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エルフ

 私たちは、北部にやってきました。


「こっちはエルフ領が広がっていてあまり魔族と人間の戦場にならないのでは?」


「ここ数日、北部の魔族の動きがおかしい」


 継名は千里眼でみながらそんなことを言います。


「どうおかしいですか?」


「どうも魔族がエルフ領を横切っているとしか思えない動きをしているな」


 人間側が、急に現れた魔族軍にやられることがここ数日続いているようです。


「表だってではないが、エルフが魔族に協力しているようにみえるな。相手は好きに動けて、こちらは動けないとか不利すぎる確認しておいた方がいいだろう」


 実力は互角なのですから、地の利が取られるとすぐ負けてしまいます。


「どうしますか」


「まずは情報収集だろう。潜入して情報集めるのは、俺たちは簡単だからな」


 アストラル体、継名の言葉なら魂魄体があります。

 ほとんどの人間には認識できないため、盗み聞きするだけなら簡単です。

 ただ自由に動かせるのは、継名の憑依術を使っても二人まで。

 慎重に人選する必要があります。


 私たちがエルフ領に入ろうとしたところで、男女の二人組を見つけました。

 少し遠いですが、会話が聞こえてきます。


「ウイク、ねぇ。待ってよ」


「ついてくるなっていってるだろ」


「そんなこと言わないでよ。今は人間と魔族が戦争してるから、外は危険なのよ」


「そんなことわかっているから、ついてくるなっていってるんだろう」


「足手まといにならないようにするから」


「そういうことじゃないんだよ」


 普通の人間より耳が少し長めの種族が言い争いにしています。

 まちがいなくエルフです。

 国境付近まで出てくるのは珍しいです。


「手ごろだな。事情を知っていそうなあいつらにするか」


 そういうと、私の首根っこをつかみます。

 あ、またですか。

 若干投げられ慣れてきた私がいます。


ズゴオオオオオォォォオオー!


