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ZEROミッシングリンクⅦ【7】ZERO MISSING LINK 7  作者: タイニ
第五十七話 アンドロイドも結局は女

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26 ランスアでも役に立つ




そしてベガスでもまた大きな事前レセプションがある。



もうみんなゲンナリだが、この数週間が山場だ。ここを過ぎればベガスはアンタレスに対して大きな責任を果たしたことになる。


『ベガス構築』に初期から参加していた者を中心にプレオープンを兼ねて人々が集まるのだ。ただ今回は大きく公表はせずに招待客のみである。

とくに、メイン当日は混乱が予想されるため、式典にゲストとして参加しない重鎮たちは最初に開幕式とパーティーをしてしまう。アジア地域、ユラス、南メンカルなど各国首相代理団もこちらに参加する。




そこでまた、小さなトラブルを起こしているのは響であった。


「響、いい加減にしなさい。」

揉めているのはデネブと響。

「どうして?どうして今さら親やの言う通りにしなきゃいけないの?」


ここは正道教教会のフリースペース。

結婚の祝福を貰ったことを知らない蛍惑の家族が、アンタレスに来るついでにまたお見合いのセッティングをすると言ってきたのだ。東アジアにいる大手企業勤めに既に連絡をしているという。そのため、明日一足先に家族がくるのだ。

来た時にきちんとタラゼドを紹介しようということになったのだが、困ったことに響はいつものダボダボ地味女子スタイルのまま行くという。


「響、そんなわけにはいきません。これはタラゼドのためでもあるのよ。」

「どうして何でも母や姉の言う通りにしなきゃいけないんですか?もういいんです!」

「響さん、デネブ牧師の言う通りだよ。なんで大房に恥の上塗りをさせるの?」

ユラスから帰って来たファイが呆れている。

「ミツファ家だけでなく、蛍惑から来る企業に対しても大房やベガスの印象が決まるんだよ?」


ただでさえ「大房?何それ?」「大房は絶対にダメだ」と言われそうな土地柄なのに、ご両親への挨拶も普段着でいいとな。大房の夏の普段着はTシャツにパンツのみである。刺青やピアス、そこに反り込み入れる?みたいな髪型も普通の人たち。それが大房。その日はたくさんの蛍惑人だけでなく経済人も来るのだ。

ごく一般的で敬虔な蛍惑と軽い大房。親から信頼を得るには、タラゼドだってそれなりの姿勢や態度を示さなければならない。たとえ大房がそうであっても、蛍惑と親族となるのだ。タラゼドはそういうわけにはいかない。

けれど、小さい頃から母と姉に冴えない垢抜けないと言われ続けた響は、そんな親のために貫いてきたスタイルを変えるのはイヤだった。



そこにやって来たお兄様。

「響、覚悟しろ……。」

「は?何が?」


「親父に話した。」

「……何を?」

「祝福を貰ったことだ。」

「……へ?」

「結婚の。」

「?!何で話しちゃうの?!」

信じられないという顔をしている。

「………お見合いの相手が大手の令息もいてめんどくさい。1人は既にその気らしい。もう理由を言って断るしかないだろ…。」

しかも、響は大きな家には向いていないかもということで、単身暮らしの研究員や医者などにも連絡をしていたという。


「は?…へ?信じられない………。」

「………。」

さすがのファイも憐れな顔で響を見てしまう。これまで何度もお見合いを失敗してきたのに、まだ勝手にセッティングをされるのか。しかも家ごと関わってくるような相手と。

ただ、響も既に蛍惑お嬢様学校の大卒で薬剤師や看護婦などの免許持ち。大学講師の経験アリ。各病院でのインターンなど経歴だけ見れば華やかだ。むしろタラゼドがかわいそうになってくる。


「大丈夫だ。私が説明するし、何かあった時はデネブ牧師やエリス総長にも出てもらう。」

一人にさせておくには、響の位置はこれまであまりにも特殊であった。それに響に落ち着いてほしいと願ったのはエリスでもある。


「それとおじい様には…………話した。きちんと。」

「………。」

おじい様は唯一響をかわいがってくれた家族だ。


「おじい様も少し納得いっていなかったが、それは響を思ってのことだから………」

響はハッとした顔をして暫く黙ってしまう。今度会えた時に響から話すはずだったのに、お兄様の方に連絡が来たので今回の流れで説明してしまったという。おじい様も響に男性を紹介してやるなど話し始めたからだ。


「……大丈夫だよ。響さん。タラゼドも今ちゃん正社員で働いてるし。」

リグァンは大きな会社ではないが、初期からベカス構築に参入していたため今急成長している。


「でもこのままでいい………。」

響はプクッとした顔で不服を示す。

「ダメです。」

「だって、どっちにしてもタラゼドさんがスーツ来たら、河漢のマフィアみたいになるし……」

「……。」

みんな考える。

確かに大房ズがスーツを着ても、バンド?ボディーガード?ヤバい系?という感じではあった。ゲームとかで黒幕の横にいる系だ。ボスでなくその横でもなく、あくまでナンバー3以降の四番手以下ポジションというところが大房民の何とも言えないところ。ボスの左右大臣の次以下だ。もしくはそれ以下の所属。


