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ZEROミッシングリンクⅦ【7】ZERO MISSING LINK 7  作者: タイニ
第五十六章 世界は飛び交う、君の胸で

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23 大房民、ユラスに連行される



「母は……何か言っていたか?」


シャプレーの言葉にファクトは思い出そうとする。

「…?最初はだいぶ前だったし………。初めの頃はメモを取らなかったから。」

「メモもあるのか?」

ポラリスが乗り出す。

「下手過ぎて分からないって言われた。絵で描いたけど。」

そして思い出す。

「……『ごめん』……?」

「………」

「ごめんとか言ってた気がする。……寝たまま……」


「…………」

博士三人はその言葉に何とも言えない顔をした。


「何か、もっと言いたそうで………。」

あれ?

巻き毛?ストレート?


「あれ?白?あれ?

茶色のストレートヘアだっけ?アジア人?」

ブラウンヘアはテニアおじさんの奥さんだっけ?


「……っ?」

そこで珍しくシャプレーが驚いて体を浮かした。ポラリスも驚いている。

「………」


「寝たままの…茶色のストレート?」

「………。え、あ。すみません記憶があいまいで…。」

宇宙の人のことは話していないし、シェダルを抱いたくすんだグレーヘアの人もここでは話していない。


「……でも………何人いるか分からないんです。女性ばっかりで、ブラウンヘアも1人なのか何人かいるのかも…………」

珍しくない髪色だ。


「何の話なんだ?どこまでの話なんだ?」

ポラリスが驚く。

「女の人ばっかりって………ファクト一体何をしたの??そんな子だったの??!」

リートが目をくりくりさせて言う。

「違いますって!」

カストルをはじめ、みんなに勘違いをされるので嫌になる。


「…あ。」

しまったと思う。


ここはSR社だ。響とは共有しているが、半分はおそらくギュグニーの誰かの記憶。これはラボと共有していいことなのか。ユラスにも言っていない。


「今ここで飛べるか?」

「?!」

シャプレーの要求にファクトは驚く。

「……響さんが危ない所にはいかないようにって…。」

「響氏も行けるのか?」

「何を見ているのかと、どこにいるのかは同じとは言えないけど……。」

ただ、響はどこからでも助けに来てくれる。


「それに今、響さんの負担になることはやめた方がいいと思う…。蛍惑から家族が来るんだ…」


そう。今度のイベントに響の祖父と両親親族たちも来る。蛍惑の企業団はベガスにかなり援助や投資しているので、その代表の一員としてくるのだ。


「今、響さんが一番不安定になるのは家族のことだから……。」

「…………。」

シャプレーとポラリスは顔を見合わせた。




***




「ファイの反応。そんなに自分たちは不自然か?」


ベガス南海のマンションで、周りから見ると冷めきっているのか不器用なのか分からない夫婦が必死に考えている。


「……さあ、どうだろ。」

他人の感覚など分からない。


髪が伸びてきたチコがダイニングテーブルに。サダルがソファーに座って考えている。

「夫婦関係そのものは普通にしているつもりなのに………。

フェクダもガイシャスみたいな妻がいても、仕事中までイチャイチャしていないだろ?アセンブルスとサラサも予定の確認ぐらいだし。ベイドとシアが、タウとイータが職場でキスするか??」

本当にそうだ。ただ、彼らはあいさつ程度の抱擁やキスはしている。


「くそっ。あいつは私に何が言いたいんだ…。」

「………。」


ブツブツ言っているチコを見ると腕輪をいじっている。

「……そのブレスレットは?」

チコがアクセサリーを持っているのは珍しい。

「ジルの孫たちが作ってくれた。」


「ジルの?いつ?」

ジル・オミクロン。オミクロン族の長だ。

「ファクトが勝手にオミクロンに行った時のお土産。」

「…………。」



サダルにとってオミクロン国家は胸の痛い国だ。

サイニックことチコを検体しろと言い、オミクロンを怒らせた場所。


同時に、カストルの助言によってサダルがトップに立った時に、それでも命をかけて付いて来た者が最も多かった国。ナオス族ではないのに、最初にナオス族長サダルを受け入れたのはオミクロンだった。



あの緑の目の………カフラーだ。

カフラーにとって、サダルは受け入れがたい人物であっただろう。



チコに腕輪を見せてもらうと、サダルは直ぐに気が付いた。

「こぐま座だな。」

「こぐま座?」

「これが三重になっているからポラリス。一番大きく見えるのはコカブだ。」

「ポラリスだって。」

おもしろくて笑う。


「まだあるのか?」

「全部で三つある。三人で作ったって。」

「ならこれは北斗七星かな。ミザルもいる。こっちは南斗六星だ……」


サダルは少し考えふと気が付く。

「……チコの名は、………南斗六星か?」

「南斗六星?」

「ミルク・ディッパー…。ミルク匙だ…。」

お互いそう考えたことは何度かあったが、はっきりと結び付けはしなかった。


チコは荒野の夜空を想像して呟く。

「ミルク・ディーパと似てる。最初の……誰かがそう付けたのかも…。そこから南斗六星が見えたとか。」

「………そうかもな…。」

「……」


チコが上にかざすと部分部分不透明な石の隙間から、白熱色の光でも、いくつかの石は内側から反射するようにキラキラ輝いた。



「……これも………」

チコは寝室のクローゼットから何か箱を持って来る。


そこに広げたのは美しいピンクと紫をメインに、様々な色の入り混ざるユラスの伝統織物、ルバだった。

「………。」

これは?

