言われたのだ。アーツ全体の中でも1/3ほどだが、なかなかすごい。


なにせ、第2弾以降は親が経営者や会社役員のメンバーも多い。そういうメンバーを敢えて選んだのではなく、親の生活を見ているからか自営業の場合。子供の頃から職場を行き来していた者も多く、年代を越えて会話ができる、自分から動ける者が多いのだ。


「リーツゥオ行かねーの?」

「ウチの親、ただの大房商店街の肉屋だっつーの。行くかよっ。」

「それでも経営者だろ?」

「アホか。カーティンさんも参加してるようなところに誰がいくか!」

大房商店街の肉屋の息子と、世界のフォーチュンズである。自分ちは、おじさん傘下のスーパーのテナントに入れる力すらあるまい。


アンタレス中央の各経済クラブメンバーも招待しているし、ユラスはザルニアス家関係も来る。財閥並だ。いや、ほぼ財閥。各商工会も街や一区レベルではない。アジアに名の知れた企業が並んでいる。

「あの人はどこにでも参加してるだろ。」

何せおじさん、タイイー議長、王族の懇親会にすら参加していたのだ。もちろん婚活までしている。恐ろしい。


そこに来たのは普段着のチコ。

「リーツゥオ、行け!」

「いやっス。今日はドラマの最終回だから!」

「行け!!クソったれが!!!」

この時代、ニュースや観光情報以外放送時間に見る必要など全くない。

「パワハラ~っ。チコさんは?」

「私は職業、事務所勤務だ。」

人には参加強制で自分は全く行く気がない。

「立ち上げメンバーで顧問じゃないすっか!!」

「うるさい。あ、子供関係も行けよ。」

「あ、はーい。」

ウヌクだけでなく、ラムダやキファも行かされる。コネクションづくりだ。経済クラブは優秀な教育関係機関に良く投資してくれる。


「ファクトは?」

「ファクト用事があって不参加って電話来た。」

「あいつサボりやがって。」

もちろんサルガスやゼオナス、タチアナ、ベイド、イオニア、タウも参加。サルガスはともかく、イオニアやタウは元営業トップだ。




***




そんなこんなで今回は藤湾学校連のあるミラでなく、南海にもオープンした大型ホテルで行われる。


「おじい様ー!!」

「響!」

その廊下。一直線に走ってきたのは響。


「おじい様!」

響は病院を早退し、蛍惑から来た祖父に抱き着いた。

「響…?響か?元気だったか?」

「おじい様っ。私……」

白髪が混ざりながらも背格好のよい若々しい老年の男性が、響を優しく抱きしめた。そして、顔をじっくり見てから髪を撫でる。

「響……髪が…。」

「…おじい様、大丈夫です。でも……」


「私…おじい様……ごめんなさい…。」

ずっと自分を匿ってくれた祖父に言うこともなく教会で結婚の祝福を貰ってしまった。

「…はあ。」

「おじい様……」

「相談もしてくれなかったからな。少し寂しかっただけだ…。」


「でも、とっても優しい人なんです…。」

「分かった…。ちょっとまだ飲み込めないが、また会わせてくれ。」

おじい様、いつの間にかかわいい孫が結婚を済ませてしまってショックだ。しかも、今まで選んできた人と違い、大きなキャリアは何もない人物。大房自体が謎の場所である。

「お父様とお母様は…?」



「響さん!早くっ。」

そこに間に入ったのは、スマートカジュアルに身を固めたリーブラとファイ。


「あ、ファイ、リーブラ!私の祖父です。」

「え?おじい様?!」

「その節はありがとうございます!」

「おじい様、蛍惑に来てくれたリーブラと……ファイです。」

直接会ってはいないが蛍惑の山里でお世話になっている。


「ああ、君たちか!」

少しお互いの説明を加え、挨拶をしながら三人は響の着替えに急いだ。





そして案の定。


いつもの如くベガス南海と大房商工会がなぜかバチバチ対立する中に、大房メンバーはつかまっている。


「ははは、彼らが以前大房で活躍していた時はね……天暈とかの店に行かずにね。ウチのシューズで活躍していたんだよ…。」

「ははは。何を言っている。キファ君はウチのウエイトレス、クルバト君は皿洗い要員なんだよ!なあ?」

イキる大房のおじさんに、南海食堂おじさんもイキる。

「は?大房のエースたちに何をさせているんだ。ベガスは!食洗器くらいないのか?!」

若者の取り合いだ。それに食洗機など大型があるに決まっている。自動で食器の分別までしてくれ棚に戻してくれる。キファは何も考えずに食べ物だけ食べておっさんたちを見ていた。

 

