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魔王

 荘厳な扉を見つけ中に入ります。

 広々とした空間の先に禍々しい玉座があります。

 ただ玉座は空です。

 周りをみると、妖艶なダークエルフがいました。

 スタイル抜群で、浅黒い肌と長い耳が特徴です。


「どうぞこちらに」


 継名が案内されるままについていきます。

 通されたのは、先ほどとは違い小さな部屋で、応接間のようです。

 装飾品がたくさんかざってあります。


「魔王様はすぐきますので、こちらでお待ちください」


 継名は堂々と、椅子に座わります。

 継名が真ん中に陣取ったので、私は端の方に小さくなって座りました。

 ダークエルフが持ってきた飲み物をなにも気にせず飲みます。


「うまいな」


 私の分もあったので口をつけます。

 甘酸っぱくおいしいです。

 私が幸せそうに飲んでいると、継名がきいてきます。


「お前、毒は大丈夫なのか?」


「毒!?」


 そんなものが入っていたのでしょうか。


「これには入ってなかったが、俺は毒耐性も強いから、俺が大丈夫だからって食べるとあたるぞ。まあ、神だから苦しいだけで死ぬことはないだろうが」


「どのくらい苦しいのでしょうか」


「致死性の毒なら、死んだ方がましって思うぐらいだな」


 次から、なにも考えず、口に入れるのはやめることにします。

 毒が入ってなくて良かったです。

 毒が入っていたら、苦しいうえに魔王と一緒に殺されていたかもしれませんが……。

 おいしい飲み物のおかげでしょうか。

 継名の機嫌も先ほどより随分いい気がします。

 しばらくすると、一人の男が入ってきました。

 魔王でしょう。

 神の間から力を感じることはありましたが、近くで見るのは初めてです。

 長年魔族を統治しているはずですが、思ったより見た目は若々しく人でいうと二十代後半に見えます。

 男は入ってくるなり、一礼しました。


「我が部下が大変失礼な真似をした。もはや力の差は歴然。戦って勝てないことはわかっている。我が命で釣り合いがとれるかどうかはわからぬが、どうか魔族は滅ぼさないでほしい」


 魔王の誠実な態度に、継名は笑顔になります。


「よし! 気に入った。滅ぼさないでおいてやる」


 やりました!

 また私は九死に一生を得ました。

 さすが魔王です。

 魔王万歳。魔王万歳。


 ……なんで私は、魔王を褒め称えているのでしょう。


「それで神が魔族領まで出向いてきたのは、これ以上人間領を攻めるなということでしょうが、戦火は切って落とされている。今さら神が、戦いを止めようとしたところで止まるものではない。我々魔族の目的は、人間を滅ぼして、この世界を我々のものとして、平和に生きていくことなのです」


 魔王は神妙な面持ちで慎重にしゃべりました。 

 継名は頷きました。


「そうか。頑張れよ」


 頑張れよ?

 はい? ど、ど、どういうことですか?


 私が内心焦っていると、同じように理解できていない魔王が継名に尋ねました。


「ん? そちらの要望は、これ以上人間を攻めるなということではないのか?」


「俺は話しを聞きに来ただけで、お前らはお前らのために頑張ればいいんじゃないか」


「そんなぁ」


 私は不平不満が口からでてしまいました。


「それじゃ人間が負けてしまいます」


「しらねぇよ。元はといえばお前が、いろんな世界からいろんな種族を連れてくるからこんなことになってるんだろうが」


「そんなこと言われても」


「知的生命体二種類いるなら、片方だけ肩持つのはマナー違反だろ」


「なんでですか」


 創生のマナーなんてあるのでしょうか。


「子供が二人いて片方だけに愛情注いだら拗ねるぞ」


「子育てと一緒にされても」


 私たちのやり取りを見ている魔王は目を白黒させています。


「つかぬことを聞くが、そちらの見目麗しき付き人とはどういった関係で?」


 は?

 私が付き人?

 何言ってるんでしょうか、この魔王は?


「他人だ」


 継名が答えました。

 たしかにそうかもしれませんが、

 なんかもっと他に答えようあると思います。

 下僕とか言われるよりはましなのですが。


「奥方とかではないのだな」


「断じて違うぞ」


 それはその通りです。

 断じて違います。

 私も首を縦に振ります。

 魔王は咳払いをすると私の目を見ていいました。


「ならば、我が世界を治めた日には、我が妻となってほしい」


 ついでに私の手も握ってきます。


「はい?」


 な、な、な、なんで私は今プロポーズされたのでしょうか。

 よりによって魔王に。

 意味がわかりません。

 びっくりしすぎて、後ろに無表情で直立して控えていたダークエルフさんも傾いてしまっているではありませんか。

 私が動揺してなにも言えずにいるとかわりに継名が答えました。


「いいぞ」


 いや、さっき他人だって言ってましたよね。

 なんで勝手に許可出してるんですか。


「なんにも、よくないです。だいたい私は創世神ですよ」


「創世神?」


 魔王が首をかしげます。

 私のステータスを確認している感覚がありました。


「納得してくれましたか」


 勇者を送り込み、魔族を滅ぼそうとしている張本人です。

 魔王からしたら敵の総帥です。

 仲良くするのも、無理なのに、ましてや結婚なんて無理無理。絶対無理です。


「我が世界を統一したあかつきには、女神よ我が妻となって欲しい」


「……どうしてそうなりますか?」


 ちゃんと神だと説明して、魔王も納得したのに、結論が一緒なのでしょうか? 意味がわかりません。


「愛の前には、神かどうかなど些細な問題」


「大問題ですよ」


 恋は盲目といいますが、どうしてこんなに話が通じないのでしょうか。

 ダークエルフさんはもう座り込んでいます。

 もしかして、泣いているのでしょうか。

 目の前で上司が敵の親玉に求婚したら泣いても仕方ありません。


「いいだろ別に結婚ぐらい。俺はなにも失わないし」


「私は私を失うんですが」


「別に命を失うわけではないだろう。いいじゃないか。貞操ぐらいくれたれよ」


「い、嫌ですよ」


「大丈夫だ。魔王の遺伝子次第だが、お前は元人間だから、子供ぐらい作れる」


「そんなこと心配してません!」


 大事なことだから覚えておけってそういうことですか。

 あんまりです。


「お前は、本当にわがままなやつだな。だいたいよく考えてみろ。魔王軍が、人間にかったら、人間側は滅ぼされるかよくて奴隷だ。だが、お前が魔王の嫁になれば、人間とどうか仲良くしてくださいと懇願できるだろう。そしたら魔王も人間と仲良くなるだろう」


「やぶさかではない」


 魔王も頷きます。


「そしたら、魔族も幸せ、人間も幸せ。みんな幸せでいい世界じゃないか」


「私一人だけ不幸なのですが」


「必ず幸せにしてみせる」


 魔王が宣言します。


「そういう問題じゃありません!」


「わかったよ。まずはお互いを知るところからそういうことだろ」


「そういうことでもないのですが」


 継名は魔王城まで合コンでもしにきたのでしょうか。 


「よしわかった。こうしよう」


「魔王よ。魔族が勝ったら、こいつとデートはセッティングしてやる。具体的には、そうだな。こいつの住処と魔王城を行き来できるようにしてやろう。結婚したいのなら、自分の力で惚れさせてみろ」


「それは確かにその通りだ」


「今はかなり魔族優勢だろう。四天王で強いといってるようじゃ、人間はかなり貧弱だろうからな。さすが俺もワンサイドゲームを見てるのは楽しくない。俺が直接魔族を攻撃したりはしないが、俺は人間側に荷担する事にする。恋の障壁は高い方が燃えるだろう」


「わかった。いいだろう」


 なんか勝手に話がまとまってしまいました。

 なんでそうなってしまったのでしょう。

 よく考えると、勢いだけで、魔王城まで乗り込んできたので、継名には私の事情を全然話していないのです。


「私は勇者を育てないといけなくて」


「人間が勝つために頑張って育てろよ」


「そうではなくて、レベル1000の勇者を育てるように、最高神から言われてて……」


「魔王討伐ではなくて、勇者育成の指示を受けてるのか」


「そうです」


「なんで手段と目的が入れ替わってるんだ? 魔王倒すために勇者育てるのはわかるが、勇者育てるために魔王倒すのはよくわからんぞ」


「それはよくわかりませんね」


 言われてみるとその通りです。


「お前は、本当にわからないことをわからないままにするのはよくないぞ。とりあえず、よくわからないことは無視だ」


「最高神様になんていわれるか」


「最高神は、お前の上司であって、俺の上司じゃねぇぞ」


「それはそうですが、最高神様はものすごく強くて」


「強いとか、弱いとかどうでもいいんだよ。初めからだが、その最高神とかいうやつが、俺は気にくわない。お前が俺の決めたことを気にくわないって言うんなら今すぐ決闘だ。俺はお前の首をもって、最高神に殴り込みにいく」


 なんで継名は最高神様まで喧嘩を売りに行くことになったのでしょうか。

 怒らせるつもりはなかったのですが。


「女神を攻撃するというのなら、我は女神の助太刀をするぞ」


 魔王が話に入ってきます。


「ちょっと魔王は黙っててください」


 すでに頭が許容量超えているのに、これ以上こんがらがらせないでください。


「ぐぬぬ」


 私が言うとだまってくれます。

 愛の力は偉大です。

 継名が話を続けます。


「俺はお前の思考を奪ってまで言い聞かせてはないだろう。お前の術の使い方なんて俺は知らん。最高神が強いというのなら、今すぐ最高神とかいうやつのところに逃げ出して、俺を倒してもらえばいい」


