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ZEROミッシングリンクⅦ【7】ZERO MISSING LINK 7  作者: タイニ
第五十六章 世界は飛び交う、君の胸で

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20 手のひら返しの手のひら返し



エリスから重大な発表があるという。


「なんだ?離婚話か?」

「キファと同じで、あの夫婦は何回似たような話をするんだ?」


離婚話を公然としたことはないが、なぜかみんな知っている。というより、憶測でみんなそこにたどり着いている。

「まず別居とか?」

「それはもうしている。一緒に暮らす方が衝撃だ。」

「暮らすとか?!」

「……え。何のロマンスも生まれなさそう…。」

下町ズが聴こえないと思って好き勝手言っている。


小声なので誰も聞いていないと思っているが、実際は伝心できる人間が何人かいるのでそうでもない。不謹慎極まりないチコの弟子たちである。



エリスは最初に全体を見渡した。

「まずこの内容は、前もって聞いている者やニュースで知っている者もいるだろう。」


チコを見て立ち上がらせようとするも、目を逸らすのでそのまま話す。

「………今回、ユラス議長夫人であり、ナオス族族長サダルメリク・ジェネスの妻チコ・ミルク・ディーパが、ユラス民族バベッジ族の元族長次男の実子であることが判明し、ユラス首相が正式に公表した。元長兄一族の次男の娘だ。」

「え?」

「バベッジ族?」

初めて聞くメンバーたちが騒めく。


アーツや南海に来ている者は、講義の中で民族学も学ぶのでバベッジ族の名は一応知っている。きちんと講義が頭に入っていればだが。情勢やニュースに興味がなかったら、アジアでは誰もが知ることでもないであろう。ただ、今回ベガスに関わる話のため、アンタレスでもそれなりに報道はされている。


「……すごいことなの?」

久々にミーティングに参加するリーブラ、全く分かっていない。

「チコさんも父親がサダル族長みたいな存在だったってこと。バベッジは国は小さいけれど例えればほぼ一国の王だよ。」

ジリが説明してくれる。

「へー。」

分からないけど、返事はしておく。タイイーという実物王子様も来ていたのに、そんなに驚くことなのか。ナオスやオミクロンだけでなく族長王族クラスっていっぱいいるんだな……とリーブラは考える。


「けっきょく血統なんじゃん。」

「『実は親が…』系。」

妄想チームが言うも、

「だから血って意味あるんだろ?」

と、リゲルが呟いた。理由があるから、意味があるから繋がるのだ。


チコの父親はただの傭兵で母親は小国外交官の娘だが、祖父と叔父が厄介である。ギュグニーの(おさ)の一人だ。



「もしかして…『シー』?」

ある学生が不安そうにこぼした言葉を聴き取り、エリスが説明する。

「いや違う。議長夫人の父上はその弟だ。」

今は普通の傭兵であり、大きな声では言えない。幼くして死亡とされているが、生きていたということになる。現在、所在は不明と公表したままだ。


「『シー』って?」

習ったのに覚えていないメンバーが、陽烏(ようう)やユラス留学経験のあるモアのところに詰め寄るも、詳細は後で聴けと制された。『シー』はチコの伯父にあたり、幼少期にギュグニーに拉致されギュグニー共和国一国の長になっていた。30年近く前に死亡という情報が出ている。


「この件は、情勢に関心のある者しか見ないだろうが、想像以上に大きな変化を生むことだ。チコ夫人は戦争で複雑な人生経路を歩んできたので、親ともはぐれこれまで出身が分からなかった。霊線も深く絡まっていたしな。

それに、ユラスに何の後ろ盾もない状態で、議長夫人になり加えて6年間ベガスから議長の不在を預かった。」

チコもサダルもそれぞれの席で表情を変えずに聞いている。


「二人はユラス内戦のさなかに、カストル宗教総師長の引き合わせで結婚している。

少し失礼になるかもしれないが例えて言えば、ユラス・ナオス族という、当時中央は同族意識が限りなく強く排他主義の枠の中に、突然得体のしれない外国人の、しかも女性が入った…。

既に結婚決定の時から大変な状態だったんだ。」

チコの人となりを知っていれば悪くはない国際結婚だっただろうが、当時は身内同士も疑い合っていた時代。


「…………」

しんとする。


ここでは言わないが、チコは地理的に南寄りの不安定な国々に留まっていた職業元傭兵。それから、ユラスに来ても表社会に出ることはないかもしれなかった、オミクロン軍の特殊部隊工作員。顔も広くなく、軍隊の中でしか知られていない存在で、健康状態も分からない義体。

直系子孫もいない族長家系に受け入れられるはずがなかった。


そしてカストル総師長もアジア国内外から大批判を浴びる。

おいぼれ、痴呆がきた、歴史を見誤った、ユラスに肩入れしている、アジアを肥やしにしてベガスに独裁の基盤を作る気だと、ユラスからも同じように言われた。


そのため、新教が果たしえなかった宗教や人、世界の融和を目指していた正道教でも大分裂が起こった。



そして重要なのはこれからだ。



本来宗教人は百年、千年後の未来を見据えなければならない。


いつかこの歴史も、聖典によって我々が数千年前の歴史を覗いているように、誰かに見下ろされる時が来る。


しかし彼らは今、目の前で起きている全てに一喜一憂した。



時代はあの時「赤」だと言っていたのに、あっという間に「青」になり、そしていつの間にか「白」になっている。


聖典で『しかり、ある』と言っているのに、霊性時代が訪れるまで数千年邪険に弄ばれてきた霊性が、この時代に一気に開花したように。


中央行政は批判で大混乱になったが、思いがけないことが起ったかのように、国全体は内政の鎮静化に向かったのだ。その当時はそれさえ評価されなかったが。



二人の結婚により一気にユラスの内戦終結と、神の名においての大陸統一が進んだ。



それは神本的自由民主主義の勝利を意味していた。サダルが捕虜になりいなくなっても、ユラスの新鋭はアジアとの連携を捨てずに耐え忍んだのだ。これは、傭兵として南の数国を歩み、融和思想の正道教に入り、強化ニューロス化の時にアジア籍を得たチコでなければ放棄していたかもしれない大仕事だった。


アジアに関わる、もしくは関心のある女性でなければ、ユラスがまた強固な保守として内側に籠ってしまう可能性があったが、中道のチコがいたからそれを防ぐことができたのだ。



他の先進国家群と大きく違うのは、ユラスは宗教保守である。解放宣言をしても、この時代になってもしかるべき部分は前衛、解放主義に身を任せなかったのだ。




独裁政権の目的は東アジア、ユラスを分裂させることだ。

理由などなんでもいい。分断、分裂さえすれば。


混乱に乗じてユラスが疲れきるまでユラスを叩き、そして次は西アジアを狙う。その横に最大の東アジアがある。東端のフォーマルハウトは遠くとも、西寄りのアンタレスを叩けば、アジア中央と経済界を掌握できる。


また百年戦争の始まりであり、アンタレスには巨大な廃墟とスラムが広がったままであっただろう。



しかし、そうはならなかった。


アジアとユラスの中間に跨るアジアラインとメンカルの独裁主義。そして、国における閉鎖主義。

しかし、霊性においては既にその霊壁を撤廃していたのだから。



そして…

どこの馬の骨かも分からなかった一兵士は、バベッジ族(おさ)の血だった。


ユラス民族の最も少数派であり、奇人も多いが世界に分布し奇才の人物を多く生み出しているバベッジ直系の族長孫。



チコの評価だけでなく、カストルの評価が一気に変わる。

カストルの霊性や直感で視ているものは、一般の霊性師よりはるかに高かったということだ。古い古い過去から、遠い、遠い未来まで見据えて。

また本当の意味で、かつて生きてきた先人たちの生き様と魂を知っていたのだ。


彼らが死んで霊性になって初めて持った後悔も、未練も全て。




これにより、セイガ大陸に変化が起こった。



つまり、『手のひら返し』が起こる。


あの時代、カストルとチコを裏切ったり遠巻きにしていた者たち。


手のひら返しをした者たちが……

さらに『手のひら返し』をするのだ。



ベガスだけの組織、式典ならまだそうでもなかったかもしれない。

でも、今ベガスに各国の要人たちも来ている。


何よりも都市の維持という必要性において、既に移民ではなくアンタレス自体がベガス構築の担い手になり始めていた。その意志とノウハウを持つベガスに既に頼り始めていたのだ。東アジアも中核は保守だったが、世間に潰されないように、あまり声を大きくはしなかった。




そして、これらは一気に起こったことではない。


必ず長い積み重ねがあったはずだ。一度の奇跡のために、数十年、数百年、数千年の準備がいるように。東アジアの多くの人が、反対派やネットの声、マスコミに踊らされて世界の変化に気が付けなかったのだ。


結局、お互い攻め合っていたアジア庶民も、ユラス保守も似た者同士だったのだ。




これまでの経緯だけ簡単に説明すると、エリスはもう一度全体の様子を見渡した。


「そのため、今度の式典に参加を希望する国家や組織が一気に増えた。」

また会議室が騒めく。

「ただ、もう2週間もない。安全、警備上の理由で貴賓としてはご遠慮させていただいたところもある。」

一般の組織として来てくれということだ。


「…まあ、いろいろ思うことはあるが………

悪いことではない。」

エリスは周りを見据えてゆっくり話す。




そこで気が付く、アーツのリーダーメンバー。


エリス。顔には出さないけれど相当怒っている。当時、絶対にカストルを裏切らない、サダルを裏切らないと言っていた多くが、ベガスがマスコミで叩かれ始めると、カストルたちを悪人にしたり存在の無い者のようにして離れたのだ。


鶏が三度鳴くように。


離れただけでなく、本当に必死だった時に助けを頼んでも完全に無視した者、いちいちベガスを攻撃するようになった者。分派を作って反対派と組み始めた者。今だけ『正』なマスコミや自身の一般的な正義や経験論に踊らされている者。一時期アンタレスに足場がなくなり、カストルやチコたちは東アジアの一都市よりはるかに小さな他の国にまで助けを求めたのだ。

おかげで、他国との交友を深め、事業に関心のある第三国とダッグも組めたので結果よかったが。



しかし、元左傾向のエリスは正直ムカつく。

エリスの思考傾向は基本的に人に冷たい。真面目で仕事にはきっちり取り組む。でも、表には出さないが激しやすい部分もある。チコほど甘く差し引きもさせたくない。


愛と赦しの正道教、東アジアのトップの一人とは思えないほどだ。

はっきり言って、あの時人の話も聞かずに、聞いても勝手に解釈して話を喚き散らした奴らを、首根っこから吊るし上げ、それこそマスコミに売り渡したい。奴らがしたようにこっちが名誉棄損で訴えたい。ボロボロに消え入るまで追い詰めたい。


マスコミと弁護士、左傾宗教を使うのは本来なら得意の分野なのだ。その世界的立ち位置も上からの扱われ方も、思考系統もよく分かっている。


ただ、それにも、冷静になってバカバカしくなって冷めただけだ。



「……。」

立派に良いことを説明をしているような中に、エリスの含みを読み取る第1弾。


深い事情は分からないが、絶対に悪どいことを考えていると推測する、アーツの皆さんであった。



●左傾のエリス

『ZEROミッシングリンクⅥ』9 ウヌクVSエリス

https://ncode.syosetu.com/n2119hx/10



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