そこに、大房商工会など気にもしない顔で現れ、他人と談話をしている常若(ときわか)の商工会たち。

あ?無視だと?という感じで今度は常若に突っ掛かる大房のおじ様。

「あーあ。オシャレなカフェだけつくってもねえ…」

「イケメンカフェとか、雰囲気だけだし…。うちは中身で勝負かなー。」

最近余裕の常若は無視するのだが、大房親世代はウザい。


「大房は若い子が出てっちゃうんだけど、ウチは来てくれるからね~。」

カフェしかないのかと聴こえた常若の一人がさりげなく煽るので、大房も言い返す。

「客としてなー。どうせ来てもインバウンドだし。でも、大房は出産率も他よりもともと高いし~。遊びに行くにはカフェもいいけど、住むなら大房かな~。」

しかし常若も負けていない。

「住んでる近くに癒しのカフェがあるって最高だよね~。この前奥様が住みたい街2位だったよ~。」

一位にはならないところが、元大房に並ぶ常若である。


顔も合わせず背中でケンカしている。なにせ常若は以前はツッパリの聖地。

南海の花札じじい1は、アンタレス人はアホだなーと言いう顔で聞いている。常若の若者たちは全然違う場所で真面目な層と真面目な話に花咲かせていた。





「あ、先輩!」

一方のテーブル付近で、あるアンタレス企業代表の男性が自分の学生時代の先輩に気が付いた。


「おお!皆前(みなまえ)君!」

お互い既に中年を越えた顔立ち。けれど、そこらの若者より覇気がある。

「奥さんは元気かい?」

「本当にありがとうございます!去年一旦完治で経過見です。」

数年前、この先輩が病院を紹介してくれ、少し難しい癌手術がうまくいったのだ。

四波(よなみ)、挨拶をしなさい。先輩ウチの孫です。」

「初めまして。四波と申します。」

「こんな立派な孫がまだいたとは!前に会った子とは違うだろ?」

「ええ。向こうは息子の長男で、こっちは次男です。」

四波と呼ばれた孫、実はアーツメンバー第4弾。久々にかしこまる場所に来て少し緊張していた。



「おじい様ーー!」

そこに手を振ってこちらに来たのは、膝下丈カジュアルドレスの女性。


「こっちだ。」

おじい様と呼ばれた老年先輩は、その女性が来ると皆前に挨拶をさせた。

「……。」

一瞬固まる皆前祖父孫に、その周囲。


ちょっとした青いドレスに身を包んだ女性。黒いミディアムボブが美しい。


「大学の後輩の皆前プレスの皆前君だよ。皆前君、ウチの孫だ。」

「……」

「初めまして。」

そう言って孫娘がきれいにお辞儀をすると、皆前祖父子だけでなく周りもまたチラチラ見ていた。孫娘は話さないと話しかけにくい様な少しきつい感じだが、笑うと雰囲気がぱぁと明るくなる。


「……。」

皆前祖父子は見とれてしまった。

「え?先輩こんなきれいなお孫さん………

え?もしかして響ちゃん?」

「…はい。響です。」

「あー!私、分かる?」

「すみません…あまり…。」

「あー!覚えてないよな!昔、香道会の旅行バスで隣に座ってたんだよ?私の。」

「え、そうなんですか!」

「まだ年中さんくらいだったからね。妻も会いたがるよ!」

「響、その時皆前さんがお土産屋さんでおもちゃも買ってくれたんだぞ。そこから動かずに延々と見ているから。」

「そうなんですね…。」

それは恥ずかしい。


そして、その横の皆前さんの孫にも笑顔で挨拶をした。

「初めまして。」

「あ、はい。初めまして…。」

皆前孫の四波はポーと響を見てしまう。何か、知っている感じで安心感のする声。


キレイで……その上、かわいい……。


「いやー、響ちゃん。本当にきれいになって。」

「はは。」

実は響。膝下ギリギリのスカートなど小学校以来履いたことがない。小学校まではスカートの下にはスパッツなども合わせていた。こんな短い丈のドレス、初めてである。膝は見えない長さだがそれでも少し落ち着かない。

「でも、今もマイペースな子でね。ちょっと心配だよ。」

「おじい様、最近はしっかりしてますよ。…あれ?どこかで……」

みんなが笑う中、ふと我に返った響と四波君。


「あ!もしかしてアーツの方ですか?」

響、やっと分かる。

「そうです…。」

「キファ君のお友達の!」

「…へ?キファ……ってあのキファ?」

あのキファはずっと向こうで他の人と話していた。会場は広い。


「え、あ?キョウ…キョウって…ああーーー!!!」

いきなり覚醒する。


地味女(じみじょ)???!!!」


響を指さし思わず言ってしまう。

「?!」

いいッと驚いた祖父にバジっと叩かれる。

「あでっ」

「お、お前何を失礼なっ!」

「あ!すみません!でも、でも!」

「…?」

響のおじい様は唖然としている。


「え、あ、その…っ」

「あはは…そうです!気にしないで下さい。普段地味なんです!」

明るい地味女、響。

彼はそう、キファと仲が悪い石籠(いづら)とよく一緒にいるメンバーの一人であった。


「おじい様。彼、私のお友達たちとお仕事してて仲がいいみたいなんです。優秀なんですよ!」

「いや、別にキファとは…」

キファとは犬猿の仲である。

女の趣味がよく分からないアーツを避けていたため、四波は響の名前もうる覚え。顔もはっきり見たことがなかったのだ。どうりで少し聞き覚えのある声なわけだ。


「お名前は?私はミツファ響です。」

ふふっと笑う響がかわいい。とにかくかわいい。

「皆前……四波と申します…。」

「よろしくお願いします!」

「……。」


「響ちゃん、今は何のお仕事しているの?」

「医者のインターンです。」

「え?すごくない?」

「あ!ミツファ先輩!」

「おお、柏原君!ヨンジン君も!」

アンタレスや蛍惑の他の企業人たちも集まって来る。


祖父たちと楽しそうに話す地味女を眺めながら、四波はちょっと頭が吹っ飛んでしまった。



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