 剛速球になってエルフに吸い込まれます。

 男の方に。


「ちょっとなんでこっちなんですか」


 吸い込まれた瞬間に、思わず叫んでしまいました。

 股間にいままで感じたことのない感覚があります。

 何がついているかなんて正直知りたくありません。


「どうしたの? 大丈夫?」


 エルフの女が覗き込んできます。

 さっきまで言い合いしていたのに心配してくれます。

 ものすごく優しい方です。

 継名が目の前に飛んできました。


「手元が狂った」 


 わざではないでしょうか。

 口もとが若干笑っています。

 突然現れた継名に女エルフはびっくりしています。


「誰?」


「誰でもいいさ。どうせ忘れる」


 そういうと私を引き抜きそのまま、女のエルフに移し替えました。

 私は体を触ります。

 このあいだの女の子と違い背丈もスタイルも自分に近くて動かしやすいです。

 ようやく一息つきます。


「お願いしますよ。私、自分でこの魔法解けないんですから」


「わるいわるい。さすがに俺も女の体じゃ勝手が悪すぎる」


 私が自分の操る体を確かめている間に、継名も憑依していたようでした。

 手を開いたり閉じたりして、感触を確かめています。


「よしちょっと記憶を見てみるか」


 腕を組んで、目をせわしなく動かします。


「どうやらこいつは極秘任務で、魔族に誘拐されたエルフの姫を助けに行くところらしいな」


「今この瞬間極秘じゃなくなりましたよ」


 継名は私を指さします。


「その娘は、こいつが好きなんだろうな。秘めた思いってやつだ」


「今この瞬間すべて秘密じゃなくなりましたよ」


 この魔法、プライベートもあったものではありませんね。

 取り憑いた人間の能力しか使えなくなりますが、記憶を盗み見るのは自由自在です。


「こいつ姫の護衛で随分姫に入れ込んでいるようだな。姫の方は、全然その気はなさそうだ。そっちの娘には随分好かれているのに気づいてもいないみたいだし鈍感な奴だな」


 もうなんだか本人たちより人間関係理解してませんか。


「でもこんなにべらべらしゃべっていいんですか。私たちが抜けたら、記憶改変されるとはいえ随分混乱しますよ」


「そうだな。一芝居うっとくか」


「一芝居うつって、自分に芝居をうつのなんて聞いたことないですよ」


 継名は、紙をだすとすらすら書いて私に渡してきます。


「心込めて言えよ」


 そういって、継名は咳払いして言いました。


「どうしても理由は言えないんけれど、僕には命を賭してでもやらないといけないことがあるんだ」


 私はメモを読みます。


「理由は聞かないわ。それでもあなたのことが好きだから、何としてでもついていくんだから」


 なんで私は告白させられたのでしょう。

 これ本人にとっては一大イベントなのでは?

 勝手に私がこなしていいのでしょうか。


「よし。これだけ直接言われればいくら鈍感なこいつでも気づくだろう。このセリフをもとに、お互いうまいこといろんなことを察したことにして、記憶を改ざんしよう」


「そんなんでいいですか」


「多分こいつら俺たちほどじゃないが、長生きだから全然関係進まないんだよ。このくらいの刺激いるだろう。我に返った時、どうするか自分らで決めるだろ」


「継名ってあれですよね。強制的に頑張らせるというか」


「100年単位で、いつまでもお友達でいましょうねとか、面白くなさすぎるだろ。当たって砕けろだな。楽するのが幸せではないだろう」


「そうなんでしょうか」


 私は、神の領域でゴロゴロしているのも、それなりに幸せなのです。


「これからどうしますか?」 


「話は簡単だな。姫を人質に取られたせいで、魔族に加担することになったのだから、このままこいつの体で、姫を助けに行く。そうすれば万事解決だ。引きこもりの一族には今まで通り引きこもり願おうか」


 その通りなのかもしれませんが、なんかもっと言い方があると思います。


「潜入とか得意だから、任せておけ」


 逆に継名の苦手なことはなんなのでしょう。

 弱みとか少しぐらい見せてほしいものです。


◇◇◇


 潜入すると言ってた割に、継名は、木の皮を剥いだりと何やら作業をしています。


「継名なにしてるんですか」


「まずは準備だよ。潜入するのにこの衣装はないだろう」


 継名は鳥の羽やらが付いた白い衣装にため息をつきます。


「なんでこいつら知識もあるのに、ちゃんと有効利用しないだろうな」


 木の皮を煮立った鍋に放り込みます。

 水がどんどん黒く濁ってきます。


「よし、お前服を脱げ」


「な、な、な、何する気なんですか?」


 継名は神だから、そういうことに興味ないのではなかったのでしょうか。


「服染めるんだよ。交通安全じゃないんだから、夜潜入するときに、白い服きててどうするんだ」


「そういうことですか」


 私たちは、服をぬいで鍋に入れました。

 白かった服がどんどん綺麗な藍色になっていきます。

 染色ってやつですね。

 それはともかく、


「あのー下着だと、恥ずかしいのですが」


 私もそうですが、継名が憑依しているエルフもパンツ一丁です。


「お前……普段下着みたいな変な服してるくせに何言ってるんだ?」


 継名は私の服をそんな風に思っていたのですか。

 よっぽど継名の方が変な服ですのに。


「それに、その体お前の体じゃないだろう」


「なんだか、心の奥底から恥ずかしさが伝わってくるというか」


 この子からしたら好きな人に半裸状態を見られているわけですから、当然恥ずかしいのでしょう。


「仕方ないだろ。ちゃんと目的あるんだから、こいつらが替えの服を持ってないのが悪い」

 

 継名は服を煮込んでいる間にさっき皮をはいだ木から、別の物を作り始めました。

 なにやら筒のようです。


「なんですかこれ?」


「吹き矢だ。携帯する武器としては便利だろ。なんでこいつは潜入するのに馬鹿みたいにでかい弓を持っていこうとしてるんだ」


 継名は弓の弦をはじいて見せます。

 軽く弦を張りなおしているところを見ると、使えないから別の武器を作っているというわけではなさそうです。


「エルフの伝統ある武器ですからね」


「こいつは弓の腕も悪くなさそうだから、この間の副将軍よりはましだな。それにこいつ風魔法が得意みたいだな。俺の術と比較できるから、ようやく解析できる」


「解析ですか」


 どうやってやるつもりなのでしょうか。

 ステータスを確認すると、継名の魔力も1000程度にはなっています。

 人間の中でもそこまで行けるものはまれでしょう。

 吹き矢の矢を作りながら、継名がきいてきます。


「お前は魔法をどう理解してるんだ?」


「なんだか、すごいことができます」


 継名は、ものすごく馬鹿なのかと言いたげです。

 継名は悪口言わなくなってきましたが、目が口以上に物を言います。

 継名はため息ついて、質問を変えました。


「お前の認識だと、属性はなにがあるんだ」


「火、水、土、風、光、闇です」


「なるほどな」


「継名の世界はどうなんですか」


「火、水、土、木、金だ」


 火と水と土は同じです。木はなんとなくわかるものの、金が変な気がします。


「あれ? 継名の風はどこいったんですか?」


「風は木に含まれる」


「そうなんですか? なんか変な感じしますけど」


「木を普通の木ととらえるとそうかもな。木は、空気を生み出す存在だから、木は気体を意味する。気体の流動がつまり風だ」


「意味がわからないのですか」


「昔はおれもそうだった。でも科学を勉強してから、属性の意味合いの理解がかわったんだよ。火属性は火を操る属性ではなくて、分子を振動させるだから極めると逆に分子を停止させて、氷結させることもできる。土属性は、固体の流動と元素の創生、金属性は元素の結合、水は液体の流動、つまり、魔法とは、どのように物理現象を捻じ曲げているかということだ」


「全然わからないのですが」


「これがわからないと相生が使いこなせないし、簡単に相克される」


「もっとわからなくなりました」


 どんどん継名の専門用語が出てきます。

 相生とか相克とか、なにもわかりません。


「やってみせようか」


 継名は両手の人差し指にそれぞれ小さな竜巻を発生させぶつからせます。

 しばらくして、竜巻を止めると、指さしました。


「よしこのあたりさわってみろ」


 私はそろりと指を伸ばします。


「あちっ」


 なんですか。火傷しそうになりました。


「風をぶつけて摩擦させることによって、熱を生み出した。これが相生、木生火。木属性で火を起こす原理だ」 


 そのまま、落ち葉一枚つかんで、ボウゥと燃やしてみせます。


「ちょっとだけわかりました」


 百聞は一見にしかずですね。

 実感できると理解できてきます。


「俺が使う妖術は気体を動かすことしかできない。精神エネルギーである妖気自体が方向性つまり属性をもっていて、こっちの世界の魔力に比べて汎用性が低いんだよ」


「そんなにいろいろできるのにですか?」


「いろいろできるように見えて、やってることは空気を動かしているだけなんだよ。それに対してこの世界のエネルギーは、方向性がない。属性が魔法構造か個人にあると思われる」


「その違いで何がどうかわるんですか」


「個人に属性がある場合は、無理だが、魔法構造に属性があるのなら、魔法構造を書き換えられるようになれば」


「なれば?」


「俺でも、創世魔法が使えるようになる」


「はい!?」


 もしかしてそのためにがんばってるんですか。

 

「さあ、気合いいれて解析するか」


 目が爛々と輝いています。

 創生神になりたいって前言ってましたが、本気だったんですね。

 自分の力で創生神になる気満々です。


「世界は俺のものだ」


 セリフが完全に悪役側ではないでしょうか。

 どう考えても邪神です。

 継名が邪神です。

 間違いありません。


「はっはっは」


 継名は高笑いして、野望にもえるのでした。

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