「そもそも、タラゼド自体が普通に歩いてたら話し掛けたくないタイプだよね………それを言ったら…………」

ファイだって幼馴染でなければ絶対に話しかけないであろう。アーツ大房民自体この環境でなければ仲良くならなかったタイプである。


「………それでもきちんとしたスーツでご挨拶しなさい。響もきれいな格好で。そのダボダボなのはダメです。」

デネブはため息をついた。




***




ベガスはこの週末、厳重警備体制に入る。


これから週末までVIPを迎えるにあたり、ミラの迎賓館、南海の競技場全体に東アジア軍と特警が主体で警備に入り、ユラス軍は一部護衛と河漢を担当する。



「そーゆうわけでさ、大人しくしててほしいの。分かる?」

年上にも舐めた口を聞いているのは、河漢のめんどくさい地域に派遣されたランスアである。


「ランスア君分かるよ。あの人たちうるさいもんね。」

「もうその話はしないで。私たちも悪かったんだから…。」

「あー、周さん察しがいい!あいつらお堅いからさ。ほら、俺テキトーじゃん?テキトーにいい感じにしておくから。皆さんももテキトーにいい感じにしておいて。」

「分かったってば。でもランスア君、彼ら話し聞いてくれないもん。」


「あれこれ言ってもここの人間はベガスに住めることは当分ないから。諦めようよ。俺もだし。俺いるからいいじゃん。だって、自分たちの金でここに住んでるわけじゃないし。ここいいとこじゃん。冷房効いてるし、大房の方がよっぽど暑い!大房だと電気代いるのに、ガンガン使いまくってもここタダだよ?」

「そうだよね~。」

「それにさ、ベガスなんて規則だらけで住んでいられないよ。寮とか朝最低でも7時に起きろとかひどくないっすか?登録してある住民以外に、彼女連れ込むなって言うしさー。」

「やっぱりランスア君、彼女いっぱいいるの?」

「周さんもなりますー?」

「またまたー!」

河漢の住民と楽しそうにベガスや大房民の悪口を言いながら盛り上がっている。



河漢の仮設住宅の談話室は、夏はずっと冷房が効いているし冬も温かい。太陽発電や施設の焼却ボイラーの熱なので電気代もタダである。ベガスと同じく河漢は半社会主義環境を築こうとしているので、最低限の生活や公共で使うものは基本無料である。


「………。」

それを遠巻きに見ている幾人かの男性たちを他所に、柔軟そうなランスアの周りは老若男女楽しそうだ。タウが異動になった河漢35地区である。



この前の事件はあの後、35地区の人間も嫌な思いをしたのだ。


中に行政が入ったもののやはり反発。業務内でしか取り合わない合理的な行政に遂に怒った住民に、なんと彼ら住民と同じタイプの援助団体を入れたのであった。



これはもう、何が起こるか目に見えている。彼らは標的が保守の内は共闘するが、助け合えと言えばお互いすべき仕事や望みが合わないといがみ合っている。彼らは人のために動いているようで、自分たちに利のない活動はしないのだ。住民支援団体なのに。


そう。意見が合わなければ両者反発。援助団体の方が知的で冷静な分、過激な住民はもっと怒り、援助団体はジャーナリズムでその様子を世間に流す。あれこれ全部ベガスのせいにしたり、両者の中でも反対や批判が起こる。普通に過ごしたい比較的普通の住民たちは疲れ切っていた。やはり、多少ぶつかっても普通に話を聞いてくれたタウたちは貴重な存在であったのだのだ。




そんな一件が落ち着いた矢先…

テキトーなランスアがバイトとしてここに来たのであった。


「あのー、ランスアさん。この件で人をお借りしたいんですが、河漢がやってくれないのでベガスにお願いできませんか?」

住民支援団体のスタッフの女性がランスアの元に来た。

「えー、どうしよっかなー。あの人たちに頼むの怖いもん。」

ゼオナスやサルガスあたりのことである。

「そこを何とか!この前河漢で人をお願いしたら、途中でみんな帰っちゃったんです…。」

「えー?マジ?ひどいね。じゃあ、サナちゃんのお願いだから特別聞いてあげる!」

「特別って、みんなに同じこと言ってるんでしょ?」

「まさか~。取り敢えずあいつらには伝えておくね~。」

という具合である。


とにかく人に媚びを売るのが上手く、支援団体で粘り強く残った真面目な女性たちにも人気、住民のおじさんおばさんにも人気。あちこちでいい顔しているのはみんな知っているので、矛盾していてもあまり叱られない。仕事はテキトーだが住民だけ乗り気にさせて後は他のスタッフに任せる。データや書類でやり取りすることを会話術で済ませている。

反発がないわけではないが、全体的に雰囲気は悪くない。


ランスアが動くとベガスの青年が来てくれるので、河漢のめんどそうな人たちが来るより女性受けもいいのだ。少なくともベガスから来た青年は仕事は最後まできちんとしていく。

そしてもちろんベガス側も、アンタレスや河漢行政にしっかり貸しを作っておく。ただでさえベガスのノウハウを持って行っているので、タダでは済まさないのであった。




●問題の35地区の人々

『ZEROミッシングリンクⅥ』38話 一部未遂事件にタウの謹慎

https://ncode.syosetu.com/n2119hx/39/

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