「高祖母様から頂いた。曽おばあさまがおばあさまに贈ったものだって。」

「…。」

顔立ちは違うが、チコと似た人種が現れていた祖母。女性だけのお茶の場で貰ったものだ。

「こっちは高祖父母様から。」

マスタード色にマリンブルーの囲いが入っていた。


チコは嬉しそうにその生地を眺めている。



「指輪も含めたら、大切なものが一気に増えたね。」

「……そうだな。」

あのペアリングの事だろう。

一体テニアはどこにいるんだとサダルは聞きたいが、今はやめることにした。





既に夜も更けている。


その日の礼拝も済ませた二人は、またそっと抱き合いキスをする。


サダルがチコの上唇を唇でそっと噛み、下唇も同じようにする。


チコも同じようにし、

そしてまた、そっと口を合わせた。


額を合わせると、どこかの乾いた荒野の、荒涼として寂しげな風を感じた。でも、それも悪くない。



きっと自分たちはたくさん変わったのだと思う。

けれどまだ、それは二人にしか分からないらしい。



明日、二人はバベッジ族公開のためにユラスに出発する。




***




「って、なんなんですかーーー!!!」


寮の前で大声を出しているのは出勤前のファイ。


「今日明日は出勤しなくて構いません。」

「私が構います~!!」

なぜか女子寮の前でユラス女性軍に囲まれているのはファイ。


「あいつ遂に日ごろの行いが祟ったか。」

「ユラス人を怒らせた罰だな。」

「ユラスの地下牢に入れられるのか?一生出られないだろ。」

「まさか最初の徴兵がファイとはな。出兵だ。」

「最初はモアとファクトだっただろ。」

「奴らは志願兵だ。」

みんな楽しそうだ。


散々チコを煽ったファイは、なぜか朝に1泊分の荷物を用意して軍用機に乗るように言われたのだ。何なら手ぶらでもいいと言ったが、アンタレス女子にそれはご無体らしい。


「すげーじゃん、ファイ!さすがに俺もユラスの軍用機には乗ったことない!!」

「お前、怪我してヘリに乗っただろ?」

「あれは東アジアだよ。」

「軍用機って、音速だよ!音速!!」

「軍用機っていっても戦闘機だけじゃないぞ。ばかなのか。」

「え?お前らこそ知らんのか。乗客機も普通に音速越えてんぞ。」

そんな男どもの話など既に耳に入っていない。


「なんで?普通の飛行機でいいじゃん!国で普通の飛行機出してくれないの??族長なのにプライベートジェットもないの??石油王じゃないの??!!」

「ユラスは軍事国家なので、軍用機でも問題ありません。石油王もいないのでプライベートジェットもありません。」

本当はあるが今ここにはない。

「大型スペイシアなので安全ですよ。」

スペイシアは軍人輸送用の飛行型ニューロスメカニックだ。

「え?羨ましい。乗ってみたい…。」

男子ズが何か言っている。普通に垂直離陸し空上で変形するのだ。乗りた過ぎる。


「そんなの飛んだらアジアが嫌がるでしょ?!アジアラインで撃ち落とされたらどうするの??」

「迷彩の軍用機ではありませんのでご安心を。普通のスペイシアに見えます。」

スペイシア自体が軍用機か公安関係である。

「なっっんにも安心できない!!なにこれ!チコさんの嫌がらせ??」


そこに颯爽と現れたのは少佐ガイシャス。

「チコ様は知りません。一緒にこちらの会合などに来てもらえれば。」

「えー??!!そんなのいきなり無理!パスポート切れてるし!!」

何のために行くのだ。

「南海ですぐに発行できます。」

「乙女旅の準備がどれだけ時間が掛かると思ってるの??」


「ファイさんは裏方にいて下さればいいです。足りない物があればいくらでも向こうで買っていいですので、ご同行お願いします。」

付き添いのマーベックも丁寧に礼をする。


「やだー!!ライ助けて!!」

「…ユラスの兵隊さんは怖い……。」

よく見ると後ろに男性兵もいる。最近来た面子なのか顔も知らない。

「怖くない!怖くない!!助けてってば!ここはアジアだよっ。連合国とアジアの法が動いてんだよ?

私の仕事はどうするの?今度のイベント用にたくさん頼まれてるのに。」

「……チーフが調整するって。あとは仕上げや調整だけだし。」

何一つライは助けてくれない。


そこに現る同じく出勤前の救世主タラゼド。

「あーー!タラゼド!この人たちに何か言って!!今夜うちら夕食会でしょ?」

体格でタメを張れるアーツ側の数少ない人物。


「………。」

しかしタラゼド。軍人たちに一礼だけしてスルーした。


「ばかーーー!!!」


そうしてファイは、モア、ファクトに続く大房アーツで3人目のユラス先駆け員になったのであった。

ファクトは大房民ではないが大房民にカウントされている。



●過去にチコとの因縁を作ったオミクロンの地

『ZEROミッシングリンクⅤ』47 失った「存在」の音

https://ncode.syosetu.com/n1436hs/48

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