 私には継名の服従魔法がかかっていますが、継名が効果を使ったことはありません。


「どうするんだ。三択だぞ、戦うのか、逃げ出すのか、従うのか」


「私が継名から逃げ切れるわけ……」


「逃げるって言うなら見逃してやる。そのかわりこの世界は俺がもらい受ける」


 戦うなんて論外です。

 勝てるわけありません。

 実質は二択。

 実は最高神様も、よく話したことがないので、逃げ出して世界を明け渡してきたなんて言ったら最高神様に殺されるというパターンもありえます。

 確実に生き延びる為には、従うしかありません。


「従います……」


「よし。最初から、そう言えばいいんだよ。そもそもなんでこんなことになっているかいってみろ」


「私が継名の世界から、人間を誘拐したから」


「それから?」


「継名を奴隷にしようとしました」


「だから、誰が悪い」


「私の自業自得です」


「よし。ちゃんとわかってるならそれでいい」


 継名も落ち着いたのか、はーと息を吐きだします。


「それに自分で言うのもなんだが、俺は神だから自分が気に入った願いは叶えてやりたいと思う。お前の願いはなんだ?」


「レベル1000の勇者を育てることです」


「なに言ってるんだお前、それは最高神とやらからの指示だろ。会ったこともない奴の意味わからん願いなど俺は知らん。もう一度きくぞ。お前の願いはなんだ?」


 私の願いそれは、

「みんなが平和に暮らせる世界にすること」


「お前がいうみんなというのは、人間のことだろう」


「その通りです」


 私の言うみんなの中に魔族は含まれていません。

 だから、最高神様の指示である勇者育成と私の願いが共存していました。

 魔王と結婚は嫌ですが、他の平和への道を提示されてかなり混乱しています。


「お前が馬鹿でまぬけで頭空っぽなだけで、たいして悪いやつじゃないことはわかってる。やってきたことは気に食わないが」


 それは身に染みています。


「まあ、願いとしては悪くないんじゃないか、ただな俺は元人間でもあるし、妖怪、つまりこっちでいう魔族みたいなものでもあるんだよ。だから、魔王の願いもよく分かるから、叶えてやりたいと思う。おい、魔王一つ気になっているんだが、どうしてお前自身で人間を攻めないんだ? すぐ片が付くだろう」


「レベルが1000になると呪いが発動する事が分かっているなので私はこれ以上戦うことができない」


 私は魔王のレベルを確認しました。


魔王 レベル998


 確かにあと二つで1000になってしまいます。


「たしかになんかかかっている感じはするな。ただ俺じゃ俺が使うものと術式が違いすぎて解析するのは、無理だな」


 ちらりと継名は私をちらりと見て、ため息つきました。

 何か言ってくださいよ。

 たしかに私もわかりませんけど。


「かけたのは邪神ってやつか」


「あなた方でないのならおそらくは、ただ我らは邪神とやらを崇めたりはしていない」


「確かに呪いをかけてくるような奴を好きにはならんだろう。イミューは心当たりないのか」


「えーと、そうですね。私が生まれる以前に神と悪魔の間で戦争があったという話は聞いたことがあります」


「悪魔か。邪神をさしているのか。全然違うやつのことなのか。よくわからんな。本当によく分からんことばっかりだな。ただわからないことを悩んでもしかたないだろう。とりあえず、今後の方針というか細かいルールをきめようか」


「いいだろう」


「魔王軍は今まで通り、人間を攻めるといい。ただし、魔王は指揮はしてもよいが、魔王自身が戦うのはダメだ。どっちにしろ戦えないということだがな。こちらも俺ら自身の力で魔王軍を攻撃したりはしない。人間達の能力を解放したり戦術を教えることで人間をフォローしよう。最終決戦は、そうだな。大陸の中央部にしておこうか。最終決戦のこの地で、魔王軍が優勢だった場合、この世界をお前好きにするといいが、イミューとデートさせてやるから、イミューの願いを聞いてやるんだな。もし人間が優勢立った場合は、お前がこの地で力を見せつけ、人間に停戦を申し入れる。そこにこいつイミューが現れて、停戦を認める。イミューは人間の代表というわけではないが、人間達は女神を崇めている人間が多いから表面状は争いがなくなるはずだ」


「負けたときも、争いを止めてくれるというのなら、むしろこちらにいい条件しかないように思えるが」


「さっきも言ったが、俺は元人間であり妖怪、つまりこちらの世界で言う魔族でもあるんだ。人間も魔族もどちらもかわいい子供達だ。世界が平和になればそれでいい」


 確かに世界は平和になる気がします。ただ、ものすごく、


「八百長じゃないですか」


「いやなら、この場で盛大に魔王と女神の結婚式をあげて、戦争を有耶無耶にするという案もあるんだぞ」


「八百長すばらしいです」


 私は誰に負けないぐらいの勢いで、手のひらを返しました。

 他に代案がないぐらい八百長案は素晴らしいと思います。


「おい。そこの娘も結婚式はなしだから、それでいいな」


 どうして継名はダークエルフさんに声をかけたのでしょう。


「他言無用だ」


 継名がそういうと、ダークエルフさんはこくりと頷きました。

 ああ、たしかに他の人に話されては困ります。


「よし。じゃあ、この場は解散としよう」


 継名の言葉で、お開きとなりました。

 本当に継名は魔王と話をしに来ただけだったのでした。

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