12 結局、鏡は自分に向けられる
「ふふ。でも、結局は戦争の原因も個人のしこりや我欲が極まって起こるものですから、個人の感情は重要な観点なんですけどね。」
シリウスはそう言って、なぜかファクトの方を見て困った顔で笑った。
「戦争を誘発するのも、この規模で起こせるのも、起こそうと思うのも人間しかいないしね。」
戦闘モードで熱くなっている男子に対し、ソラは考えながらシンプルに答えた。
機械が、AIが、アンドロイドが戦争を起こすのではない。
機械が起こしていても結局その髄は人間なのだ。
モーゼスも…………
シリウスの髄も人間だ。
シリウスはどこを見通しているのか分からない目でみんなを見た。
「そのために世界最強の技術を自由民主主義側から手放さないように、連合国や正道教が努力してきたでしょ?戦争の前に本来交渉があります。政権が変わる時もあったけれど、自由民主主義の国に最強の技術をキープしてこれたのは、ある意味人類の勝利です。
……取り敢えずここまでは………ですけど。」
ソラがそれに加える。
「それが終わると、今度は自由圏の洗い出しが始まる?」
「そう!」
シリウスはソラを褒めた。さすがタウの妹、大房民に一括されるが実はほぼ横の区民。下町ズを落とし込めるわけではないが、シンプルに頭がいい。
「一度は時代の天秤に掛けるわけですよね。例えばSR社のカノープス会長が奔放な性格の人でも、今の時代に必要な天啓のニーズを満たしていたわけですよね?だからSR社が強い。」
「それも一つの正解です。」
シリウスは笑った。自社の会長のだらしなさの話だが、世間も知っているので隠しようがない。
きっと、その後。天秤の重石が必要なくなった時に、奔放で分裂していた家系を変えていくのはシャプレーかその次の世代であろう。
ただ、シャプレーは結婚をしていないし、子供もいない。
「………。」
この辺りは小学生組はまだ理解できないらしい。大人しくなってボーと聞いていた。
しかし、さすがの下町ズにもこれは理解できた。何せ何度か講義を受けている。夕刻から参加する講義の日は、正々堂々とトレーニングを休めるのだ。それに大人だ。
敵を同じくする間は、仲が悪くても目的が違っても人は同盟を組み目的を果たすために努力協力もする。トップを勝ち取るために頑張れる。
でも、目的を果たしてしまったらどうなるのだろうか。
トップに立ってしまったらどうなのだろうか………。
過去の多くの帝国や大国がそうであったように、
鏡は今度、自分たちに向けられる。
自分たちの悪臭とも向かい合う。
人間そのものが成熟していかないと結局は滅ぶのだ。
そして、それは数億回繰り返しても人間の力だけではループするだけだ。
最後に戦争は、人間が苦しむ理由にも原因にもならない。人間が戦争の原因なのだから。
『戦争』自体は主体ではない。
主体はいつも人間だ。
そう。世界は全ての人が平等の世界を享受できるまで、全てを洗い流すのだ。たとえ連合国側が勝利をしても。
それが聖典の目的でもある。
本当の平和が現れるまで、世界は延々と洗い出しをする。時代も、個々人も。
そして、聖典の語る平和や愛は、横から誰かとして『現れる』のではない。
教導するものはあっても、最後は自身だ。
この他虐や自虐に埋もれてしまった世界を這い出し、
膿を出しきって、人間の核にたどり着き、
自身の中から『表れてくる』ものなのだ。
ラムダはポーと以前の講義を思い出した。
自由と独裁の次は、洗い出しは自由と自由圏に、国内に、親族に、そして家庭に、最後に個に向かう。
それまでに、人類が生き残るのかそうでないのかは人間次第だが。
「根本的に、戦争を語る主題を変えないといけないのかもね……。戦争そのものや、敵そのものの前に、なぜ戦争が起こるのか。自分は誰なのか。」
「その原因を他人に求めるのではなく、まず自身に照らし合わせるのがエリスさんたちの言ってたことだよね?」
そう言うソラに、ソイドが反応した。
「なるほど…。男の世界では戦争が終わらなかった理由がやっと実感で分かった!」
いじめで中学校をやめて家出したソイドが納得している。とにかく男は戦いや技や、勝ち負けや戦法が好きなのだ。
女の好きな恋愛などバカバカしいと思っている場合も多い。
実際、女性が『愛』を失って、不確定な恋愛に精神性を切り替えてしまったのだからしょうがないが、実際の『愛』は、全てを包括する。
自分たちが思っている恋愛は、物の側面でしかなく、次元が全く違うのだ。
では、なぜ女性が『愛』に傾くのか、男性も理解しない限り延々と事は終わらないし、女性も『愛』の本質がなんであるかを、崇高な部分と身近な部分で両方から見出していかなければならない。
イブが捨ててしまった「忍耐」が女性には必要で、男性にはイブがなぜ蛇に傾いてしまったのか「理解」が必要だ。
それが聖典の根本である。
しかし実は、旦那が妻を下に見て話しも聞いてくれないという、簡単な理由だったりするのだが。きっとエデンの園にいた蛇なら、社会的位置を捨てて家庭に籠り、自分の子供を身ごもってくれた女性が苛立っても、大事にしない男の代わりに大いに愛してあげたことだろう。
ただ蛇は主人ではないので、甘さと言葉以上ではないし、最後の責任は持たないが。
「…………」
ム~と、頭をかしげてテミンも考え、アルは既に目の前のココアに夢中だ。
「ムギ姉ちゃん、ココア好きなんだよ。……アイス融けちゃった……」
といいながら、アルは上に乗っていたソフトクリームを惜しみながらスプーンで回してチョビチョビ飲んでいる。
討論も一息ついたところで場が変わった。
「よし!太郎君!
四支誠にも猪がいるんだって!『ジビエとビストロ』ってお店にいるって聞いた!」
いきなり立ち上がるテミン。
そう言うとテミンは後方席に座っていた太郎君の前まで行き、いきなり引っ張る。
「はっ?」
驚いてしまうファクトに、ビビるラムダ。
なぜテミンが危険人物太郎君と?
「………。」
シリウスも、あらあら?という顔でその光景を見ている。
しょうがなくファクトは二人を追いかけ、さらに影で控えていた護衛のファイナーも動く。
ラムダも慌ててその後について行った。




