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ZEROミッシングリンクⅦ【7】ZERO MISSING LINK 7  作者: タイニ
第五十六章 世界は飛び交う、君の胸で

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22 お気楽なタニア組



その後は、ユラス軍の増員、東アジアとユラスでの配置など再確認する。


ユラスが国家規模で引導した国以外は、東アジアが護衛や警備を担う。


アーツは表向きは誘導員や案内人で兼一般警備員だ。VEGAスタッフでは河漢は危険なため、河漢安全地域以外の案内はアーツになる。なお、スラム部分は危険を考慮し職種、業務上の許可者、関係者以外は入れない。



そうして様々な確認後、会議は終わった。



机に伏して可哀そうなチコに、リーブラが声を掛ける。

「……チコさん、大丈夫?」

「…………」

顔も上げない。


ファイものぞきこむ。

「チコさーん。」

「……私も警備か護衛に入りたい…」

「はいはい。それもいつまでも言っていますね。諦めて下さい。学生や新規のユラス人も見てますよ。」

「……。」

そう言われるので室内を見て見るが、今日は見知った顔が殆どなのでまた伏せる。


裏の仕事ならきっちりこなす自信がある。サダルが戻る前は内戦で、まさか平和になったらこんなにあれこれさせられるとは思ってもいなかったのだ。ユラスに残るにしてもあっちこっち飛び回って、VEGAの活動に勤しめると思っていたのに。

「継続、後悔してます?」

「継続?」

婚姻のことだろう。

「こんな自分に合わない仕事。義実家が楽しいか、仕事が楽しいか、旦那を愛してやまないかどれかないとやっていけないのに、どれかあるんですか?」

「?!」

近くにいたカウス以外のユラス人たちがギョッとしている。

「っ…。」

なんだか議長の方を見れないし、議長の方にいた者はチコの方を見られない。サダルは無表情ながら清々しく書類を確認しているが、みんなは気まずい。


「ちょっと、あなた!チコ様に失礼です!」

陽烏がファイに怒るが、ファイは素知らぬ顔だ。


「ガイシャス…。」

チコはガイシャスに助けを求める。

「はい。ユラスにはご同行しますので安心してください。」

「…はあ…。」

「………。」

チコに余分な溜息を吐かせる下町民ファイを、この子は何なんだとガイシャスは眺める。


「………。」

そして、要職夫人の仕事に押しつぶされそうなチコを、ムギも変な顔でじっと眺めていた。




***




その頃今夜の会議に行かなかったファクトは、SR社で父ポラリスと面会していた。

第3ラボに呼び出しを食らったのである。


「リートさん。いきなり言うなんてひどすぎませんか?!」

「ええぇ…。こんなこと知ってしまって黙ってたら、後でどうなるか分からないし…。」

「まあ、報告が遅れるよりはいい。」

ポラリスは息子に言い聞かす。


昨日こっそりリート博士に話したニューロス被験体の話を早速父ポラリスに話してしまったのだ。



そこでドアが開く。


「社長がいらっしゃいました。」

アンドロイドカペラの案内で、スーツ姿のシャプレーが同じくアンドロイドスピカと共に忙しなく室内に入って来た。ファクトは立ち上がると、久々なので両手で握手をされる。


着席を促されて思わずシャプレーの正面に座ってしまうが、せめて45度席という余裕がほしい。この前は議長席が嫌だったが正面で正面はキツイ。



「………。」

リートの密告により、めっちゃ高速で核心に繋がってしまったが本意ではない。

カフェからいきなり第3ラボである。



「…心理層で気が付いたと?」

挨拶もほどほどにシャプレーは話を進めた。

「え、ええ。どこまでが霊性世界で、どこまでが心理層なのか分かりませんが…。」


「………。」

心理層で見た女性の話を始める。

「ナオスの薄褐色肌系統のユラス人女性。顔の系統は社長によく似てる。

背が高く、髪は白いカールというか……巻き毛をアップでまとめているのかな?寝てる時は短いのか分かんないや。着ている衣装は高貴な物。よく?時々?ユラスの民族衣装を着てる。」

「……………」

「若くお嫁に来たけれど、若くして寝たきりに?薄い敷物を敷いたストレッチャーに寝てる………」

「…っ!」

シャプレーだけでなく、ポラリスも目を見開く。



「で…」

と一息置いて、ファクトはもう最初に核心を言ってしまう。


「社長のお母様のお名前は『北斗』ですか?」

会社概要にもネットにも公表されていない名だ。会長カノープスの正妻の名ではない。


「…………。」

シャプレーは少し考えて答えた。

「…そうだ。」

研究員しか知らない寝たきりの話に彼女の風貌を知っているので観念したのだろう。一部要人しか知らない話だ。リートもずっとタニアだったので、存在や役目は知っていたが姿までは知らなかった。


「それで、北斗さんはニューロスの………シリウス被験体の一人なんですか?」

「?!」

報告は聴いていたが、いきなり根本的な話なのでまた場が固まる。


「…知ってどうするんだ?」

「……っ」

言われると思っていた言葉。


否定でも肯定でもない。けれど嘘でも否定しないということは、ファクトにはそれを許しているということだ。


「知っても何も、知ってくれって感じでいつも出てくるので。サイコスをしていない時も、夢にまで出てきて。」

「………そうか。」

現れるのは北斗さんだけではないが。



ファクトは思う。

『北斗』がシャプレーの母なら、ストレッチャーの人が『女でもあり若くもありたいな』と言ったのは、愛人なので十分に愛されなかったからだろうか?けれど、ここまでは自分で調べることができたが、カノープス家の正妻も愛されていなかったと聞く。それにストレッチャーの人は、正妻の横に居座るような女性には思えなかった。

