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空の旅

 一晩たって、魔王城に出発する事になりました。

 ここから魔王城まで数千キロはあります。

 長い旅路の始まりでした。

 どうやって行くつもりなのかと思っていると、なんと継名(つぐな)は背中に翼を生やすことができるそうです。


「天狗なんだから当たり前だろ」


「私は天狗というのがどういう種族なのかまるでわかりません」


「翼をもち空中を飛翔する化け物を総じて天狗というんだよ。俺みたいな人からなったやつもいれば、鳥からなるやつもいる。俺の国での話だがな。隣の大国では文字通り空を飛ぶ犬のことを指したらしい」


「ということは、ハーピーとかも継名の国では天狗と呼ぶのですね」


「俺は、ハーピーがよくわからないが、翼生えてるならそうなるだろうな」


「それにしてもどうやって体の中に隠していたでしょうか?」


 漆黒の翼は恐ろしく大きく、圧巻です。


「どうなってるって、やり方教えたばかりだろ」


 やり方を教えた?

 なんのことでしょうか?


「翼を生やす方法なんて教わっていませんよ」


「お前は十教えて一しか覚えないな。ダイエットしたとき魂魄体の形を変形させて、実体に影響させただろ。あれの応用だ」


「なるほど」


「俺の場合は、翼が生えている方が自然な状態なんだが、魂魄体の時に体の中に押し込んで実体になれば、収納できる。妖怪なら大概のやつはできる。妖怪変化ってやつだ。魂魄は本来の形に戻ろうとするから、変化するのは疲れるがな。それに俺みたいに完全魂魄体になれるやつは少ない。あれは神格がないとなかなか厳しい」


 完全魂魄体というのが、アストラル体のことでしょう。

 

「継名の世界のこと、わかってきました」


 モンスターのことを妖怪と呼び、呼び方が随分違うということでしょう。

 微妙にニュアンスが違うと言語魔法が変な風になってしまいます。

 継名(つぐな)もそうですが、継名の世界の住人の名前は随分変ですし。

 名前だけは、言語魔法でも絶対変換されないため、舌が痛くなってしまいます。


「ひさしぶりに本気出して飛ぶか」


 そういいながら、継名は翼を動かしてウォーミングアップしています。

 魔王城まで大きな山脈を越えなければならなかったのですが、飛べるのであればなんてことはありません。


 継名については。


「あのー私は飛べません」


「まあ、そうだろうな。仕方ない運んでやるよ」


 どうやって運んでもらうか思案した結果、お姫様抱っこになりました。

 継名は、私を抱えると、継名は力強く大地を蹴り、簡単に飛び上がりました。

 ぐんぐん大地が離れていきます。


「継名、重くありませんか?」


「この間の体型だったら重かったんじゃないか」


「ちょっとやめてください。トラウマなんですから」


 気分はどんより、お空は快晴。

 いつの間にか雲より高いところに来ていました。

 晴れているのが当たり前です。

 継名が羽ばたくとぐんぐんスピードを上げていきます。

 下に見える景色がすごい速さで流れていきます。

 爽快です。


「なんかもっと風圧とかで、あばばばばとなるかと思ったけど、快適ですね」


「そりゃ、風の能力使いながら飛んでるからな」


 さすがです。

 楽でいいです。

 お空もきれいでいい感じ。


「せっかく遠くまで見渡せるんだ。絶景ポイント、教えろよ」


「絶景ポイント? なんですか」


「折角世界そのものから作ったんだから、景色がいい場所とか創らなかったのか?」


「そんなことまで、気が回りませんでした」


「もったいないな」


 適当に海ドーン、大地ドーン、空気ブワァって作っただけでした。

 なので、私が作った世界は大きな大陸が一つだけです。

 もっと凝った島々とか作ればよかったかもしれません。


「今更、住んでる人間がいるのに作り替えるわけにもいかないか。でも千年もあれば、地殻変動で自然にいい感じになってるところもあるだろう」


 全然気にしたこともありませんが、探せばあるかもしれません。


「俺も創世神になったら、夢があってな」


 継名がぽつりと言いました。


「夢ですか」


「まずはすっごい高い山を作って、その頂上から見える景色を素晴らしいものにしてみたい。そこに山があるからとかなんとかいって、特に意味も見いださずに、山を登山する奴を応援してな。そいつが山の頂上に立ったときに、感動に打ち震えるそんな横顔が見てみたい。だが、そう簡単に登れるような山を創るつもりはない。何十年かけて……いや、それどころか世代を越えて登るような。そんな山々を作ってみたい」


 継名は楽しそうに語ります。


「あとはそうだな。砂嵐に巻き込まれて、何日もさまよって、もう死ぬって時に現れるようなオアシスも作ってみたいな。どうにか生き延びたと安堵して生きる喜びをかみしめている人間も見てみたいな」


 そんなこと考えたこともありませんでした。でもなんだか


「すごくいい気がします」


「俺は戦いの神だから、争いも戦争も否定はしない。競争がなにもない世界は進歩がないからな。けど、やっぱり敵とじゃなくて、自分自身と戦ってるそんな人間を見るのが好きだな」


 継名の考える世界創生はとっても自由に思いました。

 自由気ままに世界を創る。

 私もそうできたらどんなに良かったことでしょう。

 指示されて世界創生するのではなく、もっと自分の意思で世界を創ることができていたら。

 もっと焦らず、いい世界を目指せたのでしょうか。


◇ ◇ ◇


 しばらくしてから継名は言いました。


「そろそろ高度下げるか」


 旋回しながら、高度を下げていきます。

 雲に当たった瞬間、雲がはじけて、散っていきます。


「何故、雲に当たらないのでしょうか」


「ソニックブーム発生してるからな」


「ソニックブーム?」


 私は思わず聞き返しました。

 聞きなれない単語です。


「ああ、音速を越えると、空気の圧縮が限界値を越えて、衝撃波が発生するんだ」


 衝撃波!?


「ど、どんな威力なんですか?」


「そうだな。人間が間近で食らえば、跡形も残らない」


「跡形も残らない?」


 えっ? 今私はそんな恐ろしい技の中にいるのですか。


「地表近くをこの速度で飛んでるだけで、世界は崩壊する」


「世界が崩壊?」


 威力も規模も桁違いなのですが、

 ただ移動するだけで、世界が崩壊するって想像できません。


「う、嘘ですよね」


「ちゃんと地表に影響でないように、威力減衰させてるから安心しろよ」

 

 継名はしれっといいますが、なにも安心できる要因はありません。

 世界を崩壊させる技を完璧にコントロールしてるということでしょう。

 むしろ不安が爆発してきました。

 今更ながら、とんでもない人と一緒にいます。

 今すぐ逃げ出したい。

 ただ、こんな上空で逃げ出すことなどできません。

 もし継名の魔法の制御圏からちょっとはみ出したら、私もきっと消し飛ぶのでしょう。

 何も考えず、のんきに運ばれていたさっきまでの私をぶん殴りたいです。


「さて、そろそろ魔王城だな」


「えっ? ちょっと待ってくださいまだ出発してから一時間もたってません」


「あの砂漠のまちから魔王城まで3000kmぐらいだったから、マッハ3で進んでるんだからあってないか?」


 継名は私が不思議そうなのが、不思議そうです。

 どういう計算をすればいいか見当もつきませんが、継名がそういうのだから、きっとあっているのでしょう。

 つまり、ものすごく速いことはわかりました。

 こんな世界が崩壊する速度で魔王城に突っ込んだら大変です。

 教えておかないといけないことがあります。


「魔王城の上空は魔法障壁で守られています」


 激突すればただではすみません。

 大けが必須です。


「そうなのか。じゃあ、速度緩めずそのまま突っ込むか」


「う、嘘ですよね」


 私が情報を提供すればするほど、私の望みと真逆の回答がくるのはなぜなのでしょう。

 ただ少し継名も悩んでいるようにみえました。


「ど、どうしましたか?」


 さすがに速度を落としてくれるのでしょう。

 そうに決まっています。

 そう思っていると、全然想定外の言葉が返ってきました。


「技名は何にしようかと思って」


「技名なんて今はどうでも……」


「そうだな。お前に決めてもらうか。女神突撃弾か、女神音速衝撃波どっちがいいか」


「えーと? 女神突撃? 女神衝撃波?」


 なぜ技名に女神が入っているのでしょうか。

 まるで私が技を放つような。

 なんだか嫌な予感がします。

 私が理由を問い合わせようとすると、


「女神神風特攻とかでもいいぞ」


 選択肢が増えました。


 ん? 特攻?


 私が技を放つと言うより、まるで私が……、


「おい。もう時間がないぞ。早く選べ」


 継名がせかしてきます。


「ちょ、ちょっとまってください」


 抗議する時間すらもらえません。


「急に止まれるわけないだろ。もうタイムオーバーだ。さあ、いくぞ」


 継名は私を丸めます。

 団子むしか、アルマジロにでもなった気分です。

 そのまま周りの空気を固められて、身動きがとれなくなりました。

 私のおしりを片手で持ちあげます。

 どう考えても投げるモーションに入ります。


「やめてぇ」


 わたしの抗議など聞くはずもなく、継名は私を目の前に見えた魔王城にむかって投げつけました。

 砲弾のように私は一直線に魔王城に飛んでいきます。


「いやあああああああああ」

 

 顔が魔法障壁に当たりました。

 ガガガガガガガガガガガガガガガ。

 痛くは、ありませんが目の前の魔法障壁が、恐ろしい衝撃波で、くたけるのをほんの数ミリ手前で見るのがなんと恐ろしいことか。


 バリバリ、ガシャーン。


 完全に砕けた瞬間、私の勢いがなくなりました。

 空中に体を投げ出した形です。


「あああああ」


 私はそのまま自由落下に移行します。


「ぎゃああああああああ」


 地面に激突すると思った瞬間


「よっと」


 スタっ。

 継名が綺麗にキャッチして、私を何事もなかったように地面にたたせます。


「よし完璧な手加減だな」


 継名は自画自賛します。

 見上げると、魔法障壁だけが砕けており、魔王城も城下町も被害はゼロです。

 確かに完璧です。


 私の心以外は。


「な、な、なんてことさせるんですか」


「ん? どうしたんだ。別に痛くもかゆくもなかっただろ?」


「痛くないからといって、やっていいことと悪いことがありますよね」


 ようやく私は抗議することができました。

 自分の気持ちを口にすることができました。

 本当に継名は信じられません。

 私を何だと思っているのですか。

 それに私は怒っているのに、

 継名は笑っています。


「なんだ。少しはわかってきたじゃないか」


「えっ?」


 どういう意味でしょうか。

 私がいぶかしがっていると、継名が私に言いました。


「お前は自分が世界に投入した勇者は、二人も死んでるんだぞ」


「あっ……」


 そうでした。

 私にそんなことを言う権利まるでありませんでした。


「そういうのをな。俺の国の言葉で因果応報というんだよ」


「因果応報……」


「善い行いをすればよい報いがあり、悪い行いをすれば悪い報いがある。なにが良くて、何が悪いかは自分で決めたらいい。だけど、今自分が言った言葉はちゃんと覚えておくんだな」


 やっていいことと悪いこと、私はいままでしっかり考えて行動してきたのでしょうか。

 相手が承諾しているから、

 最高神様の指示だからと

 状況に言い訳していました。

 いいことなのか、悪いことなのか自分で判断してきたでしょうか。

 継名の言葉が、すごくすごく私の心に突き刺さるのでした。

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