自立心が強い雰囲気で、霊線が非常にきれいだったからだ。


ファクトは大人3人と、アンドロイドを見渡し、悩んだ末聞いてみた。

「あの……正妻でないんですか?お母様は…。」


「は?」

大人全員、は?という分かりやすい顔になった。


「………あ、あの。愛がほしいとかなんとかと言っていましたので……。」

「…っ」

もしも妾とかだったら『女でもありたいの』なんて生々しい話を、大人であっても息子の前で言える勇気はない。ファクトは精いっぱいボカシて話した。


「………。」

少し驚くも、シャプレーはいつもの無表情だ。けれど何か考えている。

そして口を開いた。


「母は正妻だよ。」

「へ?」

「母は正妻だ。ナオス系の濃い複雑な混血のアジア人で、嫁いでくる時に名前を変えたんだ。元の名前は北斗で、一般に公表されている『ベイドゥ・カノープス』は新しい名前だ。」

「…」

というか、アジア連合国家は一夫一妻制しか許されていないので正妻も何もない。


「……あ、そうなんですか…。えっ、ええ!!申し訳ありません!!」

「別にいい。勘違いもするだろう。」

言ってしまって後悔するが、本人は何の動揺もしていない感じだ。


「ファクトが見ているものは、霊性とは違うのか?」

「……自分にも区別はつかない部分があるにはあるんですが、霊性は見ている世界が違うだけで、自分が世界の主体です。自分が主観で世界がある。サイコスで見る世界はなんというか…相手の主観が中心です。」

「………。」


シャプレーはまた少し考えて言った。

「…DPサイコスはそんなことまで分かるのか…?」

霊性は思念が強かったり、高位霊性を持っていたり、霊性のガードが堅いと侵入できないこともある。

「霊性の結界は張っているはずですよね?」

ポラリスもリートも動揺しているようだ。危険だ。知り過ぎることは。


「分かるというか、何なんでしょうね、これ。悪夢とは言わないけれど、かなり悩まされました。でも、響さんが全く接点のない場所には、基本はDPサイコスでも行けないって言ってましたよ。共通点………共有、共感できるものを繋げてチコも見付けたみたいだし。」

「ファクトとの共通点?社長のお母様と?」

リートは不思議がる。ファクトは大してニューロスアンドロイドにも関心を持たないし、あんなにSR社を避けていた。


心理層は全ての心理が繋がっているが、お互い全く呼応しないは所には自由に行けない。似た物は引き合いやすいのだ。それから生きている時なり、歴史の中で一点でも交差点のない場所にはほとんど行けない。

それは霊性の世界も同じだ。



ではファクトの交差点は?


北斗と、ファクトの………




中心研究員夫婦の子、本人にコントロール力がなくとも霊性が高い、気楽な性格……。


「…気楽な性格かな!」

うーんと考えたリートが楽しそうに言う。

「え?それ接点?」

「ポラリス博士もそうですけど、気い遣わない!」

「…………。」

博士3人がファクトをじっと見る。

「何ですか?見ないで下さい!!」


「……それはあるかもな……。意味なくシリウスに好かれているし、人たらしというか………。何も考えてないというか…。」

ポラリスは自分の息子ながら思う。

「父さんに言われたくないんだけど!」

「まあ話しやすいよね。」


「それって関係ある?」

思わず大人にタメ口になってしまう。


「………。」

シャプレーはポラリスやリート、お気楽なタニア研究員たちを眺めた。


「………まあそれはあるかもな。」

「え?」

今度は一斉にシャプレーの方を他3人が見る。牧師であるがトップの科学者でもあるバリバリ理系の人が言う話か。


「あるだろ。人は誰でも、話を聞いてくれる人の場所には行く。」

「………でもこれは…」


「連合国は聖典信仰が基盤になっている。(しゅ)も話を聞かなかった家族や祭司たちでなく、砕けた心を持った人々のところに行っただろ。正確にはもうそこに行くしかなかったんだがな。」

そこは牧師っぽい話だ。なおこの時代、牧師資格を持つ者は珍しくなく、教授職や研究員なども神学を学ぶのでだいたいが牧師である。


「俺の心って、僕、心が砕けてます?」

と、ファクトは得意げな顔をする。宗教において『砕けた心』は誉め言葉である。自己の殻を割った心、主や人の言葉を受け入れる心、柔和な心を持っているということだ。

「違うだろ。誰にでもいい顔するだけじゃないのか?」

いきなり父がひどいことを言う。

「えー。そんなことないです!ファクトは優しいんですよ!自分の息子さんを誇って下さい!!」

「リートさん!そうっすよね?」

「話をしても聴いているのか自分事を考えているのか微妙だろ?」

「聞いてるよ!」

「えー?それは、博士の言う通りです!聞いてない、絶対聞いてないし!」

「リートさん!」



そんなタニア組を、シャプレーはただ眺